テストや試験という言葉を聞くと、思わず顔をしかめたくなる人も多いと思います。テストの情け容赦ない学力測定は、時には一種のトラウマを残すくらいの威力を持っていると個人的には思ったり思わなかったり……。そんなテストですが、捉え方を変えるだけで強力な学習ツールとなります。今回はテストの効力と、上手な利用方法についてお話します。
テストは科学的に最良な学習方法のひとつ
テストを行うということは、学習した内容を思い出すということです。この思い出すという行為が、知識の定着にはとても重要なプロセスであることが分かっています。人間の脳というのは、意外と怠け者で、将来必要になりそうな情報以外は覚えることを拒絶します。何度も繰り返し思い出すと、脳は「この情報は将来使うに違いない」と考え、記憶が定着するのです。これは、心理学的実験や、MRIを使った脳科学的な実験からも明らかになっていることです。
さらにテストは、実際にはテストされていない関連事項の記憶をも定着させます。例えば、穴埋め問題があったとします。何を埋めればいいのか考えるとき、答えの候補を比較するなどのために、自分の脳内にある色々な知識・記憶を思い出して考えますよね。つまり、テストというのは、答え以外の周辺知識も活性化させ、定着させるというわけです。
これだけでも十分な効果を持っているテストですが、さらにもう一つ素晴らしい効果があります。それは、学んだ知識が、自分のもともと持っていた知識と結びついて、ほかのことに応用できる力が身に付くという効果です。例えば、数学における論理的思考能力を文章理解へと応用することができる、というわけです。テストは、言わば「死んでいる知識」を「生きた知識」へと変えてくれるものなのです。
記憶の定着に関しても応用力に関しても、ただインプットしたりマインドマップ(メモリーツリー)を作ったりするよりも、テストをするほうが効果的であることが、比較実験などから分かっています。
効果的なテスト方法
ここまで読んできて、「たくさんテストを受けさせられてきたけど、そんな効果感じなかったよ! 」と思っている方もいるかもしれません。その理由の一つには、学力を測る意味合いでのテストしか受けてこなかったという可能性が挙げられます。この場合は、テストが返ってきても、点数だけしか見ていないという場合が多いと思います。
復習はやっぱり重要です。鉄は熱いうちに打てと言いますが、復習もそうで、できるだけ早く行うのがよいのです。よくある単語テストのスマホアプリは、答えを選ぶとすぐに正解か間違いか、間違いなら正答を教えてくれますよね。本当はあのくらい早い方がいいみたいです。
さらにテストが返ってきた後は、復習だけではなくフィードバックもしましょう。どうして間違えてしまったのか、ケアレスミスなのか、知識不足なのか、次回のテストまでにどうすれば改善できるのか。このようなことを自分自身に問いかけましょう。
ほかには、自分が一度正答した問題でも、何度も繰り返すことも重要。正答した問題は、勉強の場合は除外しても差し支えないようですが、テストの場合は、正答したからといって除外してしまうといずれ忘れてしまうことが実験から明らかになっています。その実験によれば、正答した問題を除外してテストを行うというルールのもと数回テストを行ったグループと、除外しないで数回テストを受けたグループでは、最後のテストを受けてからたった一週間後においても、記憶している量に2倍も差があったのです。1、2回正答した程度ではテストから除外しない方がよさそうです。
資格を取るにせよ、単語帳を覚えるにせよ、テストを行うことは知識の定着において非常に重要であることがお分かりいただけたと思います。テストは、市販のものを利用してもいいですし、自分で作っても大丈夫。重要なのは、テストを単に「今の学力を測るもの」だと考えず、「最高の学習方法のひとつ」だと思い、繰り返し行い、そのたびに復習やフィードバックを欠かさないということなのです。
(参考) Annie Murphy Paul著,日経サイエンス編集部訳(2016),「テストで学ぶ」,『日経サイエンス』2016年2月,47巻,2号,pp.92₋99. Karpicke, J. D., & Roediger, H. L. (2008), "The Critical Importance of Retrieval for Learning," Science, 319, pp. 966-968.