「私は価値のない人間だ」
「どうせ自分にはできない」
「頑張ってもうまくいかないだろう」
このようにネガティブな考えをもっていませんか?
仕事で失敗してしまったとき、職場の人間関係がうまくいかないとき、上司に怒られたときなど、落ち込むことは多々あるかと思います。そんなときに、自分を責めすぎたり、自分はダメな人間だなどと考えてしまったりする人は要注意。自分自身についてネガティブなイメージをもち続けると、自信がなくなっていったり、ストレスをためすぎてしまったりするかも……。
そこで重要なのが、ストレスマネジメントによって、ストレスと上手に付き合うこと。そのためのメソッドのひとつである「ビリーフチェンジ」をご紹介しましょう。ネガティブな自己認識をポジティブなものに変えることで、メンタルタフネスも鍛えられ、仕事にもよい影響を与えられますよ。
長期間のストレスは脳に悪影響を及ぼす
ストレスマネジメントとは、ストレスに対処し、上手に付き合っていくための方法や考え方のことです。ストレスは必ずしも害ではありませんし、生きていれば避けられないもの。ただ、過剰なストレスに長期間さらされると、心身の不調を招きます。
生理学者で京都大学名誉教授の久保田競氏によると、強いストレスが長く続くと脳に悪影響を及ぼしてしまうそう。たとえば、ストレスホルモン「コルチゾール」の過剰分泌によって神経細胞が減少し、問題解決能力が下がってします。また、海馬が萎縮して頭の働きが悪くなったり、感情をつかさどる扁桃核がうまく働かなくなって精神状態が悪化したり……。当然、仕事にも私生活にもデメリットしかありません。
大切なのは、ストレスが一定の度合いを超える前に対処すること。自分に合うストレス対処法を知ることは、安定して長く働き続けるうえでも役立ちます。
「ビリーフチェンジ」で思考をポジティブに変えていく
ストレスマネジメントにはさまざまな方法がありますが、今回は「ビリーフチェンジ」をご紹介しましょう。これは、マイナスのビリーフをプラスのビリーフに変え、思考をポジティブに変えていくこと。
たとえば、上司に怒られてしまったとき、「自分はなんてダメな人間なんだ」などマイナスにとらえる人と「自分が成長するために言ってくれた」とポジティブにとらえる人とでは、後者のほうがストレスをためずに前向きでいられますよね。こんなふうに考え方を変えられれば、負のスパイラルから抜け出したり前向きになれたりできるのです。
4つのステップに分けて、その手順をご説明しましょう。
ステップ1:マイナスのビリーフを明確にする
最初に、自分がもっているマイナスなビリーフや思考のクセを把握する必要があります。以下の質問に回答していきましょう。
- ゴール達成を制限している思考や感情はなんですか?
- その制限を「私は◯◯だ」「私は◯◯な人間だ」などのかたちで表現してみてください
- 上記に「なぜなら、◯◯だから」とつけ加えてみてください
ステップ2:マイナスのビリーフを疑う(書き出す)
次に、自分がもつマイナスのビリーフを疑います。先ほど回答した「私は〇〇だ」というマイナスな思考に対して、いくつかの疑問を投げかけましょう。
- 本当に?:「本当にそうなの?」「絶対にそうなの?」と誰かに聞かれたらどうでしょう。客観的事実ではなく、自分の思い込みかもしれない……ということに気づくかもしれません。
- どうして?:「いつからそう思い始めたの?」「何がきっかけで?」というように、そのマイナスビリーフをもってしまった理由を深掘りします。誤解や勘違いが重なってそういうふうに考えるようになった、という可能性も洗い出していきましょう。
- 反対の例は?:いまもっているマイナスビリーフの反対の例を考えてみましょう。たとえば「自分は気が弱いからリーダーは向いていない」の反対は、「気の強さはリーダーの必須条件ではない」「マネジメント力など、ほかの部分を強化すればいい」などが考えられます。
ステップ3:ビリーフチェンジするメリットを考える(書き出す)
マイナスなビリーフをもつことのデメリットを確認しましょう。「このビリーフをもっていたことで過去〜現在はどのようなことが起こったか」と「もち続けることによって未来にどのようなことが起こるか」を考えます。
過去〜現在への質問:そのビリーフをもち続けたことで……
- 気持ちや行動にどのような影響を受けましたか?
- それによって、どのような結果が手に入りましたか?
- 「そのビリーフがなければ」と思わずにいられない経験はなんですか?
未来に対しての質問:そのビリーフをもち続けることで……
- 気持ちや行動にどのような影響を受けますか?
- どんな結果が手に入ると思いますか?
そして、ビリーフチェンジをした場合の影響や、それによってもたらされる結果を考えます。
新しくプラスのビリーフを手にすることで……
- 気持ちや行動にどのような影響を受けますか?
- どんな結果が手に入ると思いますか?
マイナスなビリーフをもち続けるよりも、プラスのビリーフを手にするほうが、未来は明るいということに気づけるでしょう。
ステップ4:アファメーションをする
ステップ1〜3で、マイナスなビリーフ(考え)をプラスに書き換えました。次は、その言葉を行動や習慣に落とし込み、よい結果(運命)に導いていきましょう。
そのために、新しいビリーフを短いフレーズにして、1日に最低1回、声に出して確認します。このとき、プラスの感覚を十分に感じて味わうのがポイントです。これを繰り返すことで、徐々に自分のなかに落とし込まれていき、行動が変わっていくのです。
ビリーフチェンジを試してみた
著者もビリーフチェンジを実際にやってみました。
ステップ1:マイナスのビリーフを明確にする
- ゴール達成を制限している思考や感情はなんですか?
→部署で営業成績1位になりたいが、正直自分には無理だと思っている
→自分よりも実力のある人がたくさんいるから
→ここぞというときに、うまくいかないことが多いから
- その制限を「私は◯◯だ」「私は◯◯な人間だ」などのかたちで表現してみてください
→私はここぞというときに、力が発揮できない
→私はクライアントに好かれない
→私には才能がない
- 上記に「なぜなら、◯◯だから」とつけ加えてみてください
→なぜなら、大事な場面で緊張してミスしてしまうから
→なぜなら、人としての魅力がないから
→なぜなら、ほかの人たちのほうが優秀だから
ステップ2:マイナスのビリーフを疑う
- 本当に?:客観的な事実というよりも、私が自分に対してもっているイメージなのかもしれない
- どうして?:
いつからそう思い始めたの?→学生の頃からそう感じていた
何がきっかけで?→きっかけがあったというよりも、いままで特に秀でた部分があったり目立ったりすることがなかったので、自然とそう感じるようになった - 反対の例は?:
私は平凡でつまらない→普通であることで多くの人と共感し合える
緊張しやすいのは欠点だ→真剣に取り組んでいるという証拠
まわりの人たちのほうが優秀だ→そうとは限らないし、自分にできることをせいいっぱいやればいい
ステップ3:ビリーフチェンジするメリットを考える
過去〜現在への質問:そのビリーフをもち続けたことで……
- 気持ちや行動にどのような影響を受けましたか?→自分に自信がないので、やりたいことに手を挙げてこなかった
- それによって、どのような結果が手に入りましたか?→それ相応の仕事しか任されなかった
- 「そのビリーフがなければ」と思わずにいられない経験はなんですか?→妥協したことによって、入りたい部署とは違う部署に配属された
未来に対しての質問:そのビリーフをもち続けることで……
- 気持ちや行動にどのような影響を受けますか?→おそらく、ずっとこのままだろう
- どんな結果が手に入ると思いますか?→満足感の少ない仕事人生になると思う
新しくプラスのビリーフを手にすることで……
- 気持ちや行動にどのような影響を受けますか?→前向きな気持ちで、やりたいことに積極的になれる
- どんな結果が手に入ると思いますか?→たとえ失敗しても、学びはあると思う
ステップ4:アファメーションをする
- 緊張するのは悪いことではない
- 自分のできることを精一杯やればいい
- 私には目標を達成する能力がある
- 失敗を恐れなくていい
こちらの4点を毎朝、声に出して自分に言い聞かせることにしました。
ビリーフチェンジを試した感想
自分のネガティブなビリーフについて認識することは苦しいことでもありましたが……放っておくことのほうが恐ろしいかもしれません。
ネガティブなビリーフを「本当にそうなの?」と自分に問いかけてみると、じつはそうでもないということに気がつきました。たとえば、「自分はクライアントに好かれない」というのは、客観的事実というよりも自信のなさからくる思い込みに過ぎなかったのです。実際には仕事の依頼をもらえているので、そんなことはなかったのですね。
さらに、プラスのビリーフを強化するために1週間アファメーションを続けましたが、声に出して唱えてみると前向きな気持ちになりました。今後も続けていき、行動もポジティブに変えていきたいです。
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ついつい自分のことを責めてしまう人や、マイナス思考になりがちな人は、ぜひビリーフチェンジを試してみてください。
(参考)
Wedge Infinity|「脳に良い習慣」で人生を活性化しよう!
オーツーカプセル|社員へのストレスマネジメントは企業の義務!目的や方法も解説
BizHint|ストレスマネジメント
HITACHI|ストレスマネジメントとは? Chapter7 1本のペンでできる心理的手法
Life&Mind|人生を決定づける「ビリーフチェンジ」成功の鍵と8つのステップ
【ライタープロフィール】
Yuko
ライター・翻訳家として活動中。科学的に効果のある仕事術・勉強法・メンタルヘルス管理術に関する執筆が得意。脳科学や心理学に関する論文を月に30本以上読み、脳を整え集中力を高める習慣、モチベーションを保つ習慣、時間管理術などを自身の生活に取り入れている。