スポーツの世界では "名選手は名監督にあらず" という言葉がよく聞かれます。現役時代に数々の実績を残していても、優れた監督や指導者になれるとは限らない、ということですね。
そしてこれは、スポーツだけでなく、仕事にも通じる話。
「営業では成績を残せたのに、マネージャーとして部下や後輩を上手に育成できない」とお悩みの方は多いのではないでしょうか。
そこで今回は、教え下手がやりがちな失敗とその対処法についてご紹介します。これを読めば、「仕事ができて教えることも上手な人」に一歩近づくことができます!
【ライタープロフィール】
Shinya
大学では経済学を専攻。集中力があり、長時間、長期間にわたって勉強し続けることが得意。現在は、資格試験に向けて効率的な勉強法の情報を収集中。心理学にも関心があり、コミュニケーション力の向上を目指してさまざまなメソッドを学び、実践している。
1. 相手がどのくらい納得したか確認しない
仕事のやり方を教えるときに、マニュアルを渡す、もしくは、一通りの説明だけで終わっていませんか?
こうした一方通行な教え方では、相手が十分に理解できているかどうか、確認することができません。
教わった側は、「説明したあとすぐに 『質問ある?』と聞かれたけれど、まだやったことがない業務だから質問も思い浮かばない……」と思っているかもしれませんし、こちらの説明に対して「別のやり方のほうが効率がよさそうなのに」と、反発や納得できない気持ちを抱えている可能性もあります。
「教え方」について多くの企業研修を実施している関根雅泰氏によれば、このようなすれ違いを防ぐために、「『言葉』『文字』『行動』でレベルを把握する」ことが必要だそう。(カギカッコ内引用:関根雅泰(2015),『オトナ相手の教え方』,クロスメディア・パブリッシング.)
人はそれぞれ、知識、経験、価値観などの違いから、さまざまな「前提」をもっているため、同じ物事を見聞きしても受け取り方が異なります。
そこで、教えるときににぜひ実践したいのが、言葉、文字、行動での理解度の確認。
では、具体例を見てみましょう。
・「今の説明を、自分なりにまとめて説明してみてください。」
・「これまではどんなやり方でやっていましたか?」
・「〜について、教えてください。」
〇文字
・「今日教えた内容をレポートにまとめてください。」
・「理解度を確認するので、このテストに回答してみてください。」
・「今日学んだポイントを挙げられるだけ書き出してみてください。」
〇行動
・「前の職場でのやり方で一度やってみてもらえますか?」
・「私をお客さんに見立てて、ロールプレイングしましょう。」
・「私の補助役として、実際に現場で動いてください。」
(参考元:同上)
このように、相手の気持ちや経験、知識を確認しながら教えていれば、「これは○○さんが初めて学ぶ分野(苦手な分野)だから、初歩から手厚く教えよう」と考えられます。
逆に、経験や知識がある分野なら「この分野は○○さんが今まで経験されていた業務と似ていると思いますが、前職ではどうされていましたか?」といった声かけができます。もし前職と異なる部分があっても、自社のやり方になった経緯や理由を伝えれば、相手も納得して新しい方法を受け入れることができるでしょう。
それぞれの職場に合わせて、具体例を参考に実践してみてください。
2. 丁寧に教えすぎない
もうひとつ、教え下手な人がついやりがちなのが、丁寧に教えすぎてしまうパターン。
「新入社員が早期退職しないようフォローしなければ」
「早く主体的に動けるようになってほしい」
という思いから、指示ばかりしていないでしょうか。
しかし、丁寧に教えれば教えるほどいいというわけではない、と提言するのはサイバーエージェント常務執行役員CHOの曽山哲人氏。
曽山氏は、「若手育成のゴールは『若手が自信を手にすること』」とし、次のように述べています。(カギカッコ内引用元:ダイヤモンド・オンライン|ダメ出し、押し付け、懇切丁寧、教えすぎ…。
若手の自信を削る「育て下手」上司 ※太字は編集部が施した)
何もかも手取り足取り、手順も完璧に指導する。
一見パーフェクトに見えますが、これでは若手は成長しません。
何もかも教わることで、思考停止になってしまうからです。
(引用元:同上)
自分で考えて仕事をして手応えをつかめたときに、自信が生まれます。人にものを教えるときには、相手が思考できるよう余白を残すことが大切なのですね。
とはいえ、教える時間を減らしてしまうと、部下が自分で考えるようになるのか心配だという方もいるでしょう。
そんな方におすすめなのが、考えさせる質問を投げかけるという方法。
ソフトバンクで2万人の社員教育に関わってきた人材育成のプロであり、講師ビジョン株式会社代表取締役の島村公俊は、考えさせる質問の例として次のようなシチュエーションを挙げています。
・新人に同行営業を依頼され、商談時間の1分前にお客様先に着いたシーン
「今日の商談ゴールは、どこに置いているの?」
(参考元:東洋経済オンライン|新人の指導は、悩まず「10秒」で十分な理由
「元ソフトバンク」人材育成の「匠」の質問術よりまとめた)
担当者が姿を現す前の短い時間ですが、この質問により新人は今日の目標が明確になります。目標を意識すれば商談相手と話しながら内容の取捨選択もできますし、もし目標を明確に答えられない場合は、「次回は商談前に明確な目標を立てよう」と考えられますね。
上記は短時間で答えを出させるシーンでしたが、もっとじっくり考えさせたいときもあるでしょう。そんなときは、こんな裏技も紹介されていました。
・新人の営業に同行し、お客様の表情が商談中に一瞬曇ったが、商談後、自分は別件で移動するシーン
「商談の後半、お客様の表情が一瞬曇ったけど、その理由をメールで送ってもらえるかな?」
(参考元:同上よりまとめた)
これなら忙しい先輩社員も自分の空いた時間にメールで返答できますし、新人も「しっかりと考え抜」いて答えを出すので、「出てくる意見の質がよいことが多く、それによって、指導者のアドバイスも的を射たものになり、効率的な育成に繋が」るそう。(カギカッコ内引用元:同上)
ご紹介した内容は、どちらも時間にすれば10秒もかかりません。しかし、指導を受けた側は自分で答えを導き出すために、先輩社員から学んだことを思い出しながら考えます。自分で考えて出した答えですから、当然納得して受け止められるでしょう。
指導する側も、短時間で効果の高い教え方ができればとても助かりますね。
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採用コストが高くなっている現在、新入社員をしっかり育てたいと考えている方は多いはず。仕事の教え方について悩んでいるなら、今回ご紹介したふたつの方法をぜひ実践してみてくださいね。
関根雅泰(2015),『オトナ相手の教え方』,クロスメディア・パブリッシング.
ダイヤモンド・オンライン|ダメ出し、押し付け、懇切丁寧、教えすぎ…。
若手の自信を削る「育て下手」上司
東洋経済オンライン|新人の指導は、悩まず「10秒」で十分な理由
「元ソフトバンク」人材育成の「匠」の質問術