/>
フロイト、ユングと並ぶ心理学者で精神科医のアルフレッド・アドラーは、「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と断言しました。
もちろん、他人から助けてもらったり、勇気をもらったり、大切なことを気づかされたりすることもあるでしょう。人との出会いがきっかけで、大きく道が開けた人もたくさんいます。しかし、ストレスの多くをもたらすのも、やはり “人” なのです。
そこで今回は、職場や学校での「イラッ」「ムカッ」に効く、科学的かつ物理的な方法を紹介します。
職場や学校で感情をコントロールする方法
ニューヨーク市立大学で人間行動学を教えるMelody Wilding氏は、ビジネスメディアの「Quartz at Work」で、“仕事中に感情をコントロールする方法” を紹介しています。 次の4つの方法は、瞬間的に感情をコントロールしたいときに使える現実的な方法なのだとか。4つの方法を実践すれば、落ち着いて冷静になれ、印象のよい対応ができるようになるとのことです。
感情をコントロールする方法1:冷やす
感情的になっているとき、人間のからだは、闘争・逃走の神経である「交感神経系」が活発に働いています。心拍数が上がり、体内の温度が上昇している状態です。交感神経を落ち着かせるためには、生理学的反応を鎮めなければなりません。
生理学的反応といっても、簡単なので大丈夫。体を冷やして体温を下げるだけです。
冷たい水が入ったコップを握ったり、冷水を飲んだり、クーラーの近くに移動したり、氷を口に含んだり、上着を脱いだりするといいでしょう。冷たい水に浸したハンカチを首や額に当ててもいいし、冷水で顔を洗えたらなお効果的です。
哺乳類である人間は、体を冷やすことで「潜水反射」を起こし、心拍数を低下させて、リラックスと関係ある「副交感神経系」を働かせるとのことです。
/>
感情をコントロールする方法2:地に足をつける
不快な感情が高まると、過去の失敗を思い出したり、将来を案じて不安になったりするかもしれません。 過去や未来について不快になったときは現実に意識を戻し、動揺した心を落ち着かせましょう。次の「地に足をつけるシンプルなテクニック」が役立ちます。
- 歯の食いしばりをやめ、握ったこぶしを緩める
- かかとを床に、ずーんと踏ん張る
- 椅子にもたれ、腰をくつろがせる
- 話している相手の目の色に集中する
自分が体を動かしたときの感覚や、周囲の様子に注意を向けることで、「自分がコントロールできること」と「現実」への注意を促します。目の前の現実に意識を向ければ、頭の中をかけめぐる怒りや嫌なことに対抗できるはず。
/>
感情をコントロールする方法3:ネイビーシールズの呼吸法
アメリカ海軍の特殊部隊・ネイビーシールズは、強烈なプレッシャーやストレスにさらされた状況でも警戒心・集中力・落ち着きを保つために、「ボックス呼吸(Box Breathing)」と呼ばれる呼吸法を取り入れているそう。やり方は次のとおりです。
- 4秒間かけて息を吸い込む
- 肺の中に空気が入った状態で息を止め4秒間キープ
- 4秒間かけて息を吐き出す
- 肺を空にした状態で息を止め4秒間キープ
こんなに簡単な呼吸法なら、仕事中でもさりげなく活用できるはず。感情をコントロールする方法を心得ているのは、洗練された社会人である証拠です。相手に「呼吸を整えているな」と悟られても、気にせず堂々としていましょう!
以下のURLにある視覚的なガイドを利用すると、ボックス呼吸の感覚をつかみやすくなります。
QuietKit: Guided Meditation for Beginners (for free)|Box Breathing (the Navy SEAL breathing technique)
/>
感情をコントロールする方法4:返答までの時間を稼ぐ
感情的になり、言うべきではないことを口にしてしまい、後悔した経験がある人は少なくないでしょう。「売り言葉に買い言葉」といった表現もありますが、できれば感情的にならず、落ち着いて対処したいもの。
落ち着いて対処するには、返答までの時間を稼ぎましょう。時間稼ぎをする方法は、相手の見解に共感を示しつつ、最後に質問をすることです。たとえば、
「なるほど……、確かにそうですね。そうしたらAさんは、どうすることが一番いいと思われますか?」
といった具合です。質問しておけば、相手の返答を待つあいだ、自分がどう反応したらいいか考えることができます。
生理学研究所教授の柿木隆介氏は、著書のなかで「少しがまんしていると感情をコントロールしてくれる前頭葉が活動し始める」と説明しています。質問による時間稼ぎのおかげで理性的な判断ができ、後悔を残さない、落ち着いた反応を示せるはずです。
/>
「忘却」は怒りの鎮静を妨害する?
瞬間的に感情をコントロールできたら、今度は怒りそのものの鎮静を行いましょう。ただし怒りを鎮めようとする際、忘れよう、忘れようと意識するのは逆効果です。
2006年の『広島大学心理学研究』に掲載された、大学生を対象にした「怒りの鎮静」に関する研究では、怒りの出来事を忘れようと努める行動は、むしろ怒りの出来事をより意識させてしまうことが示されました。
逆に、怒りの出来事を自分にとって都合よく解釈すると、怒りの思考をシャットアウトできたそうです。怒りを鎮めてくれるのは、忘れようとする行為ではなく、都合よく理由づけすることなのです。
「あの言い方は腹立たしいが、おかげで闘争意欲がわいて、集中力がアップした」などと都合よく解釈して、怒りを締め出してしまいましょう!
***
Wilding氏いわく「感情と戦うことは、あなたを苛立たせ、不幸なままにするだけ」ととのこと。ぜひ紹介した戦略を活用し、戦わずして、感情を制してください。
(参考)
Quartz at Work|Management news, advice, and ideas for business leaders
目久田純一, 越中康治, 滝下雅子, 江村理奈, 新見直子, 前田健一(2006),「怒りの鎮静に及ぼす対処方略の影響」, 広島大学大学院教育学研究科心理学講座, 広島大学心理学研究, 5号, pp.187-194.
フランセス・アッシュクロフト著, 矢羽野薫訳(2008),『人間はどこまで耐えられるのか』, 河出書房新社.
柿木隆介(2015),『どうでもいいことで悩まない技術』, 文響社.
岸見一郎, 古賀史健(2013),『嫌われる勇気』, ダイヤモンド社.