文章をうまく書きたいけれど、具体的にどんな工夫をしたらいいのかわからない。そう思っている方はいませんか? うまく書こう、うまく書こうとただ頑張っても、本当に効果的な方法をとらなければ、あなたの文章は何も変わりません。
そこで今回は、確実にうまくて読みやすい文章が書けるようになるコツをご紹介します。キーワードは3つの黄金比「3:7」「1:1」「8:2」です。
【1】文章の見た目は「漢字:ひらがな=3:7」がベスト
まずは文章の見た目です。読んでもらうには、文の内容だけでなく見た目のとっつきやすさも大事。かっこよく書こうと漢字ばかり使って堅苦しくなったり、わかりやすくしようとひらがなばかり使って幼稚になったりしていませんか?
文章を読みやすくするための漢字とひらがなの最適な比率は、3:7だと言われています。ビジネスコミュニケーション指導などを手がける、株式会社パンネーションズ・コンサルティング・グループ代表取締役の安田正氏によれば、新聞など活字媒体の文章は、おおむねこの比率になっているそう。筑波大学人文科教育学会の機関誌「人文科教育研究」で発表された漢字・仮名まじり文に関する研究でも、「漢字の割合が30%のときに、語としての弁別機能が最も有効に働く」と推測されています。
次の例文を読んでみてください。
- 「読みやすい文章をかくためには、漢字とひらがなの比率がたいせつです。」
(漢字使用率約21%) - 「読みやすい文章を書くためには、漢字とひらがなの比率が大切です。」
(漢字使用率約32%) - 「読みやすい文章を書く為には、漢字と平仮名の比率が大切です。」
(漢字使用率約48%)
どうでしょう。2の文章が最もスムーズに読めたのではないでしょうか。
とはいえ、文章を書くたびに漢字の数を数えるわけにはいきませんね。そこで安田氏は、「漢字:ひらがな=3:7」にする目安として、「動詞と名詞」は漢字、「その他の言葉」はひらがなで書くことをすすめています。動詞と名詞は特に文章の中心ですから、文章の見た目にメリハリがついて読みやすくなりますよ。ぜひ意識してみてください。
【2】一文の中身は「文:伝えたいこと=1:1」を厳守
続いて、一文の中身です。わかりやすい文章では、ひとつの文につき、伝えたいことは主にひとつだけしか書かれていません。「文:伝えたいこと=1:1」にすることを「一文一義」といいます。
一文一義のルールを守れない文章が下手な人は、文を次々と「、」でつなぎがちです。その例がこちら。
「私たちは日々さまざまな課題に直面しているが、そのなかでも大きな課題のひとつが環境問題であり、弊社では環境に配慮した製品をつくる工夫をしている。」
一文のなかで、「普遍的な話」→「環境問題の話」→「弊社の話」とどんどん話題が変わっていますね。前出の安田氏は、このような場合はひとつの話題ごとに文を区切り、適宜接続詞でつなげるとよいと言います。上の例文をそのとおりに直してみましょう。
「私たちは日々、さまざまな課題に直面しています。そのなかでも、大きな課題のひとつが環境問題です。そこで、弊社では環境に配慮した製品をつくる工夫をしています。」
格段に読みやすくなりましたね。
伝わる文章の書き方について説いた著書を多数もつ山口拓朗氏は、一文一義について次のように表現しています。
文章というのは、小さい舟のようなものです。その舟に積める荷物(=情報)はひとつだけです(積んでも2つまで)。
たくさん荷物を積みすぎると沈没してしまいます。
荷物(=情報)をひとつ運び終えたら、次の荷物をまた運ぶ。
小刻みなピストン輸送こそが、分かりやすさの秘訣です。
(引用元:山口拓朗公式サイト|伝わる文章の書き方/「一文一義」で小刻みに運ぶ)
焦って情報を詰め込もうとしなくてよいのです。読み手の受け取りやすさを考えて、伝えたいことは一文にひとつずつ、小刻みに丁寧に伝えましょう。
【3】内容は「共感:発見=8:2」が魅力的
最後は文章の内容についてです。編集・ライティングを手がける株式会社WORDS代表取締役の竹村俊助氏は、「おもしろい文章は、『共感8割、発見2割』」だと言います。
たとえば、ひたすら新しい情報を与えるだけの文章は、こんなふうになります。
「菊池寛は1888年、香川県香川郡高松市に生まれた。第一高等学校、京都大学文科大学などを経て、時事新報社会部記者となる。1917年に戯曲『父帰る』、1919年に小説『恩讐の彼方に』を発表し、執筆活動に専念。1920年『真珠夫人』で人気作家となり、1923年には雑誌『文藝春秋』を創刊した。」
内容は頭に入ってきたでしょうか。菊池寛というと、ほとんどの方にとっては「そういえば現代文で出てきたな……」という記憶がある程度だと思います。特に思い入れのない人物についてバーッと情報だけ並べられても、目が滑ってしまいますよね。
同じ菊池寛について、「共感:発見=8:2」を意識して書くとこうなります。
「みなさん、芥川賞はご存じですよね。2015年にはお笑い芸人又吉直樹氏の『火花』が受賞し、大きな話題になりました。いまでは日本で最も重要な文学賞となった芥川賞ですが、1935年にこの賞を設立したのは、菊池寛という小説家です。彼は芥川龍之介の学友でした。芥川が自殺したのち、菊池は彼の名前を残そうと文学賞をつくったのです。」
先程の文章より格段に読みやすかったのではないでしょうか。まず読み手を共感させてひきつけ、そのうえで新しい情報を出す。それが「なるほど!」と思わせる文章の秘訣なのですね。
竹村氏は、「『発見だらけ』の本は疲れるし、『共感だらけ』の本は飽きられる」と言っています。「共感:発見=8:2」のバランスを意識すると、一番読み手の興味をそそる文章が書けるのです。
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「漢字:ひらがな=3:7」
「文:伝えたいこと=1:1」
「共感:発見=8:2」
この3つの黄金比を使うと、文章は格段に読みやすくなります。うまい文章を書きたい方は、ぜひ「3:7」「1:1」「8:2」を意識してみてください。
(参考)
小山内陽子(1990), 漢字・仮名まじり文の読みやすさ : 表記面からみた読みやすさの条件, 人文科教育研究, Vol.17, pp. 85-93.
日経クロステック|漢字と平仮名の割合を適切にする
日経クロステック|一文一義にする
日経クロステック|一文を短くする
山口拓朗公式サイト|伝わる文章の書き方/「一文一義」で小刻みに運ぶ
竹村俊助(2020),『書くのがしんどい』, PHP研究所.
Wikipedia|菊池寛
Wikipedia|芥川龍之介賞
【ライタープロフィール】
梁木 みのり
大学では小説創作を学び、第55回文藝賞で最終候補となった経験もある。創作の分野のみでは学べない「わかりやすい」「読みやすい」文章の書き方を、STUDY HACKERでの執筆を通じて習得。文章術に関する記事を得意とし、多く手がけている。