「まじめに勉強してるのに、友人に追いつかない……」
「勉強量を増やしても、なかなか成果が出ない……」
「こんなに苦しい思いをして努力しているのに……」
まじめに勉強に取り組んでもなかなか成果が出ず、行き詰まりを感じる人もいるのではないでしょうか。そんな人は、一度まわりを見渡してみてください。手を抜いていてズボラなのに、なぜだか結果を出す――そんな人はいませんか?
両者の違いを比較しながら、なぜ成果に差が出るのかを解説します。
【違い1】ズボラな人は休憩をとっている
まじめな人ほど「休憩する時間さえも惜しい……」と、休むことを犠牲にしがち。反対に、頑張らないズボラな人は、休憩を積極的にとっています。
勉強量では確実に上回るはずの、いつもまじめな人。しかし成果を出せているのは、休憩をしっかりとる頑張らない人。――この違いは、いったいなぜ生まれるのでしょう?
順天堂大学教授の小林弘幸氏いわく、医学的・生理学的に、人間の集中力は90分が限界なのだとか。休む暇を惜しむまじめな人ほど、集中力が切れてもそれを回復させる機会がありません。その結果、充分に集中できないパフォーマンスの低い状態で、勉強を続けることになってしまうのです。
また、適度な休憩が学習成果を高めることを裏づける研究事例もあります。東京大学教授の池谷裕二氏が実施した研究では、中学生の被験者を2グループに分け、英単語を覚えさせました。すると、1時間通して勉強した「60分間学習」グループよりも、15分ごとに休憩を挟むサイクルを3回行なう「15分学習×3回(計45分間)」グループのほうが、翌日のテスト成績がよいという結果に。休憩なしのグループより休憩ありのグループのほうが、勉強量は下回っているのにもかかわらず好成績を出せたというのは、意外ですよね。短時間でも集中して勉強するほうがいい、ということなのです。
勉強中休んでいるように見える人が成果を出せているのは、この集中力を保つ方法を把握しているからなのかもしれません。
【違い2】ズボラな人は睡眠を削らない
休憩時間だけではなく、睡眠に関しても両者には差があります。まじめな人にとって、深夜遅くまで勉強に打ち込むことは珍しくないでしょう。ところが、頑張らない人は勉強したら早めに寝床についてぐっすり熟睡……。よりいい成果を出せるのは、睡眠をたっぷりとる人のほうです。眠気をこらえて必死に努力している人からすれば、納得できない事実かもしれません。
じつは、脳科学的な観点から見ると、睡眠を優先するほうが理にかなっているのです。
東北大学加齢医学研究所教授の瀧靖之氏は、睡眠と学習には密接な関係があると述べます。その鍵を握るのが、記憶をつかさどる「海馬」の働き。睡眠不足の状態だと脳内でストレスが生じ、海馬を縮小させてしまう可能性があるのだとか。反対に充分な睡眠をとっている人は、海馬を育て、勉強効率を上げることができるのです。
さらに、勉強後すぐに寝るのも記憶定着に効果的だと瀧氏は言います。というのも、脳内では眠っているあいだにその日の記憶が整理され、必要な情報が記憶として定着するから。特に暗記科目においては、寝る直前の勉強が効果大だそう。
遅くまで机に向かわないで、勉強したらさっさと寝る――一見、手を抜いているように思えるこの行為は、学習内容を定着させるのにとても合理的なのですね。
【違い3】ズボラな人はスキマ時間を活用している
まじめな人ほど、まとまった勉強時間を確保することに注力して、勉強計画を立てようとするもの。しかし裏を返せば、「まとまった時間」にこだわるあまり、計画に組み込んだ勉強時間以外の「スキマ時間」を見過ごしてしまう可能性も。
普段、勉強している姿を見せないのに成果を出せている人は、じつは移動中や待ち時間を活用して、小さな勉強を積み重ねているのです。
現役東大生であり作家としても活動する西岡壱誠氏いわく、東大生には、高校時代を勉強に捧げた人がほとんどおらず、多くは部活動にも励む文武両道の生活を送っていたのだそう。それにもかかわらず、難関である東大受験を突破できたのは、スキマ時間を有効活用していたから。
脳のリハビリが専門の菅原洋平氏は、スキマ時間の活用は効率のよい勉強法だと述べています。その理由は、勉強と勉強のあいだに時間をおくことで、勉強した知識を「使える」状態にするために加工処理する作業を、脳が行なえるためだとか。
勉強によってインプットされた情報は脳内に蓄えられていた別の情報につなげられたり、別の関係ない作業によってインプットされた情報とつなげられたりして使える情報に加工されています。
つまり、入力すればすぐに勉強したことになるわけではなく、脳内での加工作業が挟まることで、「丸暗記」から「使える知識」になるのです。
(引用元:新R25|「1つの勉強をじっくり」VS「違う勉強を同時進行」…脳をうまく使った効率的な勉強法は?)
勉強の成果を出すために重要なのは、「情報入力→加工→活用」というサイクルを脳内で回すこと。一気に長時間勉強するよりも、スキマ時間の勉強を積み重ねることで、使える知識が増えていくのです。
【違い4】ズボラな人は肩の力を抜いている
「参考書のすべてのページに目を通さなければ」「毎日のノルマを達成しなくては」……このように、まじめな人ほど完璧にやり遂げることを目指しがち。反対に、ズボラな人ほど肩の力を抜いていて、自分自身を追い込みません。じつは、こうした勉強に対する態度の差も、成果に関係があるのです。
トレスペクト教育研究所代表の宇都出雅巳氏は、講座やセミナーで生徒たちに「頑張って勉強しないこと」とアドバイスをするのだそう。宇都出氏いわく、意気込みが強すぎると、かえって勉強が長続きしなかったり、集中力が途切れたりしてしまうのだとか。
認知科学的な見地から言うと、その理由は「ウィルパワー」を消費してしまうことにあります。ウィルパワーとは「意志力」のこと。たとえば、我慢して無理な勉強を続けると、ウィルパワーを大きく消費してしまうため、勉強に意欲を注げなくなってしまいます。肝心なのは、ウィルパワーを節約する緩い勉強を維持することなのです。
また、勉強に対する「好き」や「嫌い」などの感情も、成果に関係があります。まじめな人がやりがちな「頑張りすぎる」勉強はときに苦しく、ストレスの要因にもなりかねません。前述の瀧氏は、感情が脳に与える影響について以下のように述べています。
嫌だという気持ちがあるとストレスホルモンが分泌され、記憶を司(つかさど)る海馬や前頭前野の脳細胞が萎縮。反対に、好きだと思うとストレスが減り、脳は本来の機能を伸び伸びと発揮する。また、海馬の近くに位置して感情を司る扁桃体(へんとうたい)が、海馬の脳細胞に影響を与え、記憶の定着を強めます。
(引用元:NIKKEI STYLE|脳のパフォーマンス最大に 脳医学者お薦めの勉強法 ※太字は筆者にて施した)
苦痛な勉強はしない。楽に勉強する――ズボラな人のそんな態度は、勉強を嫌いにならないためにもストレスを回避するためにも、大事なことだったのですね。
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「努力をしているけど結果が出なくてつらい……」そんなときには、頑張らない人の勉強方法を参考にしてみてはいかがでしょう。
(参考)
NEWSポストセブン|人間の集中力は90分が限界 長時間労働でも疲れないための休憩術
朝日新聞デジタル|勉強時間は短い方が好成績?
東洋経済 ONLINE|「寝る直前10分の勉強」が効果絶大なワケ
東洋経済 ONLINE|「文武両道の東大生」の勉強法が効率的すぎた
新R25|「1つの勉強をじっくり」VS「違う勉強を同時進行」…脳をうまく使った効率的な勉強法は?
PRESIDENT online|スイスイ覚えられる「勉強しない勉強法」
NIKKEI STYLE|脳のパフォーマンス最大に 脳医学者お薦めの勉強法
【ライタープロフィール】
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。