勉強したい。でも時間がない……。そんな忙しい社会人がぜひ活用すべきなのが「スキマ時間」です。
じつは、スキマ時間での勉強はとても効果的。脳科学者の茂木健一郎氏によると、勉強時間に制限を設けると、やる気や集中力のほか、脳の処理能力を上げられるそうです。スキマ時間を使えば、茂木氏が「タイムプレッシャー」と呼ぶこの効果が期待できるので、勉強効率を高めることができます。
とはいえ、勉強したい内容も、スキマ時間の生じ方も人それぞれ。スキマ時間ができても、「さて何を勉強しよう」と悩む方も多いはず。
というわけで作成してみたのが上のチャートです。たどりついたものがあなたに最適なスキマ時間の勉強法! ひとつひとつ解説していきましょう。
1. 本を読み内容を思い出す
「日中に5分程度のスキマ時間が生じやすい」タイプで、「本を読んで知識をつけたい」人には、「本を読んでその内容を思い出す」という方法がおすすめです。
そんなに短い時間で本を読むの? と思うかもしれませんが、実際にスキマ時間での読書を続け、結果を出している人もいます。東大を首席で卒業し、NY州弁護士資格などをもつ山口真由氏(信州大学特任教授)は、4分あれば本を開くそう。待ち合わせ中、ランチを待つあいだ……スキマ時間の積み重ねは馬鹿にならないと山口氏は言います。
そんなスキマ時間の読書をさらに効果的にする、超シンプルなテクニックがこちら。トレスペクト教育研究所代表・宇都出雅巳氏がすすめる、「本を読んでいる途中で、読んだ内容を意識的に思い出す」という方法です。
宇都出氏によると、記憶は「繰り返し思い出す」ことで強化されるとのこと。
記憶に定着し始める
→より思い出しやすくなる
→繰り返し思い出す回数が増える
→さらに記憶が強化される
という好循環が生まれるそうです。思い出せない内容があれば、おのずと気にかかって本を読み返すので、より強く印象に残り忘れにくくなると言います。
つまり、本は漫然と読むよりも、「内容を思い出す」という行動を挟みながら読むほうが、内容を格段に効率よく覚えられるのです。たとえば、「1ページ読んだらいったん本を閉じ、その内容を思い出す」というだけなら、5分で充分可能ですよね。あなたもたった5分でも時間が空いたら、ぜひ上記の方法を取り入れてみてください。
2. 問題集をサクッと解いて見直す
「日中に5分程度のスキマ時間が生じやすい」タイプで、資格などの「試験合格を目指している」人は、医師の吉田穂波氏がすすめる「問題を解いて見直す」という勉強法をやってみましょう。
仕事・家事・育児をこなし超多忙ななか、スキマ時間を活用して勉強を重ね、たった半年で、難関のハーバード公衆衛生大学院の入学試験合格を成し遂げた吉田氏。「5分あれば、問題集でさっと何問か解く」という勉強をしていたそうです。
問題を解く際は、時間が短いせいで間違いだらけになってもいいとのこと。なぜなら、解けなかった問題は解けた問題よりも断然気になって、答えや解説を確かめたくなるからです。そうすると、短時間で取り組んだ問題の “続き” を勉強しようと、1~2分程度のスキマ時間でも自然と勉強できるようになると言います。
吉田氏が推奨する手順は次のとおり。
- 1回め:最初から最後まで解き、間違えた問題に×をつける。
- 2回め以降:×のついた問題だけを解く。
- ×がなくなるまで繰り返し解き続ける。
ポイントは、何度も繰り返すことで、正解に至るプロセスを確実に覚えること。実際、脳研究者の池谷裕二氏も、記憶は同じ情報を繰り返し脳に送ることで定着すると述べています。
「5分じゃ問題演習なんて無理!」などと思わないでください。5分でも問題に向き合えば、勉強はたしかに前進しますよ。
3. 車内広告の逆さ読み
「通勤中に10分程度のスキマ時間がある」けれど、「満員電車で本やノートを取り出す余裕がない」人は、脳内科医の加藤俊徳氏がすすめる道具いらずの方法で、記憶力アップを図りましょう。それは「車内広告の逆さ読み」。
たとえば「そうだ 京都、行こう。」(JR東海)という文言があったら、「うこい、とうきょ だうそ」という具合に逆さ読みして、暗記するだけです。元の文言を頭のなかで繰り返し唱えて覚えたうえで、逆にして覚える――このプロセスが、脳内で記憶をつかさどる神経群を鍛えるのだと、加藤氏は言います。
また、満員電車には立って乗ることも多いものですが、この「電車内で立つ」こと自体も、脳によい影響を与えます。加藤氏によると、揺れる車内で両足のバランスを保ちながら立ち続けることで、脳全体が刺激されるそう。混み合った電車は憂うつなものですが、勉強の底力を鍛えるのにはうってつけの環境なのです。
ちなみにこの方法、簡単なようでいて意外と難しい……! ご参考までに筆者は「希望だけは、燃え尽きさせちゃいけないぜ」(東京メトロ東西線)という20文字の広告を逆さ読みして暗記するのに20分はかかりました。初めは10文字程度のものを試し、徐々に長めの文言に挑戦するのがおすすめです。
4. 3分の1リーディング
「通勤中に10分程度のスキマ時間がある」人で、本を広げられるなど「比較的ゆったりと電車のなかで過ごせる」人は、「3分の1リーディング」という読書法を取り入れてみましょう。
これは、『頭がいい人の読書術』著者の尾藤克之氏が提唱する読書法。縦書きの本ならページの上部3分の1、横書きの本なら左側3分の1を中心に読むだけで、1冊の本の内容を充分に把握できる――というものです。
上3分の1(左3分の1)を読むだけでいい理由は、日本語の文章の組み立てにあるそうです。尾藤氏によると、日本語の「主語→述語→目的語」という並びが、本のなかでは以下のような構造をもたらすのだとか。
- 主語は段落の冒頭にくる
- 述語は主語と近いところにくる(※本は、編集者が文のわかりやすさをチェックしたうえで出版されるもの。そのため述語は主語からそう遠い位置にはこない)
- ⇒ すると、目的語も含めた重要ワードの約7割が上(左)3分の1に入る
尾藤氏によると、3分の1リーディングに慣れれば、10分程度で1冊読み終えることも可能なのだとか。つまりこのテクニックは、本を数多く読むのに役立ちます。
日々膨大な情報に触れるなか、情報の真偽や要不要を正しく判断できる「情報感度」を高めるには、本を多く読むことが効果的だと尾藤氏。フェイクの情報に踊らされないよう、読書を通じて情報感度を高めることは、ビジネスパーソンにとって必須である――そう同氏は述べています。
もし読書時間を10分確保できるなら、ぜひ「3分の1リーディング」により情報感度を高める学びに取り組んでみてください。
5. 寝る前15分の「問題形式記憶術」
最後に「日中スキマ時間はない。時間がとれるのは夜だけだ」というハードワーカーさんに向けて、寝る前15分程度で行なう「問題形式記憶術」を紹介します。
精神科医の樺沢紫苑氏によると、寝る前の15分は最も記憶に適した時間なのだそう。なぜなら、記憶定着を妨害する「記憶の衝突」を回避できるから。
たとえば、朝に勉強してインプットした情報は、日中の仕事で脳に入力される情報と衝突するため、覚えにくくなります。その反対に、夜に勉強したうえで、勉強後余計な情報を何もインプットせずに眠れば、勉強した内容を脳に残しやすくなるのだとか。
寝る前に行なう勉強として、能力開発コンサルタントの高島徹治氏は、深追いせず「浅く」「軽く」教材を読むとよいと言います。理由は、とことん勉強すると、脳が興奮して寝つけなくなってしまうから。
そこで最適なのが、『夢を叶えるための勉強法』著者で、東大卒元クイズプレーヤーの鈴木光氏が実践していた、「穴埋め問題に答える形式で、覚え具合を確認する」という方法です。
教材の覚えたい部分に緑のマーカーを引き、赤シートで隠せるようにしたら、実際にシートで隠して思い出せるかチェックするだけ。覚えていなかったところには印をつけ、2回め以降は印をつけた場所だけ確認していくのです。
鈴木氏いわく、大切なのは分割して少しずつ進めること。英単語帳なら2ページずつ、といったイメージだそうなので、分量的に15分で取り組むにはちょうどよいはず。また、シートで隠して内容を確認するだけという軽さ・浅さも、寝る前15分にはうってつけですよ。
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この機会にスキマ時間の使い方を見直して、ぜひ自分に合ったスキマ時間勉強法を取り入れてみてください!
(参考)
茂木健一郎(2010),『脳を活かす勉強法』, PHP研究所.
STUDY HACKER|東大首席・山口真由さんが「4分」あればどこでも本を読む深い理由。
All About|「読書の内容をすぐ忘れてしまう人」のための記憶術
THE21オンライン|1分の積み重ねで合格を目指す「超・効率」勉強法
池谷裕二(2011),『受験脳の作り方―脳科学で考える効率的学習法』, 新潮社.
加藤俊徳(2019),『脳にいい!通勤電車の乗り方』, 交通新聞社.
PRESIDENT Online|脳内科医が「電車では端の席を避けろ」という訳
寺社Nowオンライン|伝説のコピーライター「そうだ 京都、行こう。」の太田恵美さんがコロナ禍の今こそ伝えたい「時間」という寺社の魅力
講談社C-station|キャラクターコラボ事例vol.22 東京メトロ × 『あしたのジョー』 『 巨人の星』
STUDY HACKER|“10分で1冊” 読める「3分の1リーディング」の極意。本は全部読まなくていいんです
STUDY HACKER|本に “あれ” を貼ってはいけない。定番だけど少し意外な「身になる読書」2つのコツ
樺沢紫苑(2019),『学び効率が最大化するインプット大全』, サンクチュアリ出版.
ダイヤモンド・オンライン|寝る前にどんな勉強をすればいいのか
東洋経済オンライン|元東大王が実践「2日で400語暗記する」5つのコツ
月島修平
大学では芸術分野での表現研究を専攻。演劇・映画・身体表現関連の読書経験が豊富。幅広い分野における数多くのリサーチ・執筆実績をもち、なかでも勉強・仕事に役立つノート術や、紙1枚を利用した記録術、アイデア発想法などを自ら実践して報告する記事を得意としている。