「繰り返し勉強する人」がやっぱり強いワケ。記憶定着だけじゃない重要メリットとは?

繰り返し学習の効果についての説明

学習するにあたって、繰り返すことは記憶の定着に役立つそうです。でも、それだけじゃないんですよ。「繰り返し」は学びを楽しくすることや、自分の能力および知識の精度を高めることにもつながるそうです。そこで今回は、学習における「繰り返し」の効能を、3つの方向から探ってみました。

1. 記憶の定着としての「繰り返し」

一般社団法人 教育デザインラボの代表理事を務める教育評論家の石田勝紀氏は、学習において見る、読む、書くは「補助的な作業」であると述べ、次のように説いています。

覚えるとは「自分で繰り返しテストすること」

(参考およびカギカッコ内含む引用元:東洋経済オンライン|「1日10時間勉強してもダメな子」の本質的理由

事実、セントルイス・ワシントン大学が2006年に発表した研究では、反復学習よりも、繰り返しテストを行なうほうが、忘却は緩やかになる(忘れにくくなる)と明らかになりました。

(参考:SAGE Journals|Test-Enhanced Learning: Taking Memory Tests Improves Long-Term Retention / 国立大学法人 岩手大学|憶えたければ思い出せ!:想起の学習促進効果

自分で繰り返しミニテストを行ないながら覚える女性

また、東京医科歯科大学特任教授、筑波大学名誉教授、メモリークリニックお茶の水理事長・院長の朝田隆氏が監修した、記憶に関する説明にはこうあります。

目や耳などの感覚器から入ってきた情報は、脳の奥深くにある「海馬」という部位で一時的に保管されますが、そのほとんどは消え去ります(忘却)。
しかし、くり返し思い浮かべたり口に出したりすることによってかたちづくられた情報だけが、大脳皮質へ送られ、そこに刻みこまれるのです。

(引用元:エーザイ|もの忘れの教室|解明!記憶のメカニズム|記憶に深くかかわる「海馬」

つまり、頭のなかにインプットされた情報はまだ弱く半人前で、そのままではすぐに離脱してしまうけれど、繰り返しアウトプット(思い浮かべたり、口に出したり、テストを行なったり)すれば “かたちづくられて” 一人前になり、長期間保存の道へと旅立てるわけです。

それなら繰り返すことは、「情報を一人前の長期記憶に育てるためのトレーニング」とも言えるかもしれません。

女性の横顔に、脳内や記憶のネットワークが重なっている

2. 楽しさとしての「繰り返し」

なおかつ「繰り返すこと」は、学びを楽しくすることにもつながるそうです。

著名な知識人らも絶賛の『独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』(ダイヤモンド社)の著者で、インターネットの知の巨人とも称される読書猿氏は、“学ぶ楽しさ・理解できた感覚がわからないので教えてほしい” と言う人に対し、次のように答えています。

おすすめの方法は一度解いた問題をもう一度、必要ならば繰り返し、解いてみることです。

同氏いわく、時間をおいて “何度も同じ情報に触れたり、考え直したりした” あとほど、学んだ内容の「つながり」に気づくとのこと。それは小さな範囲内の場合もあるし、遠く隔たった分野間の場合もあるそうです。そして、読書猿氏が

学んでいて喜びを感じるのは、「つながった!」と思うとき

(参考および引用元:ダイヤモンド・オンライン|9割の人が知らない「学ぶ楽しさがわからない」を解決できる超シンプルな方法) 

なのだとか。

本棚の前で開かれた辞書とペンと紙のノート

じつは、東大や医学部への進学者が非常に多い海城中学高等学校の、英語科の先生である岡崎行則氏も、自身の経験をふまえ、同校サイト内で次のように語っています。

自分の教えている生徒諸君には点と点が線でつながる時が勉強していて一番面白い瞬間であることをよく話すのですが、ぜひ多くの方にこの体験をしていただきたいと願っています。

もともと英語が好きだった岡崎氏は、高校2年生から世界史などの勉強もするようになると、アメリカの公民権運動、ベトナム戦争、反戦歌など、それまで別個に存在していた点と点(英語・歴史・音楽など)が線でつながり、自分の世界が広がったように感じられたそうです。

(参考および引用元:海城中学高等学校|点と点が線でつながる時が勉強していて一番面白い) 

読書猿氏の言葉と、岡崎氏の言葉をまとめて考えてみると――

何度も同じ問題を解くことで “点” の理解が深まり、ほかとの関連性にも気づくことができる。そうした繰り返しが、点と点のつながりを拡大させ、その人の世界を広げていく。そのなかで「つながった!」「そうだったのか!」という喜びが生まれていく――

と、解釈できるのではないでしょうか。

ブルー系で描かれたネットワーク

3. 精度・能力アップとしての「繰り返し」

また、読書猿氏は、前出の「ダイヤモンド・オンライン」記事内でも、自身のブログ内においても、1978年にチューリング賞(計算機科学分野で業績を上げた人を称える賞・コトバンクより)を授与されたロバート・W・フロイド氏の、チューリング賞受賞講演での言葉を紹介しています。

「私は、複雑なアルゴリズムをデザインしてきた経験から、自分の能力を高めることに役立つひとつのテクニックを発見した。難しい問題を解決したら、同じ問題をもう一度はじめから解いてみるのだ。前回、問題を解決するに至った道筋をできるだけ忠実に再現してみる。そうすることで、同様の問題に取り組む際に共通するルールのようなものを探す。どうすればもっと早く解決ができたのかも、それでわかる。そうして見つけたルールは、時に永遠の価値を持つ」

(引用元:前出の「ダイヤモンド・オンライン」記事 / 読書猿Classic: between / beyond readers|問題を解き終えた瞬間に人生で最も豊かな学びの時がはじまる

数学を勉強する人

一方で読書猿氏自身も、“資格試験の勉強においてやる気が出ない、覚えられない、何かいい方法はないか” と問う人に対して問題の解き直しをすすめ、

解き直しをする目的は、知識の精度を実用レベルにまで高めることです。

と伝えています。学び始めは「まだまだ知識の精度は上がってないので、細かいミスや間違いが出てくるはず」なのだとか。

(参考およびカギカッコ内含む引用元:ダイヤモンド・オンライン|「書いて覚えようとしても全く頭に入らない」人が無理せず学べるテクニック

これらの内容は、株式会社セガにゲームプランナーとして入社したあと、2020年春に36歳で東京大学文科三類に合格し、サラリーマン東大生となった松下佳樹氏の言葉にも通じるものがあります。

なぜならば松下氏は自身の著書で、過去問や問題集を

「解いて丸付けをしただけで終わり」では、勉強をしたつもりになっているだけで、効果的に時間を過ごしたとは言い難い

と伝え、知識欲が一番高い “問題を解いた直後” に解説文を読んで、その問題が問うていることや、解くためのキーポイントなど――いわゆる本質をつかむべきだと説いているからです。

(参考および引用元:松下佳樹著(2021),『30代サラリーマンが1日1時間で東大に合格した 「超」効率勉強法』,彩図社.)

あくまでも松下氏が(該当箇所で)実際にすすめているのは、解説文を読むことであり、問題の解き直しをすすめているわけではありませんが、“1回解いて放置ではなく、その問題の本質をつかむ必要がある” という点では、読書猿氏らと重なる部分があるのではないでしょうか。

したがって、3者の言葉を参考にしてまとめると――一度解決したことはそのままにせず、(たとえば解説文を読むなどして)探り、再び解き直すことで理解が進み、その本質をつかむことができる。すると知識の精度が上がり、自分の能力を高めてくれる――と言えるわけです。これじゃあ、繰り返さずにはいられませんね!

***
今回は、学習における「繰り返し」の効能を、3つの方向から探ってみました。これらの内容は、文章を何度も練り直すこと――いわゆる「推敲」にも似ています。執筆したものを何度も読み返して修正を行なっていると、最初は見えなかったつながりや、「そうか!」と膝を打ちたくなるような解釈が見えてくるからです。よろしければ、あらゆるシチュエーションで参考にしてみてくださいね。

(参考)
ダイヤモンド・オンライン|9割の人が知らない「学ぶ楽しさがわからない」を解決できる超シンプルな方法
ダイヤモンド・オンライン|「書いて覚えようとしても全く頭に入らない」人が無理せず学べるテクニック
読書猿Classic: between / beyond readers|問題を解き終えた瞬間に人生で最も豊かな学びの時がはじまる
SAGE Journals|Test-Enhanced Learning: Taking Memory Tests Improves Long-Term Retention
松下佳樹著(2021),『30代サラリーマンが1日1時間で東大に合格した 「超」効率勉強法』,彩図社.
エーザイ|もの忘れの教室|解明!記憶のメカニズム|記憶に深くかかわる「海馬」
東洋経済オンライン|「1日10時間勉強してもダメな子」の本質的理由
国立大学法人 岩手大学|憶えたければ思い出せ!:想起の学習促進効果
海城中学高等学校|点と点が線でつながる時が勉強していて一番面白い
コトバンク|チューリング賞

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