「上司への報告が少し遅くなってしまった。なにか言われないだろうか……」
「今日のプレゼン、万全の準備をしたつもりだけれども大丈夫かな……」
「友だちと喧嘩してしまった。もう会ってくれないかもしれない……」
私たちはこのように、日々なにかしらの心配事を抱えています。ではみなさん、そういった心配事のうち、実際に的中したのはどれくらいだったか振り返ってみてください。もちろん、現実となってしまったものもあるかと思いますが……幸運にも「杞憂」で終わった、そんなケースも意外と多いのではないでしょうか?
とある説によれば、心配事の「97%」は取り越し苦労に過ぎないとのこと。大部分の心配事は、実際には起こらないのです。それでも、つい心配になってしまうのは事実。ネガティブな思考を止める方法について考えてみました。
- 「起こってもいないことに不安になる」は自然な心の動き
- 起こってもいないことに不安になるのは「取り越し苦労」?
- 「起こってもいないことに不安になる」の解消法1:マインドフルネスで “いま” に意識を向ける
- 「起こってもいないことに不安になる」の解消法2:「苦しさの相対化」でポジティブな面に意識を向ける
「起こってもいないことに不安になる」は自然な心の動き
たとえば仕事中、「そういえば、昨日のあの件どうなったかな……」「今日の仕事が終わったら何をしようかな……」「明日のプレゼンがちょっと不安だな……」など、目の前のタスクとは関係ない事柄についてあれこれ考えてしまったこと、よくあるのではないでしょうか。
このように、いまこの瞬間ではなく、過去を回想したり未来について思いをめぐらしたりすることを「マインド・ワンダリング(心の迷走)」と言います。いわゆる、「心ここにあらず」の状態ですね。
2010年、ハーバード大学の心理学者マシュー・キリングスワース氏らは、2,250人を対象に、マインド・ワンダリングに関する大規模な行動心理調査を行ないました。その結果、なんと生活時間のうち47%もの時間を、このマインド・ワンダリングに費やしていることが明らかになったのです。
たたでさえ「心ここにあらず」の状態に陥りやすい私たち。なにか心配事があるとき、それに頭を支配されるのは仕方のないことなのかもしれません。
起こってもいないことに不安になるのは「取り越し苦労」?
とはいえ、その心配事が本当に的中するかどうかは、また別のお話。 経営学者の遠藤司氏は、Yahoo! JAPANニュース掲載のコラムにて、国際認知療法学会会長ロバート・リーヒ博士の研究を紹介しています。それによれば、心配事のほとんどは「取り越し苦労」に過ぎないのだそう。
アメリカでは37%の人が、毎日のように不安を感じている。これらの心配性の人に対し、何が心配なのか、この先何が起こるのかについて、二週間記録してもらう。すると、心配ごとの85%において、実際には「よいこと」が起こった。さらには、悪いことが生じた残りの15%の場合でも、そのうち79%は、予想よりもよい結果につながった。計算すると、なんと97%もの心配ごとが、とり越し苦労だったことになる。
(引用元:Yahoo! JAPANニュース|日本人の7割以上が「何かに不安」だが、心配するだけムダっぽい ※太字は筆者が施した)
たしかに、たとえば「何か言われないかな……」と心配していたものの、意を決して話してみたら「そうなんだね」のひと言で終わったという経験、みなさんにもあるはず。
精神科医の樺沢紫苑氏は、こういった心配は「起こってもいないことに対する取り越し苦労」であり、「考えなければ発生しないもの」だと指摘します。つまり、私たちは自分で勝手に心配事をつくって思い悩んでいるだけだということ。ほとんど起こらないことに対し、無駄に心を消耗させているのです。
改善する方法は何かあるのでしょうか?
「起こってもいないことに不安になる」の解消法1:マインドフルネスで “いま” に意識を向ける
心配事にとらわれないために大切なのは、「いま」に意識を集中させること。そのために有効なのが「マインドフルネス」です。
マインドフルネスとは、「いま、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、 評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観る」ことを指します(日本マインドフルネス学会HPより)。マインドフルネスを実践すれば、「いま」ではない「未来」についてあれこれ思い悩む必要がなくなり、マインド・ワンダリング状態から脱することができるのです。
早稲田大学人間科学学術院教授の熊野宏昭氏は、マインドフルネスの状態に到達する手段として、次のような「呼吸の瞑想」を紹介しています。呼吸をしている自分自身の感覚に注目することで、「いま」に意識を向けられるようになるのです。
1. 背筋を伸ばして座る。目は軽く閉じるか、薄く開けて斜め前を見る。
2. 息を吸ったときに、おなかや胸がふくらむのを感じ、心の中で「膨らみ、膨らみ」と実況する。呼吸はコントロールせず、そのとき一番したいように呼吸する。
3. 息を吐いたときに、おなかや胸がちぢむのを感じ、心の中で「縮み、縮み」と実況する。
(引用元:NHK健康チャンネル|「マインドフルネス」とは?めい想の方法・効果と「呼吸のめい想」のやり方)
こういった瞑想には、脳の活性化や、ストレスをたまりにくくする効果もあるのだそう。座りながら気軽にできるので、仕事中に心配事にさいなまれて困ったときは、ぜひ実践してみましょう。
「起こってもいないことに不安になる」の解消法2:「苦しさの相対化」でポジティブな面に意識を向ける
先のことを心配しすぎているのは、物事のネガティブな面しか見えていない状態とも言えます。前出の樺沢氏によれば、人は苦しくなると必ず視野狭窄に陥るとのこと。つまり、目の前の「苦しい」で頭がいっぱいになり、それ以外のことが考えられなくなってしまうのです。
このような状態から抜け出す方法として樺沢氏が提案するのが、「いまの気分に点数をつける」こと。仮に30点だったとしても大丈夫。それより低い10点や20点だったときと比べて、何がいいのかを考えると、おのずとポジティブな面に目が向くようになります。
たとえば、「明日上司に提出する企画書、ダメ出しを食らわないだろうか……(30点)」なんてときも、「でも、どんなにダメ出しされても、見放される(10点)よりは断然いい」と思い至れば、“きちんと教えてもらって自分の成長につなげられる” という点にも目が向きますよね。
苦しさを相対化することで、客観視ができるようになり、プラスの面に意識が向くのです。
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「心配しなくても意外となんとかなる」というのは、単なる希望的観測ではなく、研究から導き出された事実です。心配事に頭の中を支配されている状態から脱することができれば、あなたのパフォーマンスも向上するはず。「“いま” に意識を集中し」「プラスの面に目を向ける」――お伝えした2つの方法をぜひ試してみてください。
不安な気持ちがなかなか消えないなら、「不安な気持ちを解消する5つの方法。ストレス・イライラ・焦りを手放そう」も読んでみてください。
NHKスペシャル取材班(2016),『キラーストレス 心と体をどう守るか』, NHK出版.
Yahoo! JAPANニュース|日本人の7割以上が「何かに不安」だが、心配するだけムダっぽい
樺沢紫苑(2018),『人生うまくいく人の感情リセット術(知的生きかた文庫)』, 三笠書房.
日本マインドフルネス学会
NHK健康チャンネル|「マインドフルネス」とは?めい想の方法・効果と「呼吸のめい想」のやり方
SHOICHI
大学院修了後、一般企業に就職。現在は会社を辞め、執筆活動をしている。読書、音楽、YouTubeが好き。