結果を導く働き方——“世界ナンバーワン・プレゼンター” 澤円さんインタビュー【第3回】

働くこと、努力していることそのものによろこびを感じる人もいるでしょう。でも、どうせ働くのなら、きちんと結果を出して大きな評価を得たいものです。生産性が低いと指摘されることも多い日本人の働き方は、外資系企業上層部の人の目にはどう映っているのでしょうか。マイクロソフトテクノロジーセンターのセンター長・澤円(さわ・まどか)さんに、「結果を導く働き方」を教えてもらいました。

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構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/玉井美世子

「過去」を徹底的に自動化して「未来」を最大化する

社会人のみなさんなら、「日本人の働き方は非効率的だ」というようなニュースやビジネス雑誌の記事を目にしたことがあるでしょう。それは紛れもない事実です。G7における労働生産性の日本の順位は22年連続で最下位なのですからね。しかも、おそらくは公式の数字だけで計算されているので、サービス残業なども含めれば、実際にはもっと悪い数字だということも考えられます。

ひとつ、エピソードを紹介しましょう。日本企業の人がビジネスインターンというかたちで僕のところに常駐するということをやっているんです。そのうちのひとりの言葉に、衝撃を受けたことがあります。彼いわく「会議でなにかが決まるところをはじめて見ました」というじゃないですか。我々はなにも決めない会議はしないですし、決める会議しかやりません。

よく、「日本の企業は無駄な会議が多い」と言われますよね。でも、いつになっても一向に改善されない。なぜかというと、それぞれの会議の特徴を理解していないからです。ビジネスパーソンにとって「報連相(ほうれんそう)」という言葉はおなじみですよね。それらの特徴はというと、「報告」は過去のこと、そして「相談」は未来のことです。日本の企業の会議には報告会議が多過ぎます。過去に時間をかけ過ぎているということです。

報告することというのは、すでに起きたことですから、データがあるはず。見ればわかるというものです。それをわざわざ時間を使って人を集めて報告させる。会議の出席者は移動しなければなりません。ビジネスにおいて移動はとても無駄なものです。なにも生み出さない時間ですからね。報告という無駄なことのために、移動という無駄なことをさせているわけです。「連絡」をするのだって電話すら必要ありません。チャットで済む話ですよ。

過去をほじくり返すのは面白くもなんともない。たまに過去に新しい発見があることがあるかもしれませんが、それもまた別の問題となります。捉え方によっては、過去の情報が整理されていなかったことになるわけですから。「過去のことは徹底的にツール化、自動化する」というのが僕の考えです。そして、相談、つまり「未来のことを最大化」する。だって、これからどうするか、次の一手はどうするかという未来の話は楽しいじゃないですか。楽しい仕事だけが残るというわけです。楽しい仕事なら、誰もが高いモチベーションで臨んでくれますよ。

できる限り手作業を減らして無駄を省く

社会人である以上、ただ頑張るだけではなく結果を出さなければなりません。ただ、社員が頑張ったことがまったく数値化されないとなるとそれは問題です。頑張ったのであれば、それが数値化され、マネジャーがパッと見てわかる、評価できるようにしておかなければならないのです。僕は、チームのメンバーに月報や日報などの報告業務を一切課していません。全部、ダッシュボードに自動的に出てくるようにしている。それで、誰がどれだけ頑張って、どんな結果を出したかは一目瞭然というわけです。

少し話はそれますが、自動化、IT化というと、「味気ない」なんて言う人もいます。でも、過去のデータに関して「味気なんてある」から問題が起きるのです。ほとんどの会社はデータに手を入れられるようになっています。だから二重帳簿や粉飾決算ということをやってしまうんです(苦笑)。マイクロソフトの場合は、過去のデータに関しては誰も手を加えられない状態にすることを徹底しています。そして、そのデータ入力さえも自動化しているんです。

僕がセンター長を務めるマイクロソフトテクノロジーセンターというのは、セッションをして商談に貢献するという場です。僕らにセッションを頼みたいという人たちが予約をすると、データが自動でつくられます。つまり、データ入力のためだけの作業はなく、予約がそのままデータ入力になっているというわけです。そして、そのデータは、社員の誰がいくらくらいのどんな商談のお手伝いをしていて、なにを買ってもらおうと提案活動をしているかというデータと紐付けられる。そういうふうに、できる限り手作業を減らして自動化することも、結果につながる働き方だと思いますよ。

できるビジネスパーソンは「自分のプレゼン」に長けている

マネジャーが自分のチームのメンバーを大人扱いすることも大事です。プロセスをチェックするにしても、いちいちこまかく見るのではなく、リズムをつくって見る。人はムラを嫌がるものなんです。半年くらい放っておかれたと思ったら、突然、毎週チェックをしはじめた……。それって嫌じゃないですか? 「これ、明日までにやっといて」なんてことも嫌ですよね。でも、リズムがしっかり決まっていれば快適に働ける。チェックされる側もきちんと準備ができます。これはマイクロソフトにずっと根付いている「リズム・オブ・ビジネス」という考え方です。

また、外資系の会社で働く立場から見ると、日本人に欠けていると感じるのが「時間は借り物だ」という概念かもしれません。欧米の企業では、1時間のミーティングの予定が45分で終わったとすると、「15 minutes back to you」と言います。「1時間借りていたけど45分で終わったから、15分返すね」ということです。この概念を持てるかどうかが重要。時間を借りるという発想があれば、無駄な会議に社員を呼ぼうなんて思わないですよね。ましてや見ればわかるものを説明させるために会議に呼ぶなんて愚の骨頂です。

これらの考え方を持っているかどうかは人にもよりますが、結果を出せるビジネスパーソンに共通しているのは「未来志向」を持っていること。先ほどの「未来のことを最大化する」ということにも通じますが、未来をいかにして良くするかと考えているということです。そして、そういう人たちは一様に「人たらし」でもありますね。人に取り入るとかこびを売るということではなく、人間的魅力で他人を巻き込む能力に長けています。

「自分のプレゼンがうまい」と言い換えることもできるでしょうね。プレゼンというと、ステージで聴衆に対しておこなうものというイメージがあるでしょう。でも、もっと広い意味でとらえれば、あらゆることがプレゼンと言えます。朝のあいさつだってプレゼンだし、誰かに見られているとまったく意識せずにやった行為もたまたま目にした人にとってはプレゼンなのです。プレゼンテーションの語源は「プレゼント」、つまり贈り物です。贈り物を雑にすれば、当然、嫌われます。ビジネスパーソンなら、周囲の人間への贈り物は丁寧におこなっていくべきですね。

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マイクロソフト伝説マネジャーの世界No.1プレゼン術

澤円

ダイヤモンド社 (2017)

【プロフィール】 澤円(さわ・まどか) 1969年5月10日生まれ、千葉県出身。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て、1997年にマイクロソフト(現日本マイクロソフト)に入社。2011年、マイクロソフトテクノロジーセンターセンター長に就任。2018年より業務執行役員。2006年には十数万人もの世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツ氏が授与する「Chairman’s Award」を受賞した経歴も持つ。また、年間250回以上のプレゼンをこなす、プレゼンのスペシャリストでもある。著書に『マイクロソフト伝説マネジャーの世界No.1プレゼン術』(ダイヤモンド社)など。

【ライタープロフィール】 清家茂樹(せいけ・しげき) 1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。野球好きが高じてニコニコ生放送『愛甲猛の激ヤバトーク 野良犬の穴』にも出演中。

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