「努力して勉強しているけど、成果が出ない」
「効率のいい勉強法を調べて工夫しているはずなのに、うまくいかない」
「やる気にムラがあり、コツコツ続けることができない」
このように感じている人は、もしかすると勉強に対する考え方がよくないのかもしれません。
今回は勉強で成果を出すのにNGな思考と、その改善方法をご紹介します。
NGな思考1:無理に「勉強はおもしろいもの」と思おうとする
勉強がうまくいかない人は、勉強が得意な人を見ると「自分も彼らみたいに勉強が好きになれたらいいのに……」と考えるかもしれません。しかし、勉強が得意に見える人も「勉強が好き」「勉強はおもしろい」と思っているとは限らないようです。
塾や予備校に通わずして東京大学法学部に現役合格し、さらに首席で卒業した経歴をもつ山口真由氏は「勉強はおもしろくないと諦めたうえで、割りきって勉強するしかない」と語ります。大前提として「勉強はおもしろくない」のだから、勉強そのものへのモチベーションは湧かなくて当然。このことは、東大を首席で卒業するほどの人でも、ほかの人と変わらないようです。
では、勉強を「やる人」と「やらない人」で分かれるのはなぜなのでしょう。山口氏は、勉強する理由は「自分自身の目的のため」だと言います。小学生の頃から官僚になりかったという山口氏は、「官僚になるには東大法学部に行かなければならない」「東大法学部に行くためには……」と逆算して考え、自分の夢と勉強を結びつけていたのだとか。
山口氏は「勉強自体に夢を見たり、悩んだりしないほうがいい」と断言します。「将来なりたいものがあるから勉強する」「大学に受かりたいから勉強する」というように、勉強を単純に目的のためにやらなければならないことだととらえるべきなのです。
「この資格に合格すれば、こんな仕事ができるようになり、人々の役に立ち、自分の人生の満足度が上がり、収入も増える」というように具体的に考え、目標をはっきりさせてみましょう。そうすれば、勉強を継続するためのモチベーションは上がるはずです。
NGな思考2:「まとまった時間が確保できたら勉強しよう」と考える
「勉強するのは、まとまった時間をつくり、机に向かって『勉強モード』になってから……」というように、勉強をするのに高いハードルを感じてしまう人は、じつは効率の悪い勉強をしているかもしれません。
東京大学教授の池谷裕二氏によると、勉強内容を効率よく記憶するためには、1回に勉強する内容は無理のない程度の少なめの範囲に抑え、毎日コツコツと勉強することが重要だそう。一気に多くの情報を覚えようとすると、記憶が干渉し合い、せっかく覚えたことが不正確になるため、勉強したことが無駄になりかねないと言います。つまり、まとまった時間を確保することにこだわるよりも、短い時間でもいいので毎日コツコツと勉強するほうが、学んだことがしっかりと記憶に定着するのです。
また、「60分の勉強よりも、15分の勉強を3回(合計45分)やったほうが脳に記憶が定着する」という研究結果も出ています。池谷氏が株式会社ベネッセコーポレーションと共同で、次の実験を行ないました。
- 被験者の生徒たちを「60分学習」のグループと「15分×3(計45分)学習」のグループに分け、英単語を覚えるよう指示。
- 直後のテストでは「60分学習」のグループのほうが、事前に行なったテストからの上昇スコアが高かった。
- ところが、翌日のテストでの上昇スコアは、「15分×3(計45分)学習」グループが「60分学習」グループを逆転。さらに1週間後のテストでも、「15分×3(計45分)学習」グループのほうが好結果を残した。
長時間続けて勉強するよりも、短時間で集中して学ぶことを繰り返すほうが、学習内容を長期的に身につけられることがわかったのです。
「長い時間を確保できたときだけ勉強しよう」「この時間にできるだけたくさん詰め込むぞ」という考え方はやめたほうがいいでしょう。その代わり、「電車移動の15分間で参考書に目を通す」「お昼休みを15分削って単語を覚える」「出勤前に15分だけ机に向かう」など、15分のスキマ時間を捻出してみてはいかがでしょうか。
NGな思考3:勉強方法にこだわりすぎる
さまざまなメソッドを試して「どんな勉強方法が自分には合っているのだろう」と迷っているあなた。その時間、無駄かもしれません。
カリフォルニア大学教授のハル・パシュラー氏と、サウスフロリダ大学教授のダグ・ローラー氏によると、勉強方法が学業成績に影響を与えるという科学的な証拠は存在しないそう。また、学会誌Learning and Individual Differencesに掲載された記事によると、学習方法によって勉強の精度が上がるというのは神話であるとのことです。
インディアナ大学医学部が行なった研究もこれを証明しています。研究では、数百人の学部生たちにアンケートを実施し、それぞれの学生が、視覚・聴覚・読み書き・実践のうちどの勉強方法を最も得意としているかを測りました。その後、学部生たちに解剖学のクラスをとらせ、期末の時点で彼らの勉強方法が成績に影響したかを見たそうです。その結果、勉強方法と成績には特に関係性が見られなかったとのこと。
また、生徒たちのうち67%は、最初のアンケートで確認した「得意な勉強方法」以外の方法で学習していたことも判明。一方、得意な勉強方法で学習した生徒たちも、特にほかの学生たちよりよい成績を出したというわけではありませんでした。
「画像やイラストなどがあると覚えやすい」「声に出して読むのが自分には合っている」「オリジナルのノートをつくることが一番いい」など、人によって好みのやり方はあるかもしれませんが、過度にこだわってはいけません。「学習方法」はそれほど重要ではないのです。さまざまな情報に惑わされていろいろと試行錯誤するよりも、とにかく勉強をやり始めることが大切ですね。
NGな思考4:「自分は意志が弱い」と卑下する
勉強習慣が定着しておらず、「今日はなんとなくやりたくないな」とついついサボってしまう……。そのたびに「自分はなんて意志が弱いんだ」と自己嫌悪に陥っている人は、なぜサボってしまうのか、その理由を自覚してみましょう。
作家・講演家・起業家プロデューサーといったさまざまな肩書をもつ星渉氏は、著書『神メンタル「心が強い人」の人生は思い通り』のなかで、新しいことを始める際に挫折してしまう原因となる「心理学的ホメオスタシス」について紹介しています。
「心理学的ホメオスタシス」とは、脳の「変化を止めようとする働き」のこと。私たちの脳は「いままでの自分でいること」を最優先します。生きていくうえで脳が最も大切にしていることは、「死なないこと」つまり「生命の維持」。脳は「いま、生きているのだから、いまの状態を変える必要はないだろう」「何か新しいことを始めるのは命にとってリスクだ」と言わんばかりに、私たちの行動を制御してくるのだそう。
普段から勉強を毎日やっている人であれば、勉強することをあまり負担には感じないかもしれません。しかし、やり慣れていない人の脳では「心理学的ホメオスタシス」が働きます。「自分にはできない理由」を探してみたり、「おっくうだな」という感情を生み出したり、失敗したときのことを思い浮かべたり……脳はあなたの変化を全力で止めようとするのです。
そのため、勉強をサボってしまう自分に対して「今日もやろうと決めていたことができなかった」「私は意志が弱い、だからできないんだ」と自分を責めるのはNG。「心理学的ホメオスタシスが原因なのだ」と自覚できれば、冷静な対処ができると星氏は言います。「脳が『やりたくない』と言ってるな。けれど10分だけやってみよう」と、とりあえずでも机に向かうことができれば、大きな前進ではないでしょうか。
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「勉強を頑張りたい気持ちはあるのにうまくいかない」という人は、考え方が邪魔をしているのかもしれません。自分がもっているNGな思考を自覚することで、改善していきましょう。
(参考)
大学受験ハッカー|「時間を決めて繰り返す」に尽きる。勉強を“あたりまえ”にする大切な習慣
朝日新聞|勉強時間は短い方が好成績?
EdTechMedia|ぺんてる、「東京六大学卒業生・在校生調査」を実施。受験や勉強で重要なことについて調査
Business Insider|The idea that we each have a 'learning style' is bogus — here's why
Science Direct|Testing the ATI hypothesis: Should multimedia instruction accommodate verbalizer-visualizer cognitive style?
Psychological Science in the PUBLIC INTEREST|Learning Styles: Concepts and Evidence
東洋経済オンライン|頑張っても報われない人が陥る悪いクセの正体
【ライタープロフィール】
Yuko
ライター・翻訳家として活動中。科学的に効果のある仕事術・勉強法・メンタルヘルス管理術に関する執筆が得意。脳科学や心理学に関する論文を月に30本以上読み、脳を整え集中力を高める習慣、モチベーションを保つ習慣、時間管理術などを自身の生活に取り入れている。