「自分の声」だから学習効果が高まる。録音して聴き直す “耳学習” をやってみた。

15分のスキマ時間を使って「耳学習」をやってみた結果01

「まとまった時間がつくれなくて、勉強がはかどらない」
「時間をかけてテキストや問題集を復習しているが、効果が見られない」
このような勉強のお悩みがある方は、脳科学に基づく、聴覚を使った「耳学習」を取り入れるといいかもしれません。

今回は、たった5分からのスキマ時間で高い学習効果が得られる「耳学習のやり方を、筆者の実践例とともにご紹介しましょう。

勉強のエキスパートたちも実践する「耳学習」

耳学習とは覚えたい内容を自分で読み上げて録音し、聴く学習のこと。じつはこの勉強法には、脳科学的なメリットがふたつあります。

ひとつは、自分で声に出すことで、記憶が定着しやすくなるという点。精神科医の樺沢紫苑氏によると、運動神経を使って口やのどを動かし、声に出しながら覚えた記憶のことを「運動性記憶」と呼び、一度覚えたら忘れにくい性質があるのだそう。

もうひとつのメリットは、耳で聴くと効率よく理解できる点。脳内科医の加藤俊徳氏によると、聴いているあいだはその内容を想像力で補完する必要があるため、さまざまな脳の領域を活性化させて理解が進みやすくなるそうです。

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勉強のエキスパートたちには、こうしたメリットのある耳学習をスキマ時間に取り入れている人がいます。

たとえば、能力開発コンサルタントで、行政書士や社会保険労務士など90個超の資格をもつ高島徹治氏。資格試験の勉強をする際、覚えたいものを録音したICレコーダーを持ち歩き、入浴時のほか、通勤時や休憩時間にも聴いていたそう。

また、農林水産省の官僚時代に働きながら医学部を受験し直した経験をもつ医師の水野隆史氏も、受験勉強では暗記ノートを使って勉強するより、ICレコーダーで録音して耳から覚えるほうが、記憶の定着がいいと感じていたと言います。

では、耳学習をスキマ時間に取り入れる具体的な方法をご紹介します。

(※注:樺沢氏は、オーディオブック等を利用して耳から学ぶ方法を「耳学」と呼んでいますが、耳学を「じがく」と読む場合、「他人の話を聞き覚えただけの知識」という意味にもなるので、この記事では「耳学習」とします)

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スキマ時間に耳学習を取り入れる方法

耳学習の基本は、覚えたい単語やその意味を、自分で声に出して録音すること。しかし前出の水野氏によると、ただ参考書の内容を読んで録音するだけでは、理解が深まらないそう。学んだことを自分の言葉でかみ砕いて、頭のなかで整理してから録音する必要があると言います。

そこで筆者は、リトリーバルと呼ばれる脳科学的手法を使って、スキマ時間に勉強内容を録音することにしました。リトリーバルとは、教材を見ずに要点を頭のなかで思い出すこと。

リトリーバルを推奨するスタンフォード・オンライン・ハイスクール校長の星友啓氏によると、学んだことを頭のなかで整理しながら説明する過程で、記憶が定着しやすくなるそうです。

筆者が実践した耳学習の具体的な手順は、以下のとおり。

  1. 録音する学習範囲を決める
  2. 1で決めた項目ごとに、要点を頭のなかで思い浮かべながらゆっくりと声に出し、録音する
  3. 録音内容が正しいかどうか、テキスト等で確認する
  4. 誤っている場合は、正しい内容で録音し直す
  5. 録音したものをスキマ時間に聴き返す

項目ごとの要点を3つ程度に抑えれば、ひとつの項目を録音するには5分もかかりません

また、星氏いわく、脳には間違えた体験をしたときに一番学ぼうとする性質があるそう。この性質を活かし、内容の正誤が気になる録音直後に答え合わせをすることにしました。

そして間違えた箇所をあらためて理解したら、再録音をします。ステップ1~4までの所要時間は、約15分ほど。

最後のステップ5での聴き返しは、別のスキマ時間を使って行ないます。録音データは、長くても5分ほど。ですので、5分にも満たないスキマ時間でも聴き返せますよ。

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では、これらの手順で実際に勉強した様子をご紹介しましょう。

スキマ時間で耳学習をやってみた

筆者は今回、仕事で必要な知識を身につけようと、薬事法広告研究所による「薬事法などのルールを守った広告作成に関するオンライン講座」を用いて学習。スキマ時間で耳学習ができるよう、準備段階から実践しました。

1. 録音する学習範囲を決める

まず、学習内容を細かく分けて紙に書き、録音する範囲を決めます。今回はオンライン講座だったので、動画のチャプターをメモ紙に書き起こしました。赤い線を引いているのは録音完了の印。線を引くと進捗状況が可視化できるので、モチベーションが上がります。

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2. 各チャプターの要点をゆっくりと声に出し、録音する

次は、タブレットのアプリを使って録音。たとえば、基礎編「化粧品と医薬品の違い」なら、「化粧品は見た目を美しくしたり、清潔にする目的で、主に皮膚に塗る。作用は緩和」のように、頭のなかでまとめながら話します。また録音をあとで聴き返すときに内容を判別しやすいよう、「基礎編-1」と各データに簡単な名前をつけました。

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3. 録音内容が正しいかどうか、テキスト等で確認する

ひとまず録音ができたら、その内容が本当に正しいかどうかを確認します。筆者の場合、「薬機法」というルールの概要を説明する過程で、絶対に言い忘れてはいけない言葉が抜けているという間違いが多々ありました。

たとえば、医薬品等適正広告基準においては「医師の○○さんがこの化粧品をすすめています」といった医薬関係者による推薦表現が禁止されています。録音したものを確認しようと聴き返した際、医薬関係者のなかには美容師や理容師も含まれていることを忘れてしまっている、と気づくことができました。

4. 誤っている箇所を正しい内容で録音し直す

そして、筆者は間違えたところを再録音するにあたり、間違えた箇所を書きながら話すようにしました。書きながら話すことで、間違えた箇所を話すときは自然とスピードがゆっくりになるため、その箇所が強調されます

ノートはB5サイズ(罫線7mm、30行)を使用。中央に縦線を引いて、左側に正しい薬機法のルールを、右側にはルールに沿った具体例を書きました。具体例を入れたのは、仕事に活かせるより実践的な知識にするためです。

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たとえば「医薬関係者の推薦表現の禁止の対象は、医師や薬剤師のほか(中略)理容師・美容師の推薦表現もNG※」「たとえば “カリスマ美容師もすすめるヘアオイル” という表現は間違い」というように、左側から右側へ順に話して録音。15分で、レジュメ約2枚分の勉強内容を録音することができました。

※文章をわかりやすくするため、録音内容を一部割愛しています。

5. 録音したものをスキマ時間に聴き返す

録音が再度完了したら、移動時間や掃除中などのスキマ時間を使って聴き返しました。間違えた箇所を強調しながら録音し直したことで、全体的に抑揚が生まれ、最初よりも頭に入ってきやすくなりました。

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スキマ時間に耳学習を取り入れたら、知識が効率的に身についた!

耳学習を実践して得られた効果や提案したいことを、以下にご紹介します。

1. 書くよりも声に出すほうが、知識を正確に覚えられる

声に出すアウトプットでは、書くアウトプット以上に理解度が問われると感じました。なぜなら、書く場合は書きながら内容を確認できる一方、声に出すやり方だと、録音が終わるまでは話した内容の正誤を確認できないからです。

たとえば「推薦表現が禁止される医薬関係者の対象は、医師と薬剤師……あ、美容師もそうだった」のように、書く場合は内容を確認しながら修正を加えられます。

一方で声に出す場合、「医師・薬剤師」「美容師・理容師」など、必須のキーワードを話す前に頭のなかで並べておかなければいけません。情報をとりこぼさないためには、書く以上に学習した内容を理解しておく必要があると感じました。

2. 再生しながら復唱するとより効果的

録音したものを聴く際は、内容をただ聴き流すのではなく頭のなかで復唱すると、時間が経って忘れているところがないか確認できるのでより効果的だと感じました。

たとえば「推薦表現が禁止される医薬関係者の対象は……」と流れてきたら「医師、薬剤師、美容師、理容師……」と頭のなかで一緒に唱えてみましょう。すべて聴き終わる前にパッと思い出せるようになれば完璧です。

***
スキマ時間に手軽に始められる「耳学習」。ぜひ、取り入れてみてくださいね。

(参考)
goo辞書|耳学問(みみがくもん)
樺沢紫苑 (2019), 『学び効率が最大化するインプット大全』, サンクチュアリ出版.
樺沢紫苑 (2018), 『学びを結果に変えるアウトプット大全』, サンクチュアリ出版.
PR TIMES|ラジオを聴き続けると記憶系脳番地※が最大2.4倍、聴覚系・理解系脳番地※が最大2倍成長することが明らかに
高島徹治 (2014), 『3ヵ月で結果が出る! 資格が取れる! 「超効率」勉強法』, 講談社.
プレジデントオンライン|"60歳で医師"驚異のボイスレコーダー倍速勉強 農水省の官僚が働きながら難関突破
星友啓 (2021), 『脳科学が明かした! 結果が出る最強の勉強法 スタンフォード大学OHS校長が教える「超効果的頭の使い方」』, 光文社.
薬事法広告研究所

【ライタープロフィール】
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。

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