「これぐらいの仕事だったら○時間で終わるだろう」と予想したのに全然終わらなかった……。急に予想外の仕事を振られたせいで、いくら時間があっても足りない……。こんな状況に陥ったことがある人も多いのではないでしょうか?
こんな「いつも仕事に追われている人」に求められるのは、“未来を見通す力” を身につけること。これ、なにも「予知能力を鍛えよう」と言っているわけではありません。毎日 “あること” を実行するだけで、予測と現実の誤差が小さくなり、万が一 “予定外のこと” が入ってきても焦らずに対処できるようになるのです。
今回は、仕事に余裕を持つための「Just In Case(=JIC)」という考え方と、それを身につけるための「プロアクティブ・タイムマネジメント」について取り上げます。
時間に追われるシンプルな理由は「備えがない」から
いつも時間に追われるのはなぜなのでしょうか。あなたの仕事が遅いから? それとも、明らかにキャパシティをオーバーした仕事を投げてくる上司が悪い?
もちろん、それらも原因かもしれません。しかし、もっと根本的でシンプルな理由をひとつ挙げるとすれば、それは「備えがない」からです。
計画とずれたり、想定外の事態が発生したり……こういった現象は、ビジネスの世界ではよくあること。そして、「この仕事は○時間ずれ込むだろう」「今日の○時に上司から新しいタスクを頼まれるだろう」といったことは、完璧には予測できません(だから “想定外” なのです)。
でも、事前に私たちにできることがひとつあります。それが、不測の事態に備えて準備をしておくこと。要するに、「予定外の出来事が起きるかもしれない」という前提を常に頭の中に持っておき、自分に “余裕” や “空き” をつくっておくのです。そうすれば、想定外の出来事が発生したとしても、ゆとりを持って対処できそうではありませんか?
「JIC」という考え方が重要な理由
先に述べたような “万が一に備える” という考え方を「Just In Case(=JIC)」といいます。少しわかりにくいので、例を出してみましょう。
さまざまな国や財団の出資によって設立された「CEPI(感染症流行対策イノベーション連合)」という組織をご存じでしょうか。ここでは、人類の存続を脅かすほどの危険なウイルス(例:エボラ出血熱)が発生したときに備え、その感染を予防するためのワクチンについて研究開発しています。
いつどんなウイルスがまん延するかは誰も予測できません。もしかしたら、せっかく開発しているワクチンが使われない可能性だってあるわけです(もちろん、それに越したことありませんが……)。それでも、CEPIは万が一の場合に備えて研究開発を続けています。非常事態に迅速に対応するためです。
この戦略がまさに「JIC」です。起業家のMargaret Hefferman氏は、JICは人のスキルにおいても重要であると提唱しています。つまり、この「JIC」という考え方が身についていれば、新しい課題やタスクが次々降りかかってくるビジネスの世界でも、余裕を持って対処できるようになるということ。精神的に安定しながらハイパフォーマンスで働くことにつながるのです。
大学レベルのオンライン教育を提供する「Study.com」という海外サイトによれば、JICのスキルを持つビジネスパーソンには以下のような特徴があるとのこと。
- 未来の予定を立てるのが得意(仕事をうまくまわすために何をすればいいかを常に考えている)
- 先読みが得意(想像力を使って、よいことも悪いことも事前に予想できる)
- 事前解決が得意(問題を予測して、起こる前に事前解決してしまう)
- すぐに行動する(どんなこともすぐに着手するので、先延ばしがない)
いいことだらけの「JIC」というスキルを身につけるには、どうすればいいのでしょうか?
「プロアクティブ・タイムマネジメント」を実践しよう
「JIC」を身につけるためにおすすめなのが「プロアクティブ・タイムマネジメント」です。簡単にいえば、仕事における時間の使い方について、「計画」と「実績」に剥離(かいり)がないか、逐一確認する習慣をつけようということ。それにより、時間に余裕を生み出せると同時に先読み力も磨かれ、“万が一” に強くなることができます。
ノートや手帳を使い、プロアクティブ・マネジメントを実践するステップは全部で5つ。以下で詳しく見ていきましょう。
【1】1日の初めに、その日のわかっている予定を左側に記載する
1日のスタートに、ノートや手帳などに、主なスケジュールを書き込んでおきます。やるべき仕事を洗い出すのが狙いです。
【2】右側に実績を記載する
実際にどのように時間を使ったのかを、事実として右側に記載します。
【3】予定と実績の比較をする
予定と実績を比較し、そのズレを確認していきます。蛍光ペンやカラーペンなどを使い、以下のように色分けすると視覚的に見やすいでしょう。
青:先延ばししてしまったもの
赤:予定よりも時間がかかったもの
緑:予定外のもの
たとえば、上の画像の場合、11時に実施予定だった「金曜日に行なうプレゼンの資料作成」ができず先延ばしにしてしまったので青に、9時半からの「社内ミーティング」が30分延びたので赤に、「A社とのミーティングの資料作成」「新入社員のOJT」が計画段階では想定していなかったため緑になっています。
【4】それを1週間2週間と続けていこう
プロアクティブ・マネジメントは1日で終わりではありません。続けることで、あなたの問題点が明らかになってきます(後述)。こちらの画像は、月曜日から金曜日まで続けてみた場合を示しています。
【5】色分けから “自分に足りない能力” を分析する
このように長期間続けてデータをとってみると、自分の仕事の進め方の問題点が見えてくるはずです。
たとえば「青」が多かった(先延ばしにしたものが多かった)場合、優先順位のつけ方が苦手である可能性があります。ただし、「やるべきことを事前にある程度把握していたものの、不測の事態を優先せざるをえなかった」ともいえますので、以降で説明する対策で大きく改善できるでしょう。
「赤」が多かった(予定よりも時間がかかったものが多かった)場合、作業時間の見積もりを苦手としている可能性があります。この場合は、「そのタスクを予定の時間内に終わらせるにはどうすればいいのか」を考えるのはもちろん、「時間を “気持ち多め” に確保しておく」という対処法をとることで、ズレを防ぐことができるでしょう。
「緑」が多かった(予定外のものが多かった)場合は、そもそもあなたの仕事が “予定外のものが降ってきやすい” 状態であるといえます。その際の解決法は、ずばり「予備時間を積極的に計画に盛り込んでおく」こと。“予定外のタスクが来ることを予定しておく” のです。仮に予定外のタスクが何もなかった場合は、先んじてほかのことを進められますので、いずれにせよ時間に追われるという事態は少なくなるはずです。
赤と緑の対策(つまり、「計画にゆとりや予備時間を設ける」ということ)が上手にできれば、物事が後手後手にまわることはなくなります。結果、青で示された先延ばしも減り、計画と実績のズレも徐々に少なくなっていくことでしょう。
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時間に追われている感覚がある人は、ぜひ「自分がどの時間を何に使っているのか」「計画と実績がどれくらいズレているのか」を把握するところから始めてみてください。
(参考)
Investopedia|Just In Case (JIC)
Ted|Margaret Heffernan: The human skills we need in an unpredictable world
国境なき医師団|適正価格でワクチンの開発推進をーーCEPIに対し公開書簡で訴え
Study.com|Proactive Employees: Characteristics & Skill Development Video
村中剛志(2008),『「先読み力」で人を動かす』, 日本実業出版社.
【ライタープロフィール】
渡部泰弘
大阪桐蔭高校出身。テンプル大学で経済学を専攻。外出時は常にPodcastとradikoを愛用するヘビーリスナー。