【英文法のプロが解説!】数えられそうな「チョーク」が不可算名詞なのはナゼ?

チョークが不可算名詞である理由1

時短型英語ジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」でシニアリサーチャーとして活躍する “英語職人” 時吉秀弥さんが、JTF(日本翻訳連盟)主催のウェビナーに登壇いたしました。表題は「冠詞aを通すと見える、英語話者の「モノ」の見え方」。

日本人英語学習者が最も苦戦する項目のひとつが「可算名詞」と「不可算名詞」。学校教育などでは、可算名詞は「数えられる名詞」、不可算名詞は「数えられない名詞」と教わります。“desk”「机」や “book”「本」は、それぞれ1台、1冊と数えられるから可算名詞。“water”「水」や “love”「愛」は数えられないから不可算名詞――ここまではまだイメージが湧きやすいでしょう。

しかし、日本語でそれぞれ1枚、1本と数えられるはずの「紙」や「チョーク」は、英語では不可算名詞に属します。日本人の感覚になじまないので、混乱してしまうかもしれません。

この区別は、じつは人間が5歳までに身につける “「もの」の見方” が関わっています。そこから可算名詞と不可算名詞の違いを見ていくと、冠詞aの意外な正体が見えてくるのです。今回は、ウェビナーの様子をレポートしながら、「可算名詞」「不可算名詞」の違いや “a” の正体を探っていきましょう。

チョークが不可算名詞である理由2

英語話者と日本語話者の視点の違い

人間は、「もの」を2種類の見方で認識します。ひとつは「」としての見方、もうひとつは「材質」としての見方です。

たとえば、「机」が目の前にあるとします。机をバラバラに砕いたら、もはや「机」とは呼べませんよね。このように、これ以上崩したらそれと呼べなくなるものを、私たちは「形」として認識しています

次に、目の前にある氷を砕く様子をイメージしてみましょう。バラバラに砕いても「氷」と呼べますよね。同様に「チョーク」や「パン」も、いくら細かく切ってもそれぞれ「チョーク」「パン」と呼べます。このように、どれだけ崩してもそれと呼べるものを、私たちは「材質、性質」として認識しているのです

可算名詞と不可算名詞の違いは、「数えられるか」「数えられないか」というよりも、「形」「材質」のどちらで認識しているかが大きく関わっています。「形」として認識するものが「可算名詞」、「材質」として認識するものが「不可算名詞」です

時吉さんは、英語話者は日本語話者に比べて「形」への意識が高い傾向があると指摘します。可算名詞と不可算名詞の苦手を克服するためには、「ものの形」への注意力を高める必要があるそうです。

チョークが不可算名詞である理由3

【aの働きその1】ひとつの形が丸ごと存在している

ここから、可算名詞につけられる冠詞aの2通りの働きを紹介しましょう。

まずは、「ひとつの形が丸ごと存在している」ことを指す “a”。先ほど、これ以上崩したらそれと呼べなくなるものが可算名詞であると述べましたね。以下の例を見てみましょう。

【A】I ate a fish.
【B】I ate some fish.

“fish” は、認識のされ方によって可算名詞にも不可算名詞にもなれる単語です。Aは可算名詞の “fish” で、「どこも欠けていない丸ごと一匹の魚」のこと。頭部や尾びれ、尻尾など、異なるパーツが寄り集まって完成した丸ごとひとつの魚を指します。対して、Bの “fish” は「形」を崩して「素材」になった魚、つまり「切り身の魚」を指します。切り身の魚は、どこを切っても同じ「切り身」ですよね。よって、不可算名詞扱いになるのです。

時吉さんは、「丸ごとひとつの形」を示す “a” の例として、以下のフレーズを紹介しました。 “a” がなぜ常に特定のフレーズで使われるのかが、「丸ごとひとつ」というイメージをもつことで理解できるでしょう。

【make a difference:結果を出す】
Do our part and make a difference.
「自分の役割を果たし、結果を出そう」
(ひとつの完成した「違い」丸ごと)

【make a name:名を成す】
She made a name as a photographer.
「彼女は写真家として名を成した」
(一個の名声の形が確立)

【call it a day:(一日の仕事を)切り上げる】
Let’s call it a day.
「今日はここまで」
(完成した一日丸ごと、と呼ぶ→今日はこれで終わり)

チョークが不可算名詞である理由4

【aの働きその2】同種のもののなかからランダムにひとつ取り出す

もうひとつは、「同種のもののなかからひとつ取り出す」働き。「a+名詞」の「名詞」は「種類、カテゴリー」を表します。「抽選箱からひとつ取り出す」ようなイメージです。 “a dog” であれば、「犬」と呼ばれる同種の動物のなかからランダムに取り出した一匹を指します。

この働きから、 “a world” と “the world” の違いがわかります。 “the world” は「この世でひとつしかない世界」「世界と言ったらこれしかない」という了解を “the” で表します。一方 “ a world”は、「同種のものがたくさんあって、そのなかのひとつの世界」という意味合いです。時吉さんが引用した、“a world” を用いた例文がこちら。

We live in a world where, unfortunately, the threat of gun violence in our schools is very real.
「我々は残念ながら、自分たちの学校に銃の暴力の脅威がとてもリアルに存在する世界に生きている」

この働きからわかるのが、“a” には「ひとつ取り出す」ことで「何もないところから、何かひとつ新たに存在させる」という「存在」の意味をもっていること。以下の例文を見てみましょう。

I bought a shirt and a hat yesterday. I paid ¥3,000 for the shirt and ¥6,000 for the hat.
「昨日シャツと帽子を買った。シャツに3,000円、帽子に6,000円支払った」

この英文では、 “shirt” や “hat” という同種のもののなかからランダムにひとつずつ取り出し、話題として出現させています。学校英語ではよく、「初めて登場する人・事物は “a” 、以降は “the” 」と教わりますが、「何もない舞台に、あるカテゴリーのものをランダムにひとつ取り出す」という定義が、「初出の “a”」の本来の意味なのです。

「取り出されて存在する」という働きがわかると区別できるのが、 “a few/a little” と “few/little” の違い。 “a few” が「少しある」、 “few” が「ほとんどない」という異なる意味になるのは、 “a” が「存在」の意味を表すからなのです。

チョークが不可算名詞である理由5

不可算名詞の働き

「昨日自転車を買った」と「自転車で来た」の「自転車」は、日本語だと同じ意味に見えるかもしれません。しかし英語話者は、これらの「自転車」を違う意味でとらえます。着目している部分が異なっているからです。

I bought a bicycle. → 「一個丸ごとの車体」としての自転車。
I came here by bicycle. →自転車で移動するという「機能」

「材質」として認識するものが不可算名詞と先ほど述べましたね。そこから、ものを「性質」「機能」として認識する場合も不可算名詞扱いになるのです。

「材質」を表す不可算名詞が「性質」「機能」という意味も含むようになった理由は、「メトニミー」という隣接する概念へ意味の焦点が移る現象から。同じ事物でも、着目する点によって意味合いが変わることがあるのです。

同様の例を紹介しましょう。

I bought a TV. 「テレビを買った」→「受像機」としてのテレビ本体
I’m watching TV. 「テレビを見ている」→番組を見る「機能」としてのテレビ

「材質」は「性質」「機能」と隣接します。たとえば「氷」には、冷たいという「性質」や物を冷却するという「機能」、「皮」には、丈夫という「性質」のほか、衝撃や水から保護するという「機能」もあります。「材質」は関連した「性質」や「機能」も兼ねていることから、名詞の「性質」「機能」に着目しているときは、不可算名詞と認識されるようになったのです。

チョークが不可算名詞である理由6

奥深い「可算名詞」「不可算名詞」の世界

以上、ウェビナーの内容をほんの一部だけご紹介しました。「可算名詞」と「不可算名詞」の区別が、人間の「もの」の認識の仕方に基づいているということがわかると、「なぜ日本語では数えられる名詞が英語だと不可算名詞なのか」「普段は “a” をつけられる名詞なのに、なぜ文によって “a” をつけない不可算名詞になるのか」という謎もスッキリ解けますね。

発売わずか2ヶ月で5万部を突破した時吉さんの著書『英文法の鬼100則』には、今回紹介しきれなかった興味深い内容が盛りだくさん。「someの働き」や「theの世界」だけでなく、「文型には意味がある」「現在完了形と過去形・進行形の違い」「ofは『〜の」ではない」など、これまで混乱していた文法のルールや英語表現の本質がクリアに見えてくる、英語学習者必読の一冊です。

英文法の鬼100則 (アスカカルチャー)

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  • 作者:時吉 秀弥
  • 明日香出版社
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そして、2020年11月には新刊『英熟語の鬼100則』が発売予定。たとえば、“A whale is no more a fish than a horse.” 「馬が魚ではないのと同じで、クジラは魚ではない」という例文から「クジラの構文」とも呼ばれる “no more A than B” がなぜこのような意味になるのか、詳しい解説が載っています。どちらも要チェックです!

英熟語の鬼100則

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日本語と英語は、「もの」の認識の仕方が異なる言語。英語ネイティブがどのように世界をとらえているかがわかると、英語特有の冠詞や、「可算名詞」「不可算名詞」の本質についてスムーズに理解できるようになるでしょう。

監修:StudyHacker ENGLISH COMPANY

【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部
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