2022年末頃からビジネスシーンに限らず大きな話題となっているのが、人工知能チャットボット「ChatGPT」。ITに明るくない人のなかには、「ChatGPTってなんだかすごそうだけど、自分に関係あるのかな?」と思っている人もいるかもしれません。
一般のビジネスパーソンにとって、ChatGPTとはどんな存在になりえてどのようにとらえたらいいものでしょうか。元日本マイクロソフト業務執行役員で現在は株式会社圓窓代表取締役の澤円さんに聞きました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹
【プロフィール】
澤円(さわ・まどか)
1969年、千葉県生まれ。株式会社圓窓代表取締役。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て、1997年にマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。情報コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部長などを歴任し、2011年にマイクロソフトテクノロジーセンターセンター長に就任。業務執行役員を経て、2020年に退社。2006年には、世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツ氏が授与する「Chairman's Award」を受賞した。現在は、自身の法人の代表を務めながら、琉球大学客員教授、武蔵野大学専任教員の他にも、スタートアップ企業の顧問やNPOのメンター、またはセミナー・講演活動を行うなど幅広く活躍中。2020年3月より、日立製作所の「Lumada Innovation Evangelist」としての活動も開始。主な著書に『「疑う」からはじめる。』(アスコム)、『個人力』(プレジデント社)、伊藤羊一氏との共著『未来を創るプレゼン』(プレジデント社)などがある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
「ChatGPTで仕事がなくなる」って本当?
「ChatGPT」が話題になっているからといって、「ビジネスパーソンにとって絶対に必要なものだ」とは私は考えていません。あらゆることが選択肢であり、ChatGPTを活用するかしないかということもやはり選択肢だからです。
ただ、これだけ話題になっているなかで「ChatGPTをまったく知らない」「知ろうとしない」ことがプラスに働くことはないように思います。特に、この記事を読んでいる人なら少なからずChatGPTのことが気になっているのでしょうから、そうであれば実際に自分で使ってみてから、自分に必要なのか、どのように活用できるのかと考えてほしいと思うのです。
ChatGPTに関心をもっている人なら、それこそChatGPTをはじめとした「AIによっていまある仕事がなくなる」といった話を聞いたこともあるでしょう。もちろん、テクノロジーの進化によってこれまでにもなくなった仕事はたくさんありますし、これからもそれは変わりません。
しかし、心配しすぎる必要はありません。「いまの仕事で第一人者になっておく」ということが、AIがより浸透する世のなかで生き残るためのハックになります。
ひとつ、例を挙げましょう。Uberが登場したとき、アメリカのタクシー業界には激震が走りました。従来のタクシーと比べると手軽さや利便性が大きく向上してUberの利用者が急増したため、それこそ「タクシー運転手の仕事がなくなる」と言われたのです。
しかし、「人を目的地に運ぶ」という仕事自体がなくなるわけではありません。タクシー運転手として第一人者であった人ならば、Uberに鞍替えしたときにも間違いなくトップドライバーになれるはずです。ある業界の第一人者なら、その仕事が置き換わるときにも、それまでの仕事で培ったスキルや経験が大きな力となってくれるのです。
ですから、ChatGPTで仕事がなくなるかどうかを心配することではなく、「いまの仕事で第一人者と言えるのか?」と自分に問い、そうでないならそうなろうとすることこそがよほど大切なのです。
ChatGPTで「仕事のための仕事」を減らす
もちろん、いまの仕事で第一人者であろうと努力することとあわせて、ChatGPTなど最新ツールに触れておくことも大切です。では、具体的にどんなふうにChatGPTを仕事に役立てればいいでしょうか。これについては、業種や職種によってさまざまなことが考えられますが、多くに共通する点で言うと、「『仕事のための仕事』を減らす」ということになるでしょうか。
いまの私で言うと、さまざまな仕事をしているなかでも、メインの仕事は「世のなかに対してテクノロジーの可能性を伝える」「企業のマネージャー育成の手助けをする」といったことになります。これらが私の「仕事」です。
一方、予定調整や税金処理、関係者にあいさつのメールを送るといったことは、仕事としては位置づけていません。これらも一見すると仕事に思えるかもしれませんが、それはあくまでも先に触れたようなメインの「仕事」を成立させる、「仕事のための仕事」に過ぎないのです。なぜなら、これらの「仕事のための仕事」自体は価値を生み出していないからです。
そして、ChatGPTは、まさにこういった「仕事のための仕事」を徹底的に減らして圧縮してくれます。一例を挙げれば、「仕事」に必要な英語資料を日本語に翻訳するという「仕事のための仕事」だって、ChatGPTを使えば瞬時にこなしてくれるという具合です。
そうすれば、本来の「仕事」に集中できる時間が大きく増えるのですから、より効率的に仕事を進められ、大きな成果を挙げられる可能性も高まるというわけです。
これまで同僚に聞いていたことをすべてChatGPTに聞いてみる
この記事を読んでくれている人も、ITに明るい人ばかりではないでしょう。そういう人がChatGPTに慣れ親しみ、ゆくゆくは自分の仕事に活用できるようになっていくには、まずは「課金する」ことを考えてみてください。
あらゆる最新ツールに言えることですが、有料版を使ってそのツールのフルパワーを味わわないことには、「こういうことができそうだ」といった可能性を感じにくくなるからです。
そして、これまで隣の席の同僚に聞いていたようなことを全部ChatGPTに聞いてみましょう。資料の文面はこれでいいか、過去にこういった事例があるか、といったことをすべてChatGPTに聞くのです。
それこそ慣れ親しむという意味では、仕事に関わることに限らず、「いままであまり意識していなかったけれど、聞かれてみたら答えられない問い」といったものでもいいですね。「絹ごし豆腐と木綿豆腐の違いは?」と聞かれたら、みなさんは答えられますか(笑)? そんなことを繰り返すなかで、ChatGPTに慣れ親しみ、いずれは「こんな使い方ができるのでは?」といったアイデアを思いつけるようにもなっていくでしょう。
ただ、注意点もあります。ChatGPTは対話形式のため、検索のように、ヒットした候補のなかから読むものを選ぶという作業が不要です。それも「仕事のための仕事」を減らしてくれるメリットではあるのですが、学習しながら精度を上げていくツールであるために、ChatGPTの答えも間違っていることがあります。ですから、場合によってはChatGPTの回答についてあらためて調べるという作業も現段階では必要なアクションだと思っておきましょう。
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