人間には、「損失回避」の特性があるそうです。損失回避とは、意思決定を行なう際に “損失を避けようとする傾向が強いこと”。
じつはこの損失回避が、勉強の習慣化にも役立つそうですよ。人間の “損したくない感情” を掘り下げ、勉強の習慣化に役立てる方法を探ります。
人間は “損” が大嫌い
イスラエル出身の心理学者、行動経済学者のダニエル・カーネマン氏と、同じくイスラエル出身の心理学者、エイモス・トベルスキー氏らいわく、「(人々が)利益を得るときの喜びに比べ、損失を被る悲しみは2倍」とのこと。人間は “損をするのが大嫌い” なのです。
カーネマン氏らが、95人の参加者を対象に次の実験を行なったところ、こんな結果が出たのだとか。
A) 80%の確率で4,000円もらえるが、20%の確率で何ももらえない。
B) 確実に3,000円をもらえる。
(引用元:みずほ証券 ファイナンス用語集|損失回避)
上記のいずれかを参加者に選んでもらった結果……
⇒ Aは2割の人が選択
⇒ Bは8割の人が選択
C) 80%の確率で4,000円を支払わなければならないが、20%の確率で支払わなくてよい。
D) 確実に3,000円を支払う。
(引用元:同上)
上記のいずれかを参加者に選んでもらった結果……
⇒ Cは9.2割の人が選択
⇒ Dは0.8割の人が選択
これらの結果からわかるのは、人々が利益を獲得しようとする際は確実なほうを選ぶのに、損失が生じる際にはリスキーな選択をしてまでも、損失を回避しようとすることです。
損失回避を活かした習慣化サービス
資格スクエアの創業者で弁護士の鬼頭政人氏によると、アメリカには前項で説明したような “損をしたくない気持ち” を利用した、目標達成のための習慣化サービスがあるそうです。それは、行動経済学を専門とするイェール大学の研究チームが開発した、「stickK」というサービスです。
stickKではまず本人が目標設定を行ない、監視役を置き、応援者に向け進捗状況をネットに公開するとのこと。なおかつ目標を達成できなければ、そのつど、自分のお金がほかの口座に振り込まれてしまうそうです(たとえば気に入らない団体へ寄付されるよう、あらかじめ設定しておく)。つまり、「罰金制度」を設けた習慣化サービスというわけです。
もしもダイエットを成功させたい人が、定期的な目標として「1か月で1キロ痩せる」と決めたとしても、資格試験に合格したい人が「過去問演習の目標点」を設定したとしても、毎日の運動や勉強が続く可能性は決して高くありません。
しかし、「目標を達成しないと損してしまう」とわかれば、意地でも必要な活動を継続しようとするのではないでしょうか。人間の損失回避の特性は、こういったかたちで利用できるわけです。
継続力を高める「3要素」とは
前出の鬼頭氏いわく、習慣化サービス「stickK」の3要素が、継続にプラスの効果をもたらすのは間違いないとのこと。したがって、以下の3点は「継続力を高める3要素」と言えます。
- 監視役を置く
- 応援してもらう
- 罰金を科す
ただし、先述のとおり人間は「損をしたくない感情」が強いので、なかでも罰金を科すことが最も強力とのこと。罰金とまではいかなくとも、たとえば勉強を怠ったときなどには、監視役の家族あるいは友人に何かをご馳走しなければならない、といったかたちにするのもいいかもしれません。
さらに、ほかの方法も探るため、次項では “人間が陥りやすいワナ” について少し説明しましょう。
損を取り返そうとすると、損の上塗りになる?
みずほ証券 ファイナンス用語集内の「損失回避」ページによると、損失回避は「サンクコスト効果」が生じる説明にもなるそうです。
サンクコスト効果とは、「せっかくここまで投資したのだから」と、回収できる見込みのないコスト(すでに投資したお金・時間・労力)に固執し、そのまま事業などを続けてしまうこと。
ビジネスに限らず、「せっかくここまで読んだから」と退屈な本を読み続けてしまうことも、「せっかく高いお金を出して買ったから」と似合わない服を着続けてしまうことも、サンクコスト効果になります。
つまり、もう取り返せないコストに気をとられ、合理的な判断ができなくなり、結果として損の上塗りをしてしまうのです。絶対に損をしたくないから、損を取り返そうとして、損をする――時として私たち人間は、こうした矛盾だらけのワナに陥ってしまうわけです。
ならば、これを逆手にとり、勉強の習慣化に役立ててしまいましょう。
サンクコスト効果を勉強に逆利用する方法
1. 先に受験料を払ってしまう
文房具やオフィス家具、事務機器を製造・販売するコクヨ株式会社は、資格取得のための勉強経験がある社員25人にアンケートを実施(2022年3月)したそうです。その際に、勉強のモチベーションを維持するための工夫についても質問したそう。すると、こんな回答が挙がったのだとか。
- マイルールをつくる(いつものルーティンに勉強をくっつける)
- 勉強した時間を記録する(やったことの見える化)
- 目標をいつも見えるところに張り出す
- 先に受験料を払ってしまう
ここで注目すべきは、最後の「先に受験料を払ってしまう」です。試験日を決めて先に受験料を払ってしまえば、自分を “やらなければならない状況” に追い込むことができます。
なおかつ、「先に払ってしまったお金を損するわけにはいかない」といった感情も、刺激できるのではないでしょうか。勉強の習慣化につながる可能性はグンと高まるはずです。
2. カレンダーを塗りつぶすだけ
「せっかく続けた勉強を、途中でやめてしまうのは “損” だ」と自分に思わせるのもひとつの手です。自分が、自分自身にそう感じさせるため、勉強した事実の見える化を行ないましょう。
先に紹介した、コクヨによる “勉強のモチベーションを維持するための工夫” のアンケート結果のなかにも、「勉強した時間を記録する」といった回答がありましたが、サンクコスト効果を逆利用するためだけなら、自分が労力と時間を投資した事実を「視覚化するだけ」で十分かもしれません。
たとえば卓上カレンダーなどを用意して、(ハードルの高すぎない)勉強ノルマを達成した日は、カレンダーに目立つ印をつけていくのです。
これなら「今日は仕事が忙しかったし、これから勉強なんて面倒くさいなぁ」と思っても、「せっかくここまで続けてきたのに、もったいない」という気持ちになるのではないでしょうか。
また、連続して印がつけられたカレンダーを目にするたびに、「途中でやめてしまったら、これまで投資してきた時間と労力、(参考書を買ったなどの)お金を回収できない。損するのはまっぴらなので勉強しよう」と躍起になるはずです。
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人間の「損したくない感情」を掘り下げ、勉強の習慣化に活かす方法を探りました。勉強を続けられたほかに、「あー、よかった。損しなかった」と嬉しくなるかも……!?
(参考)
コクヨ ステーショナリー|資格の勉強が続かない大人たちへ~気になる勉強法や時間の作り方について聞いてみた~(シリーズ資格の勉強 前編)
PHPオンライン衆知|「集中力の管理もデジタル化」? 三日坊主でも勉強をつづける工夫
Asana|サンクコスト効果に惑わされない判断をするには
みずほ証券 ファイナンス用語集|損失回避
Wikipedia|ダニエル・カーネマン
Wikipedia|エイモス・トベルスキー
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