いい文章を書こうとして失敗する人の残念な特徴。「うまく書きたい」という思いは捨てなさい

上阪徹さんインタビュー「うまい文章を書こうとしてはいけない」01

「いい文章を書きたい」——。その願望は、仕事で文章を書く機会が多いビジネスパーソンにとって共通するものでしょう。

ところが、数々のベストセラーを生み出し、「ブックライター塾」も開講しているブックライターの上阪徹(うえさか・とおる)さんは、「いい文章を書きたい」「うまく書きたい」と考えることこそが、文章で失敗する大きな要因だと語ります。いったいどういうことなのでしょうか。失敗しない文章を書くために必要なこととあわせて教えてもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

失敗するのは、「うまく書こうとしすぎている人」

「いい文章を書こうとして失敗する人」は、言い換えれば「うまく書こうとしすぎている人」と言えます。

そういう人は、文章を書くべき本来の目的を見失っています。文章には「誰に対してなにを伝えるべきか」という目的があるものです(『「文章が下手な人」に決定的に欠けていること。あなたに読み手への “サービス精神” はあるか?』参照)。でも、失敗する人の多くはその目的を見失い、「うまく書くこと」が目的になっています。そのために、やたらと難解な漢字や言い回し、専門用語を使うなど、「自分を賢く見せたい」といった意図が文章に表れてしまうのです。

特にビジネスパーソンのみなさんに注意してほしいのは、「カタカナ言葉の使いすぎ」です。いまのビジネスシーンには、「それは日本語のほうがわかりやすいんじゃない?」と言いたくなるようなカタカナ言葉があふれています。もちろん、同じ組織内で日常的に使っている言葉を組織内で使うのなら問題ないでしょう。でも、社外に向けたプレスリリースやメールなどでも同じ感覚で使うのはNGの行為です。

そういった文章は、ぱっと見た感じではなにかすごいことが書かれているように見えるかもしれません。でも、本来の目的を見失っているのですから、読み手からすれば「なんだかよくわからない」となるのがオチです。

私がかつて、リクルートグループでコピーライターをしていたときに上司から言われた言葉があります。それは、「わかったようでわからない言葉を使うな」というものでした。文章は読み手が主体となるものであり、これはどんなに有名な作家やライターでも同じ条件です。読み手に理解してもらえなければ、その文章は失敗したことになる。そうであるなら、専門用語など「わかったようでわからない言葉」は避け、なるべく平易な表現にすることを心がけるべきではないでしょうか。

上阪徹さんインタビュー「うまい文章を書こうとしてはいけない」02

「うまい文章」「立派な文章」など誰も求めていない

そもそも、ビジネス文書に対してうまい文章や立派な文章など誰も求めていません。いろいろなツールの発達や人手不足もあって、現在のビジネスパーソンのひとりあたりの仕事量はどんどん増加しています。そんな多忙な人たちが、わざわざ難解な文章を求めますか? これはビジネス文書に限ったことではありませんが、わかりやすさこそが文章に求められる最も大事なことなのです。

もしかしたら、「うまく書こうとしすぎている人」は、文章が自己PRの手段だと思っているのかもしれませんね。でも、それは大きな間違いです。ビジネス文書は、読み手が求めることをきちんと伝えるというツールにすぎないのですから。

しかも、自己PRの手段だと思ってうまく書こうとしているなら、自己PRという目的も達成できないでしょう。先にもお伝えしたように、ビジネス文書がもつ本来の目的を見失っている文章は「なんだかよくわからない」ものになります。そんな文章が周囲から評価されるわけもないですよね。

自分をよく見せよう、大きく見せようという文章は、じつは読み手にはわかってしまうということも知っておいたほうがいいと思います。そういうことに、読み手は意外に敏感なのです。もっと肩の力を抜いて、文章と接したほうがいい。そのほうが、読み手から見ても印象はいいと私は思っています。

上阪徹さんインタビュー「うまい文章を書こうとしてはいけない」03

読み手の立場から「わかりやすさ」を理解する

ここまでの話をまとめると、「いい文章を書こうとして失敗する人」は、「うまく書こうとしすぎている人」であり「自分は文章がうまいと思い込んでいる人」に多いのでしょう。そういう人は、「自分は文章がうまい」という思い込みから脱却する必要が出てきます。

ビジネス文書を評価するのは、自分ではなく読み手です。上司に提出するレポートなら上司が、同僚に提出するレポートなら同僚が評価するのです。どんなに自分でうまいと思ったところで、読み手にダメ出しをされればそれはアウトですから、相手に合わせて相手が求めるいい文章とはなんたるかを理解しなければなりません。

そこでおすすめしたいのは、「読み手の立場」をたくさん経験することです。上司などから高く評価されたレポートを見せてもらうといったことでもいいし、しっかりしたメディアの文章を読むことでもいいでしょう。よく知られた新聞や雑誌といったメディアの記事なら、きちんと校閲が入っていて読み手にとってわかりやすい文章になっていることがほとんどです。また、なんらかの専門業界向けのメディアでない限り、専門的な内容でも一般読者にとってなるべくわかりやすくなるような言葉を選んで書かれています。そういった記事を意識的にたくさん読んで、読み手にとってのわかりやすさというものを理解してください。

私の場合は、雑誌『AERA』(朝日新聞出版)がそれにあたります。使う漢字と仮名のバランスや、文章の柔らかさといったものに、「こういう文章を書きたい」と思わされます。じつは、私自身もかつては文章を書くことがとても嫌いでした。それが、いまのような立場になれた要因のひとつは、読むトレーニングをずっと続けてきたからなのです。

上阪徹さんインタビュー「うまい文章を書こうとしてはいけない」04

【上阪徹さん ほかのインタビュー記事はこちら】
「文章が下手な人」に決定的に欠けていること。あなたに読み手への “サービス精神” はあるか?
文章は9割が「素材」でできている。書き始める前に “この3要素” に着目せよ!

【プロフィール】
上阪徹(うえさか・とおる)
1966年5月11日生まれ、兵庫県出身。ブックライター。1989年、早稲田大学商学部卒。アパレルメーカーのワールド、リクルートグループなどを経て、1994年よりフリーランスに。経営、金融、ベンチャー、就職などをテーマに、雑誌や書籍などで幅広く執筆やインタビューを手がける。寄稿している主な媒体は『GOETHE』(幻冬舎)、『AERA』(朝日新聞出版)、『週刊現代』『現代ビジネス』(講談社)、『ForbesJAPAN』(リンクタイズ)、『リクナビNEXTジャーナル』(リクルート)、『理念と経営』(コスモ教育出版)等。『メモ活』(学研プラス)、『職業、挑戦者 澤田貴司が初めて語る「ファミマ改革」』(東洋経済新報社)、『サイバーエージェント 突き抜けたリーダーが育つしくみ』(日本能率協会マネジメントセンター)、『人生で一番大切なのに誰も教えてくれない 幸せになる技術』(PHP研究所)、『プロの時間術 大人の時間割を使えば、仕事が3倍速くなる』(方丈社)、『これなら書ける! 大人の文章講座』(筑摩書房)、『マイクロソフト 再始動する最強企業』(ダイヤモンド社)、『企画書は10分で書きなさい』(方丈社)など著書多数。他の著者の本を取材して書き上げるブックライター作品も80冊以上にのぼる。累計40万部のベストセラーになった『プロ論。』(徳間書店)などインタビュー数も多い。近年は、講演活動の他、「上阪徹のブックライター塾」を開講するなど活躍の場を広げている。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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