「仕事に役立てるため専門書を購入したものの、難しくて頭に入らない」
「理解するまで時間がかかり、効率的にテキストを読めない」
読解力が高ければいいのに……! そう切望している人は少なくないはず。ですが、必要なのは読解力だけではないようです。
ベストセラー『東大読書』著者で現役東大生の西岡壱誠氏によれば、東大生は読解力が特別高いのではなく「読む準備」ができているのだそう。
今回の記事では、そんな東大生たちが勉強するとき「テキストを読む前に」やっていることを3点ご紹介しましょう。
内容を読む前に「ヒント」を探す
なんの準備もなく本を読み始めると、書かれている情報はとりあえず目に入ってきますが、著者の主張を理解したり情報どうしをつなげたりするまでには時間がかかるものですよね。じつは、東大生が、本の主旨をすばやくつかむために行なっている準備があります。あらかじめ、表紙や要約から “ヒント” を頭に入れているのです。
西岡氏は「装丁読み」という読み方によって、「文章が格段に読みやすくなる」と述べます。
ほとんどの本は装丁に多くの情報を詰め込んでいるのです。
(中略)
タイトルが本の内容を一言で言い表しているわけですから、逆にタイトルから情報を多く引き出しておけば、本を読む上でとても大きなヒントになるわけです。
(引用元:西岡壱誠(2018),『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書』, 東洋経済新報社. 以下『東大読書』)
「装丁」つまり「カバーや帯」に情報が多く盛り込まれているのは、「読者に興味を持ってもら」うため(引用元:同上)。たとえば、西岡氏の著書のタイトルをよく読んでみると、以下のような情報が得られますね。
例『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書』
- 読解力だけでなく、地頭力も高まる
- 東大生が実践している
- 実例にもとづいた読書術
こうして得たヒントが頭にあれば、“この説明は、タイトルにある「地頭力」につながるんだ” といった具合に、「方向性を見失わずに読み進めることができ」ます。(カギカッコ内引用元:東洋経済オンライン|東大生がやっている「本を10倍ラクに読む」技術)
表紙から得られる情報は、読み進めるうえでのいわば目印のようなものなのです。
東大生が手がかりにするものは、表紙だけではありません。あらかじめ本の要約に目を通すことも、東大生がよく行なう方法なのだそう。西岡氏はこう述べます。
本を読んでから要約を読む、という人が多いと思うのですが、これははっきり申し上げて間違いです。順序が違います。東大生は、要約を読んでから本を読むのです。
(引用元:前出の「東洋経済オンライン」記事)
たとえば、要約サイトや要約動画、Amazonのレビューなどを参考にしながら、実際に本文を読んでみて事実を確かめるというわけです。
こうした読み方は、脳科学的にもメリットがあるよう。東大卒でトレスペクト経営教育研究所代表の宇都出雅巳氏が、次のように説明しています。
こういった大雑把で曖昧な記憶は、脳にとっても低負荷なので、比較的あっさり長期記憶化(知識化)しやすい特性があります。
(引用元:ダイヤモンド・オンライン|本の内容を覚えておくには「ざっくり読み」が効果的 ※太字は筆者が施した)
宇都出氏は「こういった大雑把で曖昧な記憶」の一例として、“見出しだけを読んでざっくりとつかんだ本の全体像” の記憶を挙げています。要約もこれと似た、あくまでも大雑把な情報ですよね。
このように、表紙や要約からヒントを得る作業によって、新しい知識をすばやく理解するための “下地” がつくられます。本文を読む前にヒントに目を通してみましょう。手がかりさえあれば、読むことの負担が軽減されるはずですよ。
仮説を立てる
勉強のために必要に迫られて本を読むという場合、関心が湧かず “受動的な読み方” に陥ることは少なくないでしょう。この点でも、東大生たちが行なっている、ある準備が参考になります。彼らは、本を読む前に「仮説作り」をすることで、「能動的な読書」を実践しているのです。
西岡氏いわく、「仮説作り」とは「本の全体像を把握するための『地図』を作」ること。これをすれば、「文章全体の大きな流れ」が理解できるのだそう(カギカッコ内引用元:『東大読書』)。このひと工夫が、実際に本文を読み始めてからの読解力アップに役立つというわけです。
では、西岡氏が提唱する「仮説作り」の手順をご紹介しましょう。(以下カギカッコ内は『東大読書』より引用)
- 「『なぜ自分がその本を読むのか』という『目標』を付箋に書いてみる」
- 「目次を見ながら、①で設定した『目標』をどうやってその本で実現するのかという『道筋』を考え、目標の下にまとめる」
- 「自分が現在どの立場にいるのかという『現状』を考え、道筋の下にまとめる」
- 「実際に読み進めてみて、仮説と違うところが出たらその都度修正する」
西岡氏によれば、仮説は「完璧でなくていい」し、「進んでいく中で修正していけばいい」とのこと。
筆者も勉強に役立てるため、「仮説作り」を実践してみました。教材は書籍『同調圧力のトリセツ』(小学館)。よいコミュニケーションについて考えるうえで、同調圧力に関する知見を得たいと思ったからです。
大判の付箋を用いて、上記4手順に沿い、まずは1「目標」、2「道筋」、3「現状」を書き出してみます。
2の「道筋」を立てる工程ではかなり悩みましたが……「同調圧力の知見を得る」「コミュニケーション術を学ぶ」という、1で設定した目標に対してポイントとなりそうな項目を、目次から選び出しました。
その後書籍を読み進めていくと、「同調圧力」と「共感能力」に関する説明は、いままでの知識ですぐに理解できると判明。そこで、「道筋」を修正することにしました。付箋を1枚追加しています。
「仮説作り」をやってみて実感した効果は、目的の部分に集中できるということ。じつは、この書籍は対談形式で、余談を織り交ぜながら「同調圧力」に関して論じ合うというものでした。いつもの筆者なら余談に注意が逸れ、本題(著者らの主張)を取りこぼしがち……。しかし、「仮説作り」で最初に目標を定めたため、得たい知識につながるポイントに集中できるようになったのです。内容が整理されて頭に入ってくる実感もありました。
なお、読み進めながら “仮説とは違う” と気づくことが多々あり、西岡氏の「完璧さを目指さない」という指摘は正しかったと痛感。仮説をつくるなんて難しそう……と思う人でも、おおまかで粗いものでいいと思えば、やりやすいのではないでしょうか? ぜひ、試してみてください。
タイマーをセットする
同じ時間帯にテキストを読んでも、集中できる日とそうでない日があるもの。はかどり具合にムラが出てしまう……そんな問題も、テキストを読む前の準備によって解消できます。
西岡氏が、こう述べています。
頭のいい人は、制限時間を設定して勉強していることも多いです。「この目的を達成するために、どれくらい時間をかけるのか」を、あらかじめ考えた上で勉強するのです。
(引用元:東洋経済オンライン|東大生が見た「結果が出ない人」の超残念な学び方)
なぜ、“制限時間を設定しておく” という準備が必要なのでしょうか? その理由を西岡氏は、「時間制限の中でどう努力するか設計する」ようになるため、「努力の効率がかなり向上し、結果につながる」からだと述べています(カギカッコ内引用元:同上)。
制限時間を2時間から1時間に短くしたとしても、同じ仕事量を終えられる――という「パーキンソンの法則」を根拠に、勉強でも制限時間を設けることが有効であると西岡氏(同上資料よりまとめた)。
東大卒の脳科学者・茂木健一郎氏も、時間に制限をかける「タイム・プレッシャー法」を提案しています。「自分で自分の制限時間を決める」ことで、「脳の潜在能力を一番引き出す」ことができるのだそう(茂木健一郎 公式ブログ|脳を活かす勉強法。タイムプレッシャー。より)。「絶対に○分でこのページを解き終える!」と自分にプレッシャーをかければ、集中力も高まるわけですね。
なお、制限時間を決める際は、タイマーをセットするといいでしょう。タイマーをかけたうえで勉強を進めると、勉強の進捗具合がわかるようにもなります。クイズ番組『東大王』に出演していた東大卒の鈴木光氏は、こう述べています。
タイマーをかけると、「30分も勉強しているのに、ちょっとしか単語帳を進められていない!」という風に、どれぐらいの時間で、どれぐらい進めることができたかを意識できるようになります。
(引用元:プレジデントオンライン|現役東大生の集中ルール「タイマーが鳴るまではスマホを絶対に見ない」 ※太字は筆者が施した)
自分の見積もりと現実の進捗度とのギャップを、知ることができるわけですね。時間を決めることは、その後の勉強の戦略を練るためにも効果的と言えるでしょう。
あなたも、テキストを読む前にタイマーをセットして「時間に対する意識」を高めてみませんか?
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東大生がしている「読む準備」をどれかひとつでも取り入れ、ぜひ「読む力」を磨いてみましょう。
(参考)
STUDY HACKER|偏差値35から “読書で” 東大合格! 最強の『東大読書』の真髄を探る。
西岡壱誠(2018),『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書』, 東洋経済新報社.
東洋経済オンライン|東大生がやっている「本を10倍ラクに読む」技術
ダイヤモンド・オンライン|本の内容を覚えておくには「ざっくり読み」が効果的
鴻上尚史 中野信子(2022),『同調圧力のトリセツ』,小学館新書.
東洋経済オンライン|東大生が見た「結果が出ない人」の超残念な学び方
茂木健一郎 公式ブログ|脳を活かす勉強法。タイムプレッシャー。
プレジデントオンライン|現役東大生の集中ルール「タイマーが鳴るまではスマホを絶対に見ない」
【ライタープロフィール】
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。