「同僚は、自分のことをどう思っているんだろう?」「自分が考えるより、仲間は自分を評価していないかもしれない……」
もしかして、それは、取り越し苦労かもしれません。最新の研究結果では、多くの人が持つとされている「優越の錯覚」が否定されています。気をグンと楽にしてくれる、アドラー心理学とともにお伝えします。
レイク・ウォビゴン効果(優越の錯覚)とは
過去30年から40年にわたり、「自己報告の評価」を用いたいくつかの研究で、「レイク・ウォビゴン効果(優越の錯覚)」が検出されているといいます。
「レイク・ウォビゴン効果」とは、小説に出てくる架空の村から名前をとった心理学用語で、「自分は平均より優れている」と、自己を過大評価する認知バイアスのことを指します。「自分は事故に遭わない」「自分は風邪をひかない」という考えも含まれます。
2013年2月には、放射線医学総合研究所の山田真希子主任研究員らにより、優越の錯覚には、脳内メカニズムが関係していると発表されました。
しかし、こうした研究結果などが示され、実際よりも過大評価してしまうことが懸念されながら、いまだに「自己報告のアンケート」が、もっとも一般的な人格評価なのだとか。
そうしたことから、ヨーク大学(カナダ・トロント)の心理学者、Hyunji Kim 氏が率いるカナダとオーストラリアの研究者らは、大規模なメタ分析を行い、以下の平均値を比較しました(心理科学ジャーナル『Psychological Science』に2018年11月27日公開)。
・「自己」による人格特性レポートと、「情報提供者」によるレポートが矛盾していないか ・実際に人々が、他の人々よりも自分自身を前向きに見ているかどうか
矛盾するのは“見知らぬ人”からの評価だけ?
すると、意外なことに、これまで伝えられてきた一般的な(自己を過大評価する)効果とは一致しなかったのだとか。唯一、人格特性レポートに中程度の差異が見出されたのは、「自己」によるものと、「対象をよく知らない人」によるものを、比較した場合のみだったそう。
つまり、人は“よく知らない人”に対しては批判的になる傾向があることと、よく知る仲間や同僚からの評価は、自己評価とあまり大差ないことなどが示唆されたわけです。
「自分が考えるより、先輩や同僚らは自分を低く評価しているんじゃないか?」などと、あれこれ考えすぎるのはムダな心配だといえるでしょう。
アドラー心理学の「承認欲求の否定」とは
そうはいっても、「人からどう見られているか」という意識は消せませんよね。高く評価されたら嬉しいし、そうでなければ落ち込みます。気にするなといわれるほど、気になってしまうでしょう。
そんなときは、ぜひ「アドラー心理学」で、気持ちを楽にしてください。
世界的名著『人を動かす』の著者、D.カーネギー氏などにも大きな影響を与えたという、オーストリア出身の精神科医、アルフレッド・アドラーによる心理学では、他者からの承認を求めることを否定しています。「承認を求める」というのは、他者から褒められたい、いい評価を受けたいと欲すること。
たとえば道に落ちていた大きな石を拾ったとき、たまたま通りかかった高齢者にそれを確認され、「あなたのおかげで転ばずに済みました。素晴らしい心がけですね。ありがとうございます」と褒められ感謝されたいと思うことです。
しかし、それでは、誰も見ておらず、褒められたり感謝されたりしないとわかった場合、石を拾う意欲を損ねてしまうのではないでしょうか。
他者からの承認を求めなければ、誰に見られていようがいまいが、感謝されようがされまいが、「この石を拾うことで、みなが安全に歩ける」という考えだけで行動できるはずです。
だからといって、アドラーは「聖人君子になりなさい」といっているわけではありません。「誰かの期待を満たすために生きてはいけない」と説いているのです。
対人関係のカードは自分が握っている
人間の悩みは、すべて対人関係の悩みであると説いたアルフレッド・アドラーは、対人関係のトラブルは、他者の課題に土台で踏み込むことだといったそう。
たとえばジャンクフードを食べない一般人が、食べる一般人に「カラダへの悪影響」を提示するのは自由ですが、無理に「食べるのを禁止」することはできません。ジャンクフードを“食べたいから食べる人”の意思や行動はその人の「課題」で、“食べないほうがいいと考えるから食べない人”の意思や行動はその人の「課題」だから。
つまり、他者があなたをどう評価するにしても、それは他者の課題で、あなたの課題ではないということ。それが、アドラー心理学の「課題の分離」です。
「同僚は自分のことをどう思っているのだろう?」――気になりますよね。
でも、それは同僚や仲間の「課題」。あなたの「課題」ではないので、そこに頭や労力を使う必要はありません。自分の対人関係のカードは、自分が握っています。他人の対人関係のカードは、他人が握っています。自分が他人を、他人が自分をどう評価するかは、それぞれの勝手であって、それぞれが立ち入ることはできないのです。
大切なのは、誰かの承認を得ようとはせず、自分にとって最善の道を選ぶことです。(以上、アドラーに関する内容は、岸見一郎著,古賀史健著(2013),『嫌われる勇気』,ダイヤモンド社.を参考にしています)
*** これまで示されてきた「優越の錯覚」と、 最新の研究、取り越し苦労を減らす「アドラー心理学の教え」などを紹介しました。周囲の評価と自己評価は、そう変わらないかもしれないという研究結果や、対人関係のカードは自分が握っているということを胸に、他者からの評価に振り回されず、心を楽にしてくださいね。
(参考) Wikipedia|レイク・ウォビゴン効果 国立研究開発法人 科学技術振興機構|共同発表:「自分は平均より優れている」と思う心の錯覚はなぜ生じるのか—脳内の生物学的仕組みを世界で初めて発見— Quartz at Work|Research suggests our work peers see us how we see ourselves SAGE Journals|Psychological Science|Self–Other Agreement in Personality Reports: A Meta-Analytic Comparison of Self- and Informant-Report Means - Hyunji Kim, Stefano I. Di Domenico, Brian S. Connelly, 2018 岸見一郎著,古賀史健著(2013),『嫌われる勇気』,ダイヤモンド社.