忙しいビジネスパーソンが、仕事の合間に語学や資格の勉強をするのは大変なもの。「もっと効率よく覚えられたらいいのに」と思うことも多いでしょう。
ならば、「脳のウォーミング」を取り入れてみてはいかがですか? 「脳の働き方」とあわせて説明します。
「脳のウォーミング」とは
「脳のウォーミング」とは、何かを学習する “直前” に行なう脳の準備体操(ウォーミングアップ)のこと。学習したことを効率よく脳に定着させるそうです。
東北大学と日立ハイテクノロジーズの脳科学カンパニー(株式会社NeU)が運営する「Active Brain CLUB」によれば、脳のウォーミングにいいのは、
- 計算問題
- できるだけ速く読む音読
とのこと。その理由を探っていきましょう。
〇〇をしているときは脳の〇〇が動く
東北大学加齢医学研究所教授の川島隆太氏は、「記憶・感情・行動の抑制など、あらゆる高度な精神活動をつかさどる前頭前野を、常に刺激し活性化させることが脳を健康に保ち、発達させる」と述べています。
同氏らが以前、機能的MRI(fMRI)を用いて健康な大学生の脳活動を計測したところ、それぞれの行動によって働く脳の場所がわかったそうです(東北大学『まなびの杜(No.17)』2001年秋発刊の特集より)。
- 目を閉じてジッと考える→「前頭葉の手足の運動をつかさどる場所のみ活性化」
- 音楽を聴く→「側頭葉の聴覚領域のみ活性化」
- 単純計算→「前頭前野、頭頂葉、ものを見るときに働く後頭葉が活性化」
- 黙読→「前頭前野、頭頂葉、側頭葉、後頭葉のさまざまな場所が活性化」
- 音読→「前頭前野、頭頂葉、側頭葉、後頭葉のさまざまな場所の活性化が、さらに強くなる」
ちなみに、小学生から50代後半の大学教授にも単純計算を行なってもらい、同じように脳の働き方を測定したところ、年齢による大きな違いはなかったとのこと。
この実験結果を受け川島氏は、特に「計算したり、文章を読んだりすることが、前頭前野をとてもよく活性化する」と結論づけたそうです。単純に見ても、計算・黙読・音読が、より脳を広範囲に活性化させていることがわかりますね。
(参考:東北大学 まなびの杜(No.17)|特集 脳科学レポート)
「計算」と「音読」の実力
また、川島氏は 、同氏らのデータベースを検索し、「やさしい計算問題を速く急いで解くこと」「活字を声に出して読むこと」が、前頭前野を非常によく活性化すると発見したそうです(『SciencePortal』インタビュー・掲載日2006年8月1日)。
前頭前野は、「さまざまな脳の高次機能をさらに支配する高い能力を持っている領域(中央実行系・実行機能)がある」と考えられています。そこで同氏らは、「ひとつの作業で前頭前野を鍛えることにより、いろいろなネットワーク機能がよくなり、その他の能力も高まる」という仮説のもと、さらに研究を行なったそう。
するとこんな結果が出たのだとか。
- 認知症の高齢者に、1日10~15分ほど簡単な音読や計算問題を行なってもらったところ、脳機能がよくなっていった。
- 健常な高齢者に、1日10~15分ほど簡単な音読や計算問題を行なってもらったところ、やはり脳機能が改善していった。同じ人々が何もしないで普通に暮らしていると、脳機能は横ばいか、ゆっくり下がっていく。
- 健康な成人に関しても同様の検証を行なったところ、音読や計算問題を毎日続けることで、短期記憶の能力が1ヶ月で2割ほど上がってくる心理学データが出た。
川島氏は、短期の記憶力も中央実行機能の働きなので、この結果は前頭前野の働きを高めた証拠になると、自身の考えを述べています。
(参考:SciencePortal | インタビュー 東北大学 加齢医学研究所 教授 川島隆太 氏「道を拓く- Frontiers - 脳のメカニズムに迫る」)
「脳ウォーミング」のポイント
これまでの内容から、「計算」と「音読」がより広範囲の脳を活性化させること、そして脳の最高中枢である前頭前野の働きを高め、脳全体の機能を高めていくことがわかりました。
つまり、運動前の準備体操で血の巡りをよくして体を動きやすくするように、計算問題や音読が、頭に血液をよく巡らせ、働きやすくしてくれるわけです。
ちなみに、「Active Brain CLUB」は、脳のウォーミングアップのための音読は「できるだけ速く読むこと」と伝えており、川島氏は『SciencePortal』インタビューで「やさしい計算問題を速く急いで解くこと」が前頭前野を非常に活性化すると伝えています。
したがって、「脳ウォーミング」として計算と音読を行なうポイントはこちらです。
もちろん、学習教材を用いてもいいですが、たとえばレシートの合算を差し引きして、お財布の中にある金額を暗算したり……、
あるいはカレンダーの日付を縦に下へと足し算し、出た合計を上に逆戻りして引き算し、正解の「0」になるよう暗算したりと、身近なもので脳のウォーミングを行なうことも可能です。
また、読書中の本を1ページぶんだけ速く音読したり、勉強前に参考書や問題集に音読したりしてもいいかもしれません。
じっくり難しいことをする必要がなく、パパっとカンタンな計算や音読を速く行なえばいいので、気楽に始められそうです。
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脳の働き方と、勉強前の効果的な脳のウォーミングアップを紹介しました。ぜひ、お試しくださいね!
(参考)
Active Brain CLUB|脳のはなし|学習する前に計算問題と速読で脳のウォーミングアップ
SciencePortal | インタビュー 東北大学 加齢医学研究所 教授 川島隆太 氏「道を拓く- Frontiers - 脳のメカニズムに迫る」
東北大学 まなびの杜(No.17)|特集 脳科学レポート
脳科学辞典|前頭前野
脳科学辞典|中央実行系
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