社会人になって以降、会社から指示されたこと以外の勉強はしないという人もいるかもしれません。でも、だからこそ自発的な勉強の必要性が出てきます。自ら進んで勉強ができるかどうか――それこそが、社会人としての成長を大きく左右するでしょう。そうであるならば、できるだけ「勉強ができる人」になりたいもの。
共著『「超」勉強力』(プレジデント社)を上梓した、脳科学者の中野信子(なかの・のぶこ)さんと信州大学特任准教授の山口真由(やまぐち・まゆ)さんに、それぞれ「勉強ができる人」になる方法を教えてもらいました。
構成/岩川悟・清家茂樹 写真/榎本壯三
中野信子さん
習慣化よりも「好き」を追求する
「勉強ができる人」になるには、とにかく「勉強を好きになる」ことが大切だと私は考えます。
「勉強を好きになるなんてできないよ」――そんな人もいるかもしれません。たしかに、ただ勉強を習慣化しようとしても難しいし、世の中に習慣についての本がたくさん出ているということは、習慣化に失敗する人がとても多いことの裏返しだと思います。
よく「3週間続けられたら習慣になる」などと言われますが、たとえ3週間頑張っても、それ以降もずっと続けていくのは容易ではないでしょう。3週間を越えてくると、逆に想定外の出来事が起きてくるだろうし、どこか気持ちも緩んでくるかもしれません。頑張って「やろう!」と思っているうちはなかなか続かないもので、苦行のように続けて体のクセにしていくのは戦略としてはありですが、もともとの資質に左右される方法のような気もします。
それよりも私は、「ついやってしまう」ようにするしかないと考えています。「お酒を飲んだあとついラーメンを食べちゃうんだよね……」というような感じで、つい勉強するのです。
勉強もどんなことも、「楽しんだもの勝ち」
「やめよう」と決心したのに、「今日くらいいいよね」「特別な日だし」と言いながら、ついやってしまうことがありますよね? これこそが習慣です。では、本当にやめたいと思っているのに、やめられないのはなぜでしょうか?
それは、好きで好きで仕方ないから。
同じように、勉強が好きな人というのは、勉強をやめたくてもやめられないのです。「いいかげんに勉強をやめて少しは遊びなさい」と言われても、こっそり隠れて本を読んでしまったりする。東大には、私も含めて「いいかげん勉強をやめなさい」と怒られたことがある人がけっこういると聞いたことがあります。
習慣化とはそういうものです。ゲームをずっとやっていたら、それが長じて仕事になったり、プログラミングにのめり込んでいたら、まわりから天才プログラマーと言われるほどになったり。結局のところ、「好き」なのでしょう。
なにかを続けていくこと自体に満足を感じるならそれでいいのですが、そうでない人は、「習慣化しよう!」と頑張るよりも、自分の「好き」の秘密を探っていくほうが早道ではないでしょうか。
そして、勉強を無理に好きになる必要はありませんが、頭から「勉強は嫌だ」と拒絶するのももったいないことです。なぜなら、勉強のなかにはあなたの強い関心を引く領域もきっとあるはずだから。
要するに、どんなことも「楽しんだもの勝ち」なのです。
山口真由さん
勉強ができる人は自分の勉強法を確立している
みなさんは「勉強ができる人」というのはいったいどんな人だと思いますか? 地頭がいい人? テストの点数がいい人? それとも長時間勉強することができる根性がある人でしょうか?
私の答えは明確です。それは、「自分の勉強法」を確立している人です。
勉強とは、新しい知識を得て、それを理解していくことです。そして、このプロセスを短時間かつ効果的に行なうための方法が、「勉強法」です。つまり、「勉強ができる人」は、自分にとって最適な方法を知っていて、それに従って(あるいはそれを信じて)進んでいける人のことなのです。
勉強法といっても、別に難しいノウハウを覚える必要はありません。自分にとって最も楽で、余計なことを考えることなく続けていける方法――それが自分に合った勉強法です。
結局のところ、方法論は人それぞれ。私の場合は小さい頃から本が好きで「読むこと」が得意だったので、同じ本を7回読む「7回読み勉強法」を編み出しました(参考記事:最速で結果がついてくる「7回読み」勉強法)。ですから、私が編み出したこの勉強方法が、すべての人にあてはまると言うつもりはありません。ただ、「7回読み勉強法」は、多くの人が効果を上げることができる、比較的汎用性の高い方法だと見ています。
自分が決めた勉強法を、信じて続ける
いずれにせよ、勉強をつまずかせる大きな原因のひとつは、自分がやっていることを「これでいいのだろうか……?」と疑ってしまうことです。すると、あれこれ気が散ってしまって勉強に無駄が多くなり、どんどん負のループにはまり込んでしまいます。
努力を続けていても、成果がスムーズに右肩上がりを続けることはありません。まるで上り階段のように、途中に必ず「踊り場(停滞期)」があるのです。頑張っているからこそ、なかなか成果が表れない踊り場に留まっていると焦るものです。そして、そんなときに限ってまわりのことが気になって、「あの方法のほうがいいかもしれない」と他人の勉強法に手を出してしまうのです。
しかし、繰り返しますが、「勉強ができる人」は生まれつき才能に恵まれた人ではなく、自分が最も楽な方法で勉強できる人のことです。人には、それぞれ自分に合った勉強法があります。そんな勉強法は “命綱” のようなもので、上に登れないからといって手放してしまうと、停滞するどころか、残酷にも下へと落ちていくだけです。
だからこそ、自分の勉強法は変えてはいけません。改善することは必要ですが、信じて続けることがなにより大切。逆に言えば、どんな人でも自分なりの方法を見出すことができれば、おのずと結果を出すことができるのです。
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勉強は「好き」でなければ続かない。だからこそ、自分の「好き」を追求し、興味関心をひかれることから学んで、勉強を楽しむ姿勢をつくることが大事だと中野さんは教えてくれました。
そうは言っても、社会人として成長するためには、好きではない勉強をしなければならないこともあるでしょう。でも、山口さんが言うように、自分にとって最も楽で、余計なことを考えなくても続けていける勉強法でなら、「しなければならない勉強」も効率的にこなすことができそうです。
場面に応じて、おふたりの勉強法を使い分けることが大切なのかもしれません。
※今コラムは、中野信子・山口真由 著『「超」勉強力』(プレジデント社)をアレンジしたものです。
※肩書は記事公開当時のものです。
【中野信子さん×山口真由さん ほかの記事はこちら】
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【プロフィール】
中野信子(なかの・のぶこ)
脳科学者・医学博士・認知科学者。1975年、東京都に生まれる。東京大学工学部卒業後、同大学院医学系研究科修了、脳神経医学博士号取得。フランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務後、帰国。現在は、東日本国際大学教授、京都芸術大学客員教授として教鞭を執るほか、脳科学や心理学の知見を活かし、マスメディアにおいても社会現象や事件に対する解説やコメント活動を行っている。レギュラー番組として、『大下容子ワイド!スクランブル』(テレビ朝日系/毎週金曜コメンテーター)、『英雄たちの選択』(NHK BS プレミアム)、『ホンマでっか!? TV 』(フジテレビ系)。著書には、『サイコパス』、『不倫』(ともに文藝春秋)、『人は、なぜ他人を許せないのか?』(アスコム)、『空気を読む脳』(講談社)などがある。
【プロフィール】
山口真由(やまぐち・まゆ)
信州大学特任准教授・法学博士・ニューヨーク州弁護士。1983 年、北海道に生まれる。東京大学を「法学部における成績優秀者」として総長賞を受け卒業。卒業後は財務省に入省し主税局に配属。2008 年に財務省を退官し、その後、2015年まで弁護士として主に企業法務を担当する。同年、ハーバード・ロースクール(LL.M.)に留学し、2016年に修了。2017年6月、ニューヨーク州弁護士登録。帰国後は東京大学大学院法学政治学研究科博士課程に進み、日米の「家族法」を研究。2020年、博士課程修了。同年、信州大学特任准教授に就任。出演中の主な番組として『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)、『ゴゴスマ』(CBCテレビ/TBSテレビ系)など。主な著書に『いいエリート、わるいエリート』(新潮社)、『思い通りに伝わるアウトプット術』(PHP研究所)などがある。