「じっくり本を読んだはずなのに、期待したほどには学びが深まっていない」
「以前読んだ本の内容が思い出せない……」
こんな悩みをもつ人には、“感情” と “情報” をセットにした読書ノートをつくるのがおすすめです。
本記事では、読書を通して勉強することの多いビジネスパーソンに最適な「ねぎま式ノート術」とその効果について、筆者の実践とあわせて紹介します。
【ライタープロフィール】
澤田みのり
大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格を取得。現在は国際中医師合格を目指し毎日勉強している。勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。
日本経済新聞|物忘れを防ぎ、記憶力を高める10の習慣
WIRED.jp|「心を動かされる出来事」は、なぜ記憶に残りやすいのか? 研究から見えた脳のメカニズム
介護ポストセブン|記憶力が劇的に回復するメモ術5行日記|あれあれ症候群や認知症対策にも!
ダイヤモンド・オンライン|本を読みっぱなしにしない!確実に自分の血肉にする5つの技術
本で勉強したことを記憶に残すには「感情の記録」が大切
時間をかけて読んだ本が記憶に残らないことがある一方、時間が経ってもありありと内容を思い出せる場合もあるもの。そこには、どんな違いがあるのでしょうか。
じつは、記憶は感情と大きく関わっています。
「感情が伴う記憶ほど長く残りやす」く、「本を読んで自分はどう感じたのかを言葉で表現することが効果的」と話すのは、脳科学者で早稲田大学理工学術院教授の枝川義邦氏。(カギカッコ内引用元:日本経済新聞|物忘れを防ぎ、記憶力を高める10の習慣)
数年前、学生時代に苦手だった歴史を勉強し直すため、ある本を読んだ筆者。学生時代には教科書の内容を追うだけでしたが、このときはなぜか自然と、「あの出来事の背景には、こんなに大変なことがあったんだ」と思いながら読んでいました。その本の内容はいまも強く記憶に残っています。
感情と記憶の関連については、科学ジャーナル誌『Nature Human Behaviour』が発表した研究でも、「脳は外からの情報と内なる感情を結び付けることで、記憶を強化し、ランク付けする神経メカニズムをも」つと結論づけられています。(カギカッコ内引用元:WIRED.jp|「心を動かされる出来事」は、なぜ記憶に残りやすいのか? 研究から見えた脳のメカニズム)
前述の筆者の経験の場合、本の内容(=外からの情報)と読んで感じたこと(=内なる感情)が結びついて記憶が強化され、いまも覚えているというわけですね。
また、強く記憶するために欠かせないのが記録です。「物覚えが悪」いのは「一時的な記憶をつかさどるワーキングメモリーの働きが鈍っている証拠」だと、前出の枝川氏。
脳のワーキングメモリーを必要以上に使わないよう、ノートや手帳、付箋、スマホなどに忘れてはいけないことを記録するのもおすすめだ。記憶ではなく記録にすることで、脳にかかる負荷を減らすことができる。
(カギカッコ内および枠内引用元:日本経済新聞|物忘れを防ぎ、記憶力を高める10の習慣 ※太字は編集部が施した)
ここでポイントとなるのが手書きです。認知症専門医の長谷川嘉哉氏は、「スマホやパソコンで文字を打ち込む時には、決まった法則でしか指を動かさないため、脳はあまり刺激され」ないとしたうえで、手書きが脳を刺激するプロセスについて以下のように説明します。
- 「脳内では記憶の形成や想起に重要な役目を果たす海馬から、記憶を引っ張り出」す
- 引っ張り出した記憶を「記憶を言語化する前頭前野で文章として組み立て」る
- 組み立てた文章を「指先を繊細に動かして書く」
(カギカッコ内引用元:介護ポストセブン|記憶力が劇的に回復するメモ術5行日記|あれあれ症候群や認知症対策にも!)
たしかに、筆者もパソコンでまとめた勉強内容より手書きのほうが記憶に残っていることが多いかもしれません。これは脳が刺激されたためだったのですね。
以上から、勉強のために読んだ本の内容を記憶に残すには、読んだときの感情=感想を手書きで記録するのが大切だとわかります。
「抜き書き」と「感想」を交互に書く読書ノート術
本の感想を手書きするのは時間と手間がかかりそう……。そう心配な人でも気軽に取り組みやすい、読書ノート術があります。
『読書は1冊のノートにまとめなさい』著者の奥野宣之氏が考案した、「ねぎま式読書ノート」です。(カギカッコ内引用元:ダイヤモンド・オンライン|本を読みっぱなしにしない!確実に自分の血肉にする5つの技術 以下本項内参考元・および本項中のカギカッコ内引用元:同記事)
これは「良書を読んだ体験」を残すための読書ノート術で、やり方は
- 「自分にとって重要な記述(抜き書き)」
- 「その文章に対しての自分の感想(コメント)」
を交互に書くだけ。焼き鳥のねぎまのように交互に書くことが、ネーミングの由来だそうです。
感想はひとことでもよく、特に感想が浮かばないときでも「書いた日付」「本のタイトル」「著者名」の3点さえ書けば、「『この時期にこの本を読んだ』という読書体験が目に見えるかたちで残せ」るとのこと。
また、抜き書きには「記憶への定着を助け」、「理解が深まる」効果もあるとか。著者の意図を正しく理解して記憶するのに、大いに役立ちそうです。
実際に、筆者もねぎま式読書ノートをつくってみることにしました。
奥野氏によれば、読書ノートを効率よくつくるには、「読みながら下準備を進め」ることがポイントだとのこと。具体的には、「最重要箇所を段階的に洗い出していく『スクリーニング作業』」を行なえば、「どこが一番よかったのかわからない」事態を防げるそうです。
じつは筆者には、印象に残った箇所を抜き書きする形式の読書ノートを書こうとしたものの、抜き書きしたい箇所が多くなりすぎてしまい、結局ノートに書くのを断念した経験があります。しかし、きちんとスクリーニングをして書くべき箇所を精査すれば、かつてのような失敗をする心配はなくなりそうです。
そんなスクリーニング作業の流れは、奥野氏によると以下の通り。
- 「普通に読みながら『いいな』と思ったところはページの上の角を折」る
- 「読了したら、角を折ってあるページだけを読み返していく。その際、『あらためて、いいな』と思ったところだけ、ページの下の角を折」る
- 「上下の角が折られたページだけを読み返し、『3度目だが、やはりいいな』と思ったところだけ、ペンで印を付け」る
(カギカッコ内引用元:同上)
奥野氏はページを折ったり本に書き込んだりすることを提案していますが、筆者は付箋を使うことにしました。
作業1で、ページの上の角を折る代わりに付箋を貼った様子がこちらです。
いいなと思った箇所がたくさんあり、付箋の数が多くなってしまいました。ちなみに、2色の付箋は以下のように使い分けました。このルールは、奥野氏がしている印の使い分け方にならったものです。
- 水色:「まあ大事」「客観的に重要」「一応、頭に入れておきたい」
- 薄黄色:「すごく大事」「主観的におもしろい」「忘れずにどこかで活用したい」
(カギカッコ内引用元:同上)
作業2では、ページの下の角を折る作業を、記録する必要がないと感じた箇所の付箋を外す作業に代替しました。
そして作業3では、ペンで印を付ける代わりに、作業2で付箋を残した箇所を読み返し、やはりいいなと思った箇所のみ付箋を残すことに。それ以外の付箋はすべて外します。
最初と比べ、付箋が半分ほど減ったのがわかるでしょうか。これでようやく準備完了です。
続いて、読書ノートの作成に移ります。携帯しやすいよう、奥野氏同様にA6サイズのノートを用意しました。
1行目には「書いた日付」「本のタイトル」「著者名」を記録。その下から「抜き書き」と「自分の感想」を交互に書きます。
奥野氏は「行頭記号」をつけて区別していたので、筆者もそれにならい、抜き書きと感想の前にそれぞれの記号をつけました。
感情とともに本の内容がよみがえる
抜き書きで「大事なのは、あくまで『自分の』心が動いたところ」だと奥野氏が言うとおり、まさに自分の心が動いた文章が詰まった読書ノートが完成しました。(カギカッコ内引用元:同上)
ノートを見れば、心が動いた文章と自分の感想をセットで振り返ることができ、そのときの感情とともに鮮明に思い出せました。
このノート術は心が動いたところがポイントのため、自己啓発系の読書に向いていると感じます。また、語学学習のテキストなどで「この表現いいな」と感じたところを抜き書きし、どんなところが気に入ったか、どんなシーンで使いたいかをあわせて記録する使い方もよさそうですね。
紙の書籍に限らず、電子書籍の場合でもしおり機能やラインマーカー機能をうまく用いれば、ねぎま式ノート術を実践できるでしょう。
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読書での学びを深められるよう、この記事を参考に読書ノートをつくってみてはいかがでしょうか。心が動く良書に出会ったときは、その心の動きをぜひノートに残してくださいね。