取引先の担当者の顔は覚えているのに名前が思い出せない……、上司に頼まれていた仕事の用件をうっかり忘れてしまった、といった経験はありませんか?
もしかしたら、いくつかの悪い習慣のせいで、あなたの脳は知らないあいだに退化しつつあるのかもしれません。この記事では、脳に悪い習慣・行動とその改善方法を解説していきます。
反対に、脳にとってよい習慣を知りたい方は、「【社会人必見】脳にいい習慣7選! 仕事&勉強がきっとうまくいく。」をご覧ください。
脳を退化させる習慣1:マンネリな生活をする
毎日の生活スタイルが単調になっていませんか? じつはそれ、脳に悪い習慣です。
脳科学者・脳内科医の加藤俊徳氏は、毎日決まりきった生活を送ると、脳の働きが鈍化すると述べています。
逆に、「新しいこと」「楽しいこと」「ワクワクすること」に取り組むことは、脳にとって一番の栄養になるのだそう。通勤ルートを変える、寄り道をするなどして、毎日の生活に変化をもたせましょう。加藤氏によると、使われていない未熟な脳細胞は新しい刺激によって発達するそうですよ。
また脳科学者の篠原菊紀氏は、初めてのことへのチャレンジによって、注意力や記憶力を鍛えられると述べます。年齢とともに衰えやすいワーキングメモリ(作業記憶。情報を一時的に保存しながら判断・思考する機能)に深く関わる、前頭葉が活発になるからです。
普段読まないジャンルの本を読む、クイズを解いて新しい知識を得る、知らない町を歩くなどの行動で、適度な緊張感をもちながら生活をすれば、前頭葉の働きが活発になって「老けない脳」をつくることは可能だと、篠原氏は話しています。
脳を退化させる習慣2:人の悪口を言う
あなたは、職場やプライベートで悪口を言ってしまうことはありませんか? これも、脳によくない習慣。
脳科学者・神経内科医の米山公啓氏は、脳の老化を早めるNG習慣として「悪口」を挙げ、「他人に対する悪口は、言えば言うほど自分の脳に悪影響を与える」と断言しています。
米山氏によると、ネガティブ思考は脳にストレスを与え、記憶の司令塔である海馬の神経細胞を壊してしまうとのこと。つまり、ネガティブな考え方や行動をするだけで、自分で自分の脳を傷つけることになるのです。
悪口でストレスを発散するよりも、ポジティブな思考や行動をとりましょう。とはいえ、ネガティブ思考の人間が急にポジティブに変わるのは、難しいものですよね。そこで米山氏がすすめているのが、「ほめ日記」です。
毎日寝る前に、自分がよくできたことを5つくらい箇条書きにします。「時間通りに起きられた」「メールの返信を忘れなかった」など、どんなことでもOKです。すると、普段ネガティブ思考になりがちな人でも、脳が意識的にいいことを探すようになるそうですよ。きっと、他人の悪口を言うことも減るのではないでしょうか?
脳を退化させる習慣3:手書きをしない
最近は、パソコンやスマートフォンが普及しているため、手書きをしない人も多いのではないでしょうか。しかし、これも脳に悪い習慣になります。
認知症専門医の長谷川嘉哉氏によると、パソコンやスマートフォンに文字を打ち込む際、指先は決まった法則に従って動くだけなので、脳はあまり働かないそうです。
それに対して、手書きでは指先を繊細に動かす必要があるため、脳をフル稼働させる効果があるのだとか。手書きには、
- 文字や指先に注意を傾けることで、集中力が増す
- 記憶を振り返る機能、思考や感情を言語化する機能が働く
- 書いた文字に注意が向き、記憶が強く定着する
という3つの利点があると述べています。
なかでも、記憶力に関しては次のような研究結果も。
『バレットジャーナル 人生を変えるノート術』の著書ライダー・キャロル氏は、プリンストン大学のパム・ミューラー氏の研究結果を挙げ、「授業内容をノートに手書きした大学生のほうが、パソコンで内容を打ち込んだ大学生よりもテストの平均点がよかった」としています。さらに、試験後も授業の内容を長期間覚えていたのは、手書きのグループだったそうです。
とはいえ、脳を鍛えるには何を書けばいいのか、迷う人もいるでしょう。長谷川氏は、読書や映画鑑賞のあと、以下の事柄を箇条書きにすることをすすめています。
- 読んだ日時、場所、天気
- (本の場合は)タイトル、著者名、出版社名
- 仕事に役立つと思った情報
- 印象に残ったフレーズ
- 新鮮だと感じた表現
- 読みながら浮かんだ疑問
(引用元:東洋経済オンライン|脳機能の低下を防ぐには「手書き」が有効だ)
時間がないときは、【読んだ日時、場所、天気】と【タイトル、著者名、出版社名】のみでもOKだそう。「書く習慣が脳を蘇らせる!」と長谷川氏は断言していますよ。
脳を退化させる習慣4:1日2食で済ませる
忙しさにかまけて朝食を抜き、昼と夜の2食で済ませていませんか? これも、脳に悪い習慣。
同志社女子大学教授の小切間美保氏によると、1日2食では、脳を十分に活動させるほどのエネルギーを供給できないそう。その理由はこうです。
――脳を働かせるには、1日あたり120グラムのグリコーゲン(肝臓や筋肉で合成され蓄えられる、エネルギーのもととなる多糖)が必要。しかしグリコーゲンは、1回の食事で最大60グラムまでしかつくられないうえに、5~6時間しかもたない。脳は寝ているあいだも活動していることを考えると、1日2食ではグリコーゲン不足になる可能性がある――
同様に3食の習慣をすすめる認知症専門医・白澤卓二氏は、「脳に行き渡る栄養源が不足すると脳の萎縮を招く」と述べています。加えて、ただ3食とればいいのではなく、質も大切だとのこと。
ならば、脳にいい「ブレインフード」を食べるのはいかがでしょう。世界的脳トレーナーのジム・クウィック氏が挙げるブレインフードのなかから、いくつかピックアップしてご紹介します。
- ダークチョコレート
注意力や集中力を高める効果がある。糖分の少ないものがよい。少量のダークチョコレートでも脳はよく働くことがわかっているとのこと。 - クルミ
脳の老化を防ぐ抗酸化物質とビタミンEが豊富。記憶力向上や認知症緩和などに効く(株式会社メディケア・リハビリの解説による)。 - 水
脳の約8割は水分。脱水はブレインフォグ(頭にモヤがかかったように思考力が低下すること)や疲労の原因となるとのこと。
ほかにも、記憶力向上を助けるブロッコリーや卵、脳老化を抑えるサーモンなども、クウィック氏は挙げています。料理が苦にならない人は、ぜひ食事に取り入れてみてくださいね。
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あなたがなにげなくやっていた習慣はありましたか? まずは、「人の悪口を言わないこと」から始めてみるのはいかがでしょう。
(参考)
NIKKEI STYLE|脳が老けないためやるべきこと、やめたほうがいいこと
東洋経済オンライン|40代でも脳が若い人、老けている人の決定的差
女の転職type|ネガティブ思考は「脳の老化」を早める! 人生100年時代に女性たちが意識すべき“脳ケア”とは
医療法人緑会 佐藤病院|認知症特集ー海馬とは?
東洋経済オンライン|脳機能の低下を防ぐには「手書き」が有効だ
ダイヤモンドオンライン|記憶、情報整理、精神の治癒……手書きが結局、いちばん効果的な理由
NIKKEI STYLE|食事はなぜ1日3回? 食のリズムと健康の深い関係
理化学研究所|加齢に伴うグリコーゲンの脳内分布変化を可視化
東洋経済オンライン|脳の「プレミアム燃料」になる「食べ物10選」
メディケア・リハビリ|ブレインフード~脳を活性化させる食べ物とは?~
医療法人光陽会 関東病院|ブレインフォグ(脳の霧)の原因と対策
【ライタープロフィール】
西ひとみ
大学では教員養成課程に在籍。大学院では英語教育を専門に学んだ。小学校教員免許、中学・高校教員免許(英語)を取得済。高校教師、小中学生向け塾講師としての指導経験がある。よりよいコミュニケーション法や最新脳科学への関心が高く、日々情報収集に努めている。