「会議で想定外の質問をされてしまい、動揺して頭が真っ白に……」
「職場の対人関係でついカッとなり、相手と口論してしまった」
仕事では冷静な対応が求められますが、感情をコントロールできずに失敗してしまった経験はないでしょうか。
そんな出来事が今後も重なれば、信頼や人間性の評価に悪い影響があるかもしれません。ですが、冷静さを保てる伝え方を実践すれば、その悪影響を回避することが可能です。
本記事では、コミュニケーション上手な人がやっている “冷静な伝え方” を紹介しましょう。
予期せぬ質問には「Yes/No」を先に答える
商談や会議での予想外の質問に、みなさんは冷静に答えられているでしょうか。「何か言わなくては」と焦っても、頭に浮かんだ情報をそのまま話すのはNG。
先にYes/Noを明白にしましょう。話し方のセオリーとして結論から話すことはよく知られていますが、質問の場合も同じなのです。
たとえば、自社が開発した新システムの売り込み先について検討する社内会議で、メンバーからこんな質問が投げかけられたとしましょう。
「新システムをA社にて導入していただく場合、A社にとって費用面での負担が大きいのではないでしょうか?」
そんな質問に対し、「このシステムを最初に導入されたB社の場合では……」と、具体例から話すと回りくどくなります。そこでまずはYes/Noを述べましょう。
- 「おっしゃるとおりです。そこで、私たちは……」
- 「いいえ。A社においては……」
このように、結論を先に述べたうえで、その理由をあとから付け加えるのです。
人材育成コンサルタントの清水久三子氏は、「YesかNoか」をはっきりさせないと、聞き手側の負担になると言います。結論を先に言わず「詳細部分」から話すことの危険性を、清水氏はこう述べます。
聞き手はYesかNoかをまずは知りたいのです。先に言っておかないとずっと「どっちなんだろう?」ともやもやしたまま回答を聞くことになってしまい、せっかくいい回答をしているにもかかわらず理解されないことがあります。
(カギカッコ内および枠内引用元:東洋経済オンライン|「想定外の質問」にも堂々と答える人の裏ワザ)
相手からの質問に対する答えを先に言わないと、相手にストレスを与えてしまうのですね。
そうはいっても、「正確な答えにはならないかもしれない……」と、初めから白黒はっきりさせるのを戸惑うこともあるかもしれません。答えに迷ったら、現段階で言えるYes/Noを先に言ってみましょう。そして、少し間を置いて頭を整理したうえで説明を加えれば、冷静な対応ができるはずですよ。
仕事を頼むときは「ぜひあなたにお願いしたい」と強調する
職場では、人に仕事を依頼する場面が多くありますよね。ときには、期限の差し迫った仕事を人に頼まなくてはならず、つい言い方がきつくなってしまうこともあるでしょう。
そのようなときは、この仕事は相手にしかできないということを強調してみてください。「ぜひあなたにお願いしたいんです」という意図を明確に伝えると、相手に快く仕事を引き受けてもらうことができますよ。
たとえば、みなさんは次のような言い方で仕事を頼まれたらどう感じるでしょうか?
- 「納期が迫っているから、早くこの仕事を上げてください」
- 「午前中までに資料をつくってください。誤字脱字のチェックも忘れないで」
「なんだか高圧的だな」「ただ使われている感じがする」——自分の存在を大切に思われていないと感じる人が多いのではないでしょうか。
ベストセラー『伝え方が9割』(ダイヤモンド社)著者で、コピーライターの佐々木圭一氏は、残念な伝え方のひとつとして「要望をストレートに伝え過ぎている」ことが挙げられると指摘します。(カギカッコ内引用元:ダイヤモンド・オンライン|【絶対NG!】伝え方が残念過ぎる人の特徴【ワースト3】)
上の例のように「早く仕事を終わらせて!」という依頼の仕方はは、ストレートすぎて、相手への配慮に欠けていますよね。もしかすると相手も仕事に追われているかもしれないのに、そんな事情を考えずに要望をただ押しつけるだけでは、相手に不快感を与えます。
そこで有効なのが「あなたにこそ、ぜひお願いしたい」という依頼の仕方です。
佐々木氏は、「あなた限定」のメッセージとして伝えるメリットを、こう語ります。
人は「あなたにしか頼めない」と言われると嬉しくなり、要望を前向きに受け入れようとします。(中略)
あなたは特別だよと言われると、ちょっとハードルが高いことでも対応しようという気持ちになります。
(カギカッコ内および枠内引用元:同上)
佐々木氏のアドバイスをふまえ、あなたが誰かに仕事を頼むという視点で、先ほどの例をもう一度見てみましょう。
「午前中までに資料をつくってください。誤字脱字のチェックも忘れないで」
まず、言い方が一方的ですよね。また、「チェックも忘れないで」という言葉は、相手に「自分の仕事の精度を信じてもらえていない」という疑いの気持ちを抱かせかねません。
そこで、この伝え方に “相手にしかできない特別感” を足してみると——
「すばやく情報をまとめられる〇〇さんに、ぜひお願いしたい仕事があります。午前中までに資料を作成してくれませんか?」
相手の “情報収集力の高さ” を認めていること、そして “ほかでもないあなた” を信頼していることが伝わるでしょう。「自分を選んでくれているのなら」という心理が働き、相手は気持ちよく仕事を引き受けてくれるはず。
忙しくて余裕がないと、仕事の頼み方が乱暴になってしまうこともあるかもしれません。そういうときほど、相手が喜ぶ言葉遣いを意識して伝えてみてください。
攻撃的な人には「アドバイス」をもらう
職場の “厄介な人” への対応にお困りの方もいるでしょう。そんな相手に対し感情的になっていては、あなたの人間性が損なわれてしまいます。同じ土俵で戦うのでなく、アドバイスをもらうことで相手の士気を下げてみましょう。
たとえば、嫌味を言われたのだとしたら、その嫌味の内容について「では、私はどうしたらいいでしょうか?」と助言を求めるのです。
そもそも、マウント、嫌み、叱責……などによって相手を攻撃する人は、なぜそうした厄介な言動をとるのでしょうか。脳科学者の中野信子氏は、次のように分析しています。
相手はあなたを攻撃することで、「自分は正しいことをしている」と思い込んでおり、快楽物質のドーパミンがたくさん分泌されている状態です。
(引用元:マイナビニュース|「嫌いな人」「攻撃的な人」「ウザい人」との上手なつきあい方 /脳科学者・中野信子 ※太字は編集部が施した)
つまり、攻撃すればするほど、相手は “自分の正しさ” に酔いしれているのです。
たとえば、上司が次のような嫌味を言ったとしましょう。
「私は営業を始めて1か月以内には、新規契約をとれたのにな。きみは努力が足りないんじゃないの?」
上司は 「自分は正しい」と思い込んでいます。この状況で「〇〇さんの時代とは状況が違いますから」と反論したところで、受け入れられるどころか上司がヒートアップするのは想像にかたくありません。
このような場面で有効なのが、相手の助言を求めること。中野氏は、「相手に『わたしはどうすればいいですか?』と直接アドバイスを求めてみる」ようにすすめています。というのも、「自分は正しいことをしている」と思い込むときと同様に、「誰かから感謝されたりほめられたりする」ときにも快楽物質が分泌されるためなのだとか。これを「社会的報酬」と呼ぶのだそうです。(カギカッコ内引用元:同上)
つまり、攻撃してくる相手にアドバイスを求めれば、相手に「自分が役に立つ存在だ」と感じさせることができるのです。相手は、あなたを攻撃するときと同様に気持ちのよさを感じるはず。
先ほどの嫌味を言ってくる上司に対しアドバイスを求めると、こうなるでしょう。
【上司】
「私は営業を始めて1か月以内には、新規契約をとれたのにな。きみは努力が足りないんじゃないの?」
【あなた】
「〇〇さんが新規契約を獲得した際、顧客とどのようなコミュニケーションを心がけたのか、教えていただけませんか? 今後の営業に役立てたいため、ぜひご教授お願いします」
このように「アドバイスをください」と頼めば、「経験の多いあなたを尊敬している」という意図を込められます。最後には、相手の心を「攻撃したい」から「役に立ちたい」に変えることができるでしょう。相手からの嫌味はなくなるはずですよ。
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人間は、理性よりも感情が優位になりやすい生き物です。しかし、うまく言葉を使うことができれば、どんな場面でも冷静でいられるはず。信頼を得るために、ぜひ活用してみてくださいね。
東洋経済オンライン|「想定外の質問」にも堂々と答える人の裏ワザ
ダイヤモンド・オンライン|【絶対NG!】伝え方が残念過ぎる人の特徴【ワースト3】
マイナビニュース|「嫌いな人」「攻撃的な人」「ウザい人」との上手なつきあい方 /脳科学者・中野信子
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。