同じくらいの能力でも、まわりから評価される人もいれば、そこまで評価されない人もいます。なぜこのような差が生まれるのでしょう? そして、どうすれば評価されるのでしょうか。
グロービス経営大学院の教員、そして動画学習サービス「GLOBIS学び放題」コンテンツの出演講師として、多くのビジネスパーソンをサポートしてきた林浩平(はやし・こうへい)氏に伺ってみました。
「仕事ができる人」については「仕事が出来る人の特徴14選&仕事が出来る人になる方法4つ」でも詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。
- 「実務の能力が高い」×「それを周囲に的確に訴求できる」人
- 実務の能力を高めるふたつのコツ
- 自らの評価を高めるには「マーケティングの視点」も欠かせない
- 「人を自分の味方にするテクニック」とは?
- テクニックは活用しても、翻弄はされない
「実務の能力が高い」×「それを周囲に的確に訴求できる」人
まずは、「仕事ができる人」というのはどんな人なのか、あらためて考えてみましょう。
多くの場合、「第一に実務の能力が高く、さらにそれを周囲に的確に訴求できる人」です。
なかには能力がなくても、なぜか上長などからの評価が高い人もいます。ただ、そういう人はいずれ本来の実力がバレるので、評価を長く維持することはできません。
また、飛びぬけて実力が高く、まわりにアピールする必要がない人もいますが、そんな人はごくわずかです。
実務の能力を高めるふたつのコツ
それでは、実務の能力を高めるコツを解説しましょう。
仕事で成果を出せるか出せないかは、「期待値のコントロール」と「段取りの設計」がカギになります。
1.「期待値のコントロール」
「期待値のコントロール」とは、仕事のアウトプットの受け取り手であるお客様や上司などが「自分にどういう仕事ぶりを期待しているか」を把握し、それに見合った成果を出すこと。
仮に上司から「新商品の企画書を急ぎで出してほしい」と頼まれたとき、あなたならどう進めますか?
「とりあえずリサーチに取りかかる。急ぎと言われているので、その日は徹夜をするかも……」という人もいるかもしれませんが、まずは相手がどのようなアウトプットを期待しているのかを探ってみましょう。
タスクが生まれたらすぐに「いつまでに必要ですか?」と期日を確認したり、「来週までに骨子をまとめるので、ご意見をいただけませんか?」と提出物のレベル感やタイミングを調整したりするのです。
相手にどの程度の仕事ぶりを期待されているのかがわからなければ、どのくらい力を入れるべきかもわからないもの。
相手はちょっとしたアイデアを聞かせてほしいだけなのに、100ページのプレゼン資料をつくったらどうなるでしょう? 「そんなことに時間をかけなくてもいいのに……」「わかってない」「ピントがズレてるなぁ」と、かえって評価が下がってしまいかねないのです。
(画像:GLOBIS学び放題「仕事が出来ると思われるためには「期待値のコントロール」を意識せよ!/みんなの相談室Premium」より)
2.「段取りの設計」
次に重要なのが「段取りの設計」です。求められているアウトプットの大枠がつかめたら、やるべきタスクを切り出して、どの程度時間がかかるかを見積もります。
すると、いつ頃までにできそうか、時間が読めますよね? そこで「別件があるため提出が今週金曜日になりますが、よいですか?」というように、うまくスケジュールをコントロールするのです。
場合によっては、一部のタスクを誰かに任せるという手もあります。実務能力の高い人は、こうして相手の期待値をしっかり把握したうえで、それに見合ったクオリティのアウトプットを一定の時間内に出すのです。
自らの評価を高めるには「マーケティングの視点」も欠かせない
次は、「実務能力の高さを的確に訴求する方法」について考えてみます。
じつは評価は、印象に大きく左右されるものです。狙い通りの印象を相手に与え、望みの評価を得るためには、マーケティングの観点が必要になります。
マーケティング戦略を立案するときは、一般的にSTPを考えます。
Sはセグメンテーションで、市場の細分化という意味。社内でのコミュニケーションに当てはめるなら、上司、同期、後輩、他部署の社員といったセグメントに分けられます。Tはターゲットで、特に優先すべき対象。Pはポジショニングで、ターゲットから見た自分の位置づけです。
あなたが新規プロジェクトを企画し、稟議で通したいときなら、セグメントした層のなかでターゲットとなるのは、決定権をもつ上司です。その上司に「応援したい若手」「自分と同じ志をもつ社員」であると印象づける(=ポジショニング)ことができれば、上司があなたの提案を前向きに検討してくれる確率は高まります。
方法としては、そうした印象を与えるために、普段から会話の機会をもったり、上司の発言や行動について質問したり、率直な助言を求めたりするなど、ターゲットとの接点を増やし、好印象を与えるといいでしょう。すると、上司から見たあなたの印象は大きく変わってきます。
「人を自分の味方にするテクニック」とは?
先ほど述べたマーケティングを成功させるためには、「パワーと影響力」が不可欠です。
3つの「パワー」
「パワー」というのは、他人を動かす潜在的能力のこと。下の図のように、パワーには大きく3種類あります。
(画像:GLOBIS学び放題「パワーと影響力(入門編)~人を動かすメカニズム~」より)
たとえば、部内で新しい方針を決めるとき、「公式の力」をもつ部長は、そもそもその意見が通りやすいと言えます。
そこに、部内のほかの人と非常に強い関係性をもつ人が、部長とは異なる意見を出したとしましょう。部長より「公式の力」は弱くても、「関係性の力」を働かせて部長の意見を覆せる可能性がありますね。
ほかにも優秀な人、たとえば営業成績が高い、プレゼンがうまいとまわりから認められている人は、大きな「個人の力」をもっています。地位は高くても印象の薄い人より、肩書はなくてもまわりから一目置かれているような人の方が、パワーが強いことも多いのです。
6つの「影響力」
そして「影響力」とは、他人を動かそうとする「プロセスや行動」を指します。影響力には、以下の6つがあります。
人は、正しいことを言ったからといって従ってくれるとは限りません。影響力を理解することは、相手に働きかける際の、大きな助けになります。
(画像:同上)
このなかでも、「返報性」や「好意」などは実際にビジネスの現場で無意識に使っている人も多いと思います。たとえば、ちょっとした仕事を手伝った代わりに別の仕事を手伝ってもらう人、飲み会の席で上司に「過去の成功談をもっと聞かせてほしい」などと言ってかわいがられる人などがイメージしやすいでしょうか。
これらのパワーと影響力が人の判断に影響を与え、どのような行動をとるかを決定する要因となります。この法則を理解することで、”狙った相手に狙った印象を与える” マーケティング観点のコミュニケーションが、より確実に進められるということなのです。
テクニックは活用しても、翻弄はされない
ここまでお伝えしてきた内容は、「味方を増やすコツ」とも言えるもの。
味方を増やすというと、ゴマすりや社内政治といったネガティブな印象をもつ人もいるかもしれませんが、あくまで目的を達成するための手段に過ぎません。そういった地道なコミュニケーションは結局、「周囲とのよりよい関係性」といった「やりたいことを実現するための土台」をつくることにつながるものです。
もちろん、やりすぎると自分も疲れてしまったり、「ずるい奴だ」という悪評が立ったりする可能性はあるでしょう。しかしほどよく取り入れることで、自分が目指すことが実現に近づきます。習慣・テクニックとして、食わず嫌いせず一度取り入れみるとよいのではないでしょうか。
ただ、「できる人」でいることに過剰にこだわる必要はないと、私は考えます。
「できる」と思われていると仕事がやりやすい、といったメリットはあります。一方で、優秀さを万人に認められるのは、かなり難しい話です。
上で紹介したようなテクニックは、自分が正しいと思うことを実現したり、やりたいことをやったりするためにぜひ駆使していただきたいですが、「テクニックはテクニック」という割り切りも必要です。
これを読んでくださっている方には、「まわりの評価を過度に気にすることなく、自分の意志を貫く」と、強い芯をもったビジネスパーソンとして歩んでいっていただければと思います。
(記事協力:株式会社グロービス)
(関連動画:GLOBIS 学び放題)
仕事が出来ると思われるためには「期待値のコントロール」を意識せよ!/みんなの相談室Premium
パワーと影響力(入門編)~人を動かすメカニズム~
マーケティング(基本編)
【プロフィール】
林 浩平(はやし・こうへい)
株式会社 delta design 代表取締役、グロービス経営大学院 専任教員。
慶應大卒、Accenture、JTB、GLOBISを経て現職。企業の成長/変革パートナーとして、新事業創出、戦略策定、制度設計、組織開発等を支援。加えて、ベンチャー投資/経営に携わり、サービス/教育/デザイン分野を主に複数社の取締役やアドバイザーを務める。
グロービスではMBAにて戦略系・ヒト系・思考系科目の教鞭を執るほか、教員育成やコース開発まで幅広く担う。