「怒りやストレスは自然と湧いてくるものであり、制御不可能だ」、そう考えてはいませんか?
例えば仕事には、人間関係から来るストレスや、理不尽な仕事を押し付けられることによる怒りなど、ネガティブな感情がつきものですよね。こうした感情は外部に起因するものが多く、自分でコントロールすることはできない、と考えられがちだと思います。
テニストッププレイヤーの錦織圭選手は、怒りとうまく付き合う方法「アンガーマネジメント」を学び、練習や試合中に感情をコントロールする術を身に付けているのだそう。近年ではアンガーマネジメントは米国の企業研修などにも取り入れられ、ビジネスパーソンにも多く利用されています。今回は、そんなアンガーマネジメントから、怒りと上手く付き合う方法を見ていきましょう。
錦織圭選手に見る、怒りを引き出すという考え方
2011年、錦織圭選手の世界ランキングは30位。その年のスイス・バーゼルでの大会決勝戦で、錦織選手がフェデラー選手に完敗したことに対して、コーチのマイケル・チャン氏は次のように諭しました。
「フェデラー戦で、君は大きなミスをした。それは準決勝の後に君が『憧れのフェデラー選手と決勝で当たるなんてワクワクします』と言ったことだ。コート外で選手を尊敬するのはいい。けれども、戦う前から満足してしまってはいけない。コートに入ったら『お前は邪魔な存在なんだ』と思わなければいけない。『優勝するのはお前じゃない、オレだ!』、『過去の実績なんて試合には関係ない』という強い気持ちが必要なんだ。君は相手が誰であろうと勝つことだけを考えるのだ」
(引用元:東洋経済ONLINE|「感情コントロール」が錦織圭を成長させた)
怒りは感情の中でもとりわけ強い力を持ち、人を行動に向かわせる大きな力があるもの。チャン氏が錦織選手に助言したように、相手をあえて怒りの対象に見立て、努力を積み重ねていける人は大きく成長できます。錦織選手はこうして怒りを引き出したり抑えたりする術を学び、2016年現在世界ランキング5位の座にのぼりつめたのです。
「べき」の領域を広げる
錦織選手が実践していた「アンガーマネジメント」の中でもビジネスパーソンにとって特に有用な、怒りと上手く付き合うための実際の方法を見ていきましょう。
まず知っておきたいのが、自分の「べき」の領域を広げるというテクニックです。たとえば、あなたが「会議には5分前には到着するべきだ」という価値観を持っていたとします。この場合以下の3パターンの人がいたら、あなたはどう考えるでしょうか。
(1)「会議5分前よりも早い、10分前に来た人」 (2)「会議の開始時間ちょうどに来た人」 (3)「会議開始時間より遅れてきた人」
あなたと同じ価値観を持っている(1)の人に対しては、あなたは怒らないはずです。(2)の人に対しては、怒ったり嫌味を言ってしまうかもしれません。(3)の人に対しては、あなたに限らず多くの日本人が怒るでしょう。
この状況に対して、アンガーマネジメントは、(2)のラインを受け入れる努力をしようと主張します。自分の「5分前集合」という価値観のほかにも、「ギリギリでも間に合えばいい」を認められるようになりましょう、ということ。そうでないと、自分と異なる価値観が当たり前の環境に身を置くことになった場合に、そのギャップを受け入れることができなくなります。例えば、国が違えば「遅れること」が当たり前になるかもしれません。自分の価値観は大事ですが、自分がどこまで許せるかを明確にすることもまた大切なことなのです。
6秒ルール
どうしても自分の怒りの感情が抑えきれずに、今にも爆発寸前になってしまいそうなときは、一旦自分にストップをかけましょう。「怒りの6秒ルール」といって、すべての怒りは6秒でピークを超えます。この間は100、97、94と3ずつカウントバックしていってもいいですし、周りにある物、たとえばペンや机などの細かいつくりやロゴの観察に集中するというのでもいいでしょう。
例えばあなたがリーダーであるとして、なかなか仕事の精度があがらない部下がいたとしましょう。このようなとき多くの場合、頭ごなしに叱りつけることよりも、部下のモチベーションを上げて次の行動につなげてあげることのほうが大切です。この「6秒ルール」を実践すれば、あなたが物事に常に冷静に対処することが可能になるのです。
怒りと上手く付き合う
私たちは、怒りの持つ性質を知ることによって、逆に怒りの持つエネルギーを利用することができます。
錦織選手のように、相手を憧れの選手とみなすのではなく、倒すべき敵に見立てて自らの成長の糧にすることも可能。いつもは怒らないようにしておき、ここぞというときに「怒り」という強い感情を部下や上司にぶつけることによって、意志の強さ、説得力、魅力的な人間性を表現することもできるでしょう。
怒りは自然と生まれてくるものですが、どのように利用していくかはあなた次第です。怒鳴ってしまいそうになった時は、一旦立ち止まって、「怒って問題は解決するだろうか?」と考えてみてください。そうすれば、あなたの価値観も広がり、いつの間にか怒りは消えているでしょう。感情をコントロールできるようになれば、あなたも周りも大きく変わるはずです。
(参考) 岸見一郎・古賀史健著(2013),『嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え』,ダイヤモンド社. 戸田久美著(2016),『マンガでやさしくわかるアンガーマネジメント』,日本能率協会マネジメントセンター. 東洋経済ONLINE|「感情コントロール」が錦織圭を成長させた Wikipedia|錦織圭 Counseling Space Peaceful Heart|アンガーマネジメント沖縄支部勉強会