やる気が出ない・覚えられない・成績が伸びない。勉強のお悩みに効く「認知バイアス」活用法

机で勉強している社会人女性

昇進のため、資格取得のため、業務に役立てるために、忙しいなかでも勉強に励んでいる人も多いでしょう。しかし、勉強には悩みがつきものです。

「やる気が出ない」「記憶できない」「伸び悩みを感じる」——そんな悩みの解決策として、脳科学者としての知見を活かして企業や個人のパフォーマンスをアップさせ続けている西剛志(にし・たけゆき)さんは、「認知バイアス」をうまく扱うことを提案します。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

「勉強しない!」と決断すると、やる気が出てくる?

「認知バイアス」とは、「物事をとらえるときの脳のクセ」のことです。これが、勉強の成否を大きく左右するのです。

「勉強しないといけないとわかっているのに、疲れてやる気が出ない」というケースならどうでしょう? このときに意識してほしい認知バイアスは、「心理的リアクタンス」と呼ばれるものです。心理的リアクタンスとは、「ひとつのことに縛られて自由が制限されると、逆のことをしたくなる」脳のクセを指します。

このことは、子どもの頃を思い出してみればわかりやすいと思います。学校の先生や親から、「これはやっちゃ駄目!」と言われたことほどやりたくなった経験は多くの人にあるはずです。まさに、「やれる」という自由が制限されたために、それを嫌う心理的リアクタンスが働いた瞬間です。

ですから、やる気が出ないときは、無理にやろうとしないことが肝要です。むしろ、「なんとなくやらない」ではなく、「勉強をしない!」と強く決断してしまうくらいでもいいかもしれません。

「勉強をするべきだ」と考えると、脳が自由を制限されて、やる気を失ってしまいます。でも、「勉強しない!」と決めると、脳は、逆に勉強をしたくなってくるというわけです。

心理的リアクタンスについて解説する西剛志さん

脳が覚えているのは、「最初と最後」だけ

また、特に資格勉強をしている人のなかには、「覚えなくてはいけないことをしっかりと記憶できない」という悩みを抱えている人もいるでしょう。

こういうケースでは、記憶に関わる脳のクセに注目してみると効果的です。その脳のクセとは、「間隔効果」と呼ばれるもの。記憶には、覚えようとしたことのすべてを記憶できるのではなく、その最初と最後が記憶として残りやすいという特徴があります。1時間勉強しても、覚えているのは最初と最後のそれぞれ10〜15分程度のあいだに勉強したことだけということもあるのです。

ちょっと前に観た映画の冒頭のシーンとラストシーンは覚えているのに、あいだのストーリーはあまり覚えてないなんてことがあるのも、この脳のクセによるのかもしれませんね。

ですから、2時間の勉強をするなら2時間続けてやるのではなく、30分ごとに休憩を入れながらするのがよいでしょう。そうしたほうが、2時間続けて勉強したケースと比べると、トータルでの記憶量ははるかに大きいものになるはずです。

間隔効果について解説する西剛志さん

勉強で伸び悩むのは、「変化を嫌う」脳のせい

それから、「頑張って勉強を続けているのに、伸び悩みを感じる」というケースなら、「システム正当化バイアス」に注目してください。これは、「これまで続けてきた特定のシステムや慣行を正当化しよう」とする認知バイアスです。

「新しもの好き」といった言葉もありますが、脳は基本的に「これまでどおり」「慣れ親しんだ方法」というものを好み、変化を嫌う傾向にあります。新しいことに取り組むには、たくさんのエネルギーが必要です。そして、体の組織のなかでももともと大きなエネルギーを消費する脳は、変化を受け入れることでさらにエネルギー消費量を増やすことを敬遠するのです。

このシステム正当化バイアスが働いた結果、勉強のやり方自体を間違っているために伸び悩んでいるにもかかわらず、「慣れ親しんだ方法」というだけでその間違った勉強法を続けてしまっている可能性もあるのです。

よくあるところだと、「朝型か夜型か」に関しても、システム正当化バイアスは働きます。一時期、「朝活」という言葉がはやりましたが、「社会人は早起きして勉強すべきだ」といった風潮もありました。

でも、朝型か夜型かということは、生活習慣によってではなく、じつはその多くが遺伝によって決まっています。そのため、遺伝的に強い夜型の人が無理やり早起きして勉強しようとしても成果を挙げることは難しくなるのです。

このケースで重要となるのは、これまでのやり方を疑うこと。伸び悩んでいるのであれば、これまで続けてきた勉強法のどこかに問題があるのでしょう。「勉強はこうすべきものだ」という思い込みを捨て、新たな勉強法にチャレンジしてみてほしいと思います。

カメラに向かってほほ笑む西剛志さん

【西剛志さん ほかのインタビュー記事はこちら】
脳科学者が明かす! 「仕事がうまくいく人」と「いかない人」の差は「認知バイアス」の扱い方にあった
ジョブズも毎朝やっていた。脳科学者が教える「脳内トーク」のすごい力――行動も人生も変えられる!

【プロフィール】
西剛志(にし・たけゆき)
1975年4月8日生まれ、鹿児島県出身。脳科学者(工学博士)、分子生物学者。T&Rセルフイメージデザイン代表。東京工業大学大学院生命情報専攻卒。博士号を取得後、特許庁を経て、2008年に企業や個人のパフォーマンスをアップさせる会社を設立。世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦まで1万人以上をサポート。テレビやメディアなどにも多数出演。『認知バイアスの教科書』(SBクリエイティブ)、『世界一やさしい 自分を変える方法』、『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』、『低GI食 脳にいい最強の食事術』、『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』(いずれもアスコム)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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