人脈の大切さを理解し、人脈の広げ方を知っておくことは、ビジネスパーソンに欠かせません。かつての知人とよい人間関係を保つ、異業種交流会に参加して名刺交換するなど、人脈作りにはさまざまな方法があります。
しかし、「自分から行動するほどの勇気はない」「相手に紹介されるほどの価値は自分にない気がする」など、人脈づくりに対して腰が引けてしまう人もいるでしょう。そこで今回は、「意味のある人脈」のメリットと、「意味のある人脈」の広げ方をご紹介したいと思います。
人脈とは
人脈の広げ方について語る前に、まず、人脈とは何かを明らかにしましょう。関西大学社会学部社会学科教授の安田雪氏は、著書『人脈づくりの科学』(日本経済新聞社、2004年)のなかで、優れた人脈とは、結果の出せる人間関係であると述べています。安田氏によると、自分が人間関係に何を求めているかによって、築くべき人脈も異なるのだとか。
人脈の形成原理をどう規定するか。損得におくのか、信頼におくのか、感情におくのか、あるいは互恵性におくのかによって、構成メンバーは異なってくる。
(引用元:安田雪(2004),『人脈づくりの科学』,日本経済新聞社.)
人脈とは、「ビジネスの取引に特化した関係」「困ったときに助け合える関係」など目的に合わせて構成された、自分も相手も共に成長できる、信頼関係に基づいた人間関係のことなのですね。そして、人脈の広げ方を知れば、上述のように有益な人間関係を築けるわけです。
人脈の広げ方を知るメリット
人脈の広げ方を知ることが、なぜ必要なのでしょうか? 人脈を広げ、有益な人間関係を築くメリットをご紹介します。
ビジネスチャンスが増える
人脈の広げ方を知り、実践すれば、互いに成長し合える有益な情報を交換したり、人を紹介し合ったりできる仲間が増え、ビジネスチャンスを増やすことができます。
経営コンサルティングと投資業を手がける、レバレッジコンサルティング株式会社代表取締役社長兼CEOの本田直之氏によると、人脈のないビジネスパーソンが成功することはきわめて難しいのだとか。本田氏は、投資したり自身で起業したりといった自らの経験をもとに、ビジネスにおける人脈の重要性を次のように語っています。
今日まで20年間のビジネス人生で得られた成果は、すべていろいろな人との関係がベースになっているといっても過言ではありません。
(引用元:本田直之(2007),『レバレッジ人脈術』,ダイヤモンド社.)
意見やアドバイスをもらえる
困ったとき、ちょっとした知り合いから思いがけず良い情報をもらって助かったという経験はありませんか? 人脈を広げると、自分だけでは解決できない問題に直面したとき、意見やアドバイスをもらうことができます。特に家族や友人、職場の同僚など「強いつながり」からよりも、他社の知り合いなど「弱いつながり」からのほうが、より有益な情報がもたらされるそうですよ。
「弱いつながり」とは、米国の社会学者マーク・S・グラノヴェッター氏による「弱い紐帯(ちゅうたい)の強さ」という説に由来するものです。ホワイトカラーの男性282人を対象とした1970年の実証研究によると、「弱い人脈ネットワーク」で得た情報をもとに転職した人のほうが、「強い人脈ネットワーク」からの情報で転職した人よりも、転職後の満足感が高かったのだそう。
あなたと「強いつながり」の人は、多くの時間を共に過ごすため、価値観が似ており、そこからもたらされる情報の多くは既知のはず。反対に、「弱いつながり」の人はあなたと異なる環境で生活し、異なる価値観を持っているので、未知かつ斬新な情報をもたしてくれる可能性が高い、というわけです。
幸福度が上がる
ビジネスではなく友だち作りを意識して人脈を広げると、幸福度が上がるかもしれません。
新潟リハビリテーション大学特任教授で人の心理に詳しいメンタリストDaiGo氏によると、人脈は人生の幸福度を左右するのだそう。DaiGo氏は、人脈で幸福度が上がる根拠として、2004年にアメリカの大手リサーチ会社が500万人を対象に行なった、友人と幸福度との関係に関する調査を紹介しています。
職場に少なくとも3人の気心の知れた友達がいるだけで、人生の満足度が96%も上昇することがわかりました。(中略)自分の給料への満足度は200%上昇しました。
(引用元:メンタリストDaiGo(2019),『コミュ障でも5分で増やせる超人脈術』,マキノ出版.)
信頼関係で結ばれた、損得抜きで対等な付き合いができる友だちを作ることを目的にして人脈を広げると、人生がもっと豊かで楽しくなりそうですね。
人脈の広げ方を知り、実践すれば、上記のように多くのメリットを享受できるのです。
「意味のある人脈」の広げ方
人脈の広げ方を知ったとしても、目的を定めず不特定多数の人とつながりを作っては、「本当に意味のある人脈」を広げることにはなりません。むしろ、不要な人間関係が拡大すれば、時間を奪われる、精神的に疲れてしまうなど、デメリットのほうが大きくなります。
数よりも質にこだわった、意味のある人脈の広げ方のコツをご紹介しましょう。
1. 数より質が大事だと知る
具体的な行動を始める前に、人脈作りにおいて大事なのは「数より質」だと意識しましょう。
人脈を広げることは、助け合い刺激し合いながら育まれる信頼関係を、継続して積み重ねることです。「人脈を広げるには、とりあえず知り合いや友だちの数を増やせばいいのかな?」と考えてしまうかもしれませんが、名刺交換しただけの人や連絡先を知っているだけの友人・知人をむやみに増やすだけでは人脈を広げることにはならないので、注意が必要です。
資産運用のセミナーなどを手がける資産デザイン研究所代表取締役社長の内藤忍氏も、単に知人・友人の数が多いというだけでは無意味であるうえに、関わってはいけない人の数が増えてしまうと語っています。内藤氏によると、人脈拡大に成功している人の特徴は以下のとおり。
- 自分がやりたいことをやっている。
- 同時に、相手を楽しませるよう心がけている。
「互いに価値を提供し合い、自分も成長する仕組み作り」が大事なのだそう。人脈を広げるためには、互いに成長し信頼関係を築ける「良質な関係」にこだわることが大切なのですね。
2. 人脈作りの目的をはっきりさせる
次に、どんな人脈が欲しいのか、人脈作りの目的をはっきりさせることが大切です。
作家・YouTuber・企業コンサルタントとして、さまざまな分野で精力的に活動しているDaiGo氏も、付き合うべき人を見極めて、集中力や知識、時間をつぎ込むことで必要なネットワークを築いてきたそう。DaiGo氏は、自らの経験をもとに、人脈は「量より質が重要」と断言しつつ、次のように述べています。
自分の価値観に照らし合わせて、必要な人脈や気持ちのいい人間関係であるかどうかが重要です。
(引用元:同上)
たとえば、ビジネスに特化した関係を目的とするのなら、必要な情報を収集したり、取引できたりする相手を求めるわけです。一方、困ったときに助け合える仲間を作りたいのであれば、損得抜きの強い信頼関係で結ばれた、一体感を共有できる相手を求めます。
人脈作りの目的によって、求める相手の像が変わり、人脈の広げ方も変わるのです。
3. 5分間の親切を心がける
では、実際の行動に移りましょう。出会った相手の信頼を得て人脈を広げるには、「5分以内にできる親切」をしてあげるのが有効です。
ペンシルベニア大学ウォートン校教授で組織心理学者のアダム・グラント氏は、人間を思考・行動に応じて「ギバー(与える人)」「テイカー(受けとる人)」「マッチャー(バランスをとる人)」の3つに分類しました。
グラント氏によると、ギバーこそが成功者になるのだそう。成功している「ギバー」の代表例として、世界最大の英文ビジネス誌である『フォーチュン』が2011年に「シリコンバレーで最高のネットワーカー」に指名したアダム・リフキン氏が挙げられています。
リフキン氏は、初対面の人に会うたび、困っていることや紹介してほしい人物などについて質問し、「5分間の親切」を実践していたそう。人脈作りの成功者・リフキン氏が実践している、「5分間の親切」のポイントは次の通り。
- 何か相手のためになることをするチャンスが目の前にある
- それが5分以内でできることであればすぐにやる
(引用元:同上)
たとえば、幹事になった同僚が忘年会の会場選びに悩んでいたらオススメのお店を教えてあげるなど、5分以内にできることならすぐに手助けをするよう、心がけてみてはいかがでしょう? ちょっとした親切でも、ひんぱんに助けることによって相手との信頼関係が築かれ、自分が困ったときには逆に助けてもらえる人脈を築くことができますよ。
4. 休眠状態の友人・知人・元同僚に連絡する
他社の知人や友人の紹介で知り合った人など、コンタクトはとれるけれども「弱いつながり」にある人々は、自分とは異なる世界に属しているため、新鮮な情報やアドバイスをもたらしてくれる貴重な存在。ぜひ、「弱いつながり」の人脈を広げていきたいところです。
「弱いつながり」を作るのにオススメの方法は、休眠状態の友人・知人・元同僚などに連絡すること。互いに昔の記憶を共有している相手なら、交流が途絶えていた時期があったとしても、思い出話に花を咲かせるなどして打ち解けることができ、アドバイスを求めやすいのではないでしょうか。
経営学の研究者ダニエル・レビン氏らは、2011年、企業の管理職200人以上を対象に、3年間以上「休眠状態」だった相手とつながりを復活させるという実験を行ないました。実験の結果、休眠状態だった人のほうが、現在親しい関係にある人よりも、価値のあるアドバイスをもたらしてくれたのだそう。有益なアドバイスをくれる人が欲しいと思ったら、しばらく疎遠になっている懐かしい友人・知人・元同僚に連絡して、「弱いつながり」を広げてみてはいかがでしょう?
5. 周囲の人との仲を深める
人脈を築くには、数より質が大事。新しい人と出会うことより、すでに周りにいる人との関係を太くすることも、人脈作りには有効です。
安田氏の著書『ルフィの仲間力 「ONE PIECE」流、周りの人を味方に変える法』によると、周囲の人と「仲間」になるには、「自分の弱さを見せて助けを求める」ことが有効なのだそう。「弱さを見せたら、関係が壊れてしまうかも……」と思うかもしれませんが、お互いに助け合える関係を築くには、自分の弱さを相手に見せることが必要なのです。
安田氏によると、自分の長所をアピールするだけでは、助け合える仲間関係を築くのは難しいのだそう。たしかに、「自分は何でもできる!」と自信満々に語っている人に対して、「手助けが必要かな?」「助けよう」とはなかなか思えませんよね。
ちょっと勇気のいることかもしれませんが、自分の弱さを探し、欠けているものを補ってくれる相手に、助けを求めてみてはいかがでしょう? そして、相手から弱さを見せられ助けを求められることがあれば、全力で応えてみてください。弱さを見せられ助けを求められた相手は、「自分は頼られている」「自分が助けなければ」と思って、助けを求めてきた人を信頼し、仲間であるという自覚を深めるのだそうですよ。
『ルフィの仲間力 「ONE PIECE」流、周りの人を味方に変える法』では、「自分の夢や目標を周囲に伝える」という方法も紹介されています。夢や目標があるなら、自ら発信することで、同じ夢や目標を持った人を見つけるチャンスが増えるのではないでしょうか? 安田氏が仲間作りの成功例に挙げている大人気少年漫画『ONE PIECE(ワンピース)』でも、主人公ルフィが掲げた「海賊王になる!」という大きくてわかりやすい夢のもと、同じ夢を共有する仲間たちが周囲に集まり、助け合い、共に困難を乗り越え前進していきます。
たとえば、オリンピックの金メダリストがインタビューで「私を支えてくれた皆さんのおかげで、一緒に夢を叶えることができました!」と、自分をサポートしてくれた仲間たちへの感謝の言葉を語るのを耳にしたことはありませんか? 金メダルや優勝という壮大な夢を追っているスポーツ選手の周囲にも、監督やコーチから家族、ファンに至るまで、大きな夢を共有しサポートしてくれる多くの仲間たちが集まっているものですよね。自分の夢を周囲の人に知ってもらうことで、同じ夢を抱く友人・知人を紹介してもらえたり、思わぬ人がサポートしてくれるようになったりして、人脈が広がるのです。
以上、「意味のある人脈の広げ方」をご紹介しました。取り上げた「人脈の広げ方のコツ」を、ぜひ実践してみてください。
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人脈とは、互いに助け合える、信頼関係のもとに築かれた人と人とのつながりのことです。人脈を広げると、ビジネスチャンスを広げられる・意見やアドバイスをもらえるチャンスが増える・幸福度が上がるなど、多くのメリットがもたらされます。
人脈を広げるコツは、お互いに与え合える対等の関係作りをすること。自分がどんな人と付き合いたいのか目的を定め、相手と信頼関係を築き、細くとも長い関係を続けるのが大切です。今回ご紹介した人脈の広げ方を、試してみてはいかがでしょう?
安田雪(2004),『人脈づくりの科学』, 日本経済新聞社.
安田雪(2011),『ルフィの仲間力 「ONE PIECE」流、周りの人を味方に変える法』, アスコム.
本田直之(2007),『レバレッジ人脈術』, ダイヤモンド社.
高田朝子(2010),『人脈のできる人 人は誰のために「一肌ぬぐ」のか?』, 慶應義塾大学出版.
メンタリストDaiGo(2019),『コミュ障でも5分で増やせる超人脈術』, マキノ出版.
平野敦士カール(2018),『世界のトップスクールだけで教えられている 最強の人脈術』, KADOKAWA.
アダム・グラント著, 楠木建訳(2014),『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代』, 三笠書房.
日本経済新聞|彼らは「人脈の本当の意味」を知っている
上川万葉
法学部を卒業後、大学院でヨーロッパ近現代史を研究。ドイツ語・チェコ語の学習経験がある。司書と学芸員の資格をもち、大学図書館で10年以上勤務した。特にリサーチや書籍紹介を得意としており、勉強法や働き方にまつわる記事を多く執筆している。