やろうやろうと思っていてもなかなか手がつかない語学のテキスト、数学ブームで買ったはいいけど永遠に取り掛からないかもしれない問題集……。
勉強しようという気持ちはあっても、なかなか勉強を始めることができない。最初の一歩を踏み出すことは、勉強において最も大変な動作のひとつでしょう。
学生時代、夏休みの宿題になかなか取り掛かれず、後から辛い思いをした経験のある人は少なくないと思います。学生でさえそうなのに、忙しい社会人ならなおさら。日々の仕事を優先せざるを得ないでしょうし、仕事で疲れてしまい勉強する気力がわかないこともあるかもしれません。ビジネスパーソンにとって、勉強を始めるというその一歩は、時としてとてもハードルの高いものになってしまうのです。
しかし、ほんのちょっと工夫するだけで気楽に勉強をスタートできる方法があるとしたら、やってみようと思いませんか?
今回は心理学や脳科学などの観点から、どのようにすればスムーズに最初の一歩を踏み出せるのか、見ていきましょう。
常に勉強場所と時間帯を固定する
もしかするとあなたがなかなか勉強を始められないのは、勉強を始めるまでに余計な時間が多くかかり過ぎているからかもしれません。
「コーヒーを淹れてからでないと勉強できない。コーヒーを淹れている間、何気なくテレビをつけたら面白い番組がやっていた。内容が気になって見ていたら『続きはCMの後で』と言われ、ついコーヒー片手にソファに座ってしまった……」
であるとか、
「駅前のカフェに行って勉強しようにも席が混んでいる。少し待っているうち退屈なので、スマートフォンでゲームを始めた。席は空いたけど、ゲームにノッてきてしまい、そのまましばらくゲームを続けてしまった……」
といった時間の使い方をしていては、いつまでたっても勉強は始められませんよね。確かに、勉強を始めるまえのちょっとしたルーティンを持っている人は多いと思いますが、あまりに時間がかかり過ぎるのは考え物なのです。
なかなか勉強の一歩目が踏み出せない人は、手始めに、一度勉強に入る前の自分の行動を見直してみてはいかがでしょうか? そのうえで、自分が集中して勉強すべき「場所」と「時間帯」を決め、それを毎回固定して実践してみてください。
「場所」は、家で勉強するのが苦手なら、近所の図書館でもいいですし、お金を払って自習室を借りるという手もあります。もちろん、自室でもカフェでもファミレスでも、自分に合った場所であればどこでもかまいません。また「時間帯」は、例えば平日なら毎週火曜と木曜の仕事が終わった後の2時間、とか、平日は無理だから休日の朝8時~12時、といった具合に、勉強に費やすべき時間を決めてしまいましょう。
勉強だけに集中する空間と時間を固定して確保すれば、決まった時間帯に固定の場所に移動することで、無駄な行動をせず、シンプルに勉強に取り掛かりやすくなります。
独自の行動科学マネジメントを確立し高く評価されている石田淳さんは、著書の中で、目的と競合するライバル行動を減らせと説いています。まさに勉強場所と時間を固定することには、ついテレビをつけたりスマホを触ったりしてしまうようなライバル行動を減らし、勉強という行動を始めやすくなる効果があるのです。
目標は低めに設定する
目標は高いほうがいい! とはよく言うものの、毎回継続的に勉強にスムーズに取り掛かれるようにするためには、手が届く範囲の成功体験を積み重ねることで、勉強したくなる気持ち、つまりやる気を維持することが必要不可欠です。
スマホゲームをするとき、最初の一歩が踏み出せないと悩むことは少ないでしょう。苦もなくすぐに始められ、ついつい長い間やってしまうものですが、それは、バトルやイベントを通してアイテムや経験値といった成功体験=ご褒美を比較的すぐに得られるためです。
しかし勉強の場合、受験勉強でも資格試験の勉強でも、成功体験を得るにはかなりの長い時間と忍耐が必要となります。簡単に目に見える成果が出ないからこそ、やる気を維持して勉強に取り掛かることが難しいのです。
そこで有効なのが、“それなり”に頑張れば“ぎりぎり”獲得できるレベルの成功体験=ご褒美を用意しておくこと。
今日はここまで終わったら、一回休憩をいれて好きな音楽を一曲聞いてもいいことにしよう。 この単元が理解できたら、おやつを食べてもいいことにしよう。
これは心理学的にも理にかなった方法だと言えます。人は、達成体験によって自己効力感が向上します。説明すると、自分が自分の目標を達成できたとき、人は自分をコントロールできていると感じ、行動へのモチベーションが湧くということ。小さなご褒美を用意しておくだけで、自分が決めたことを自分で達成できたという満足感を得ることができ、その次の勉強を始めるのに必要な原動力を得ることができるのです。
音楽やアメ、ガムなどの力を借りてみる
勉強中、音楽やアメ、ガムなどにお世話になっている人も多いかと思います。実はこれらも、勉強を始めることに関するハードルを下げるには有効です。なぜなら、音楽やアメ、ガムには、勉強に集中できるようにする働きがあるから。
クラシック音楽や静かなジャズには、α波という脳波を出させる効果があり、集中力を持続させる力があります。
また、アメやガムなどを口の中で動かすことで脳への血行が良くなり脳が覚醒するため、集中力が持続しやすくなります。さらに勉強する人にとって嬉しいことには、ガムなどを噛むことで、海馬が活性化するという効果もあるそうです。海馬が活性化すれば記憶力の向上も見込めるため、とても頼もしい勉強の相棒だと言えるのです。
勉強を始める前には、音楽をかけたりガムを一粒口に入れたりしてみてはいかがでしょうか。
*** 最初の一歩を踏み出すことは、勉強において最も大切な動作のひとつというだけではありません。優れた業績をあげて有名になるような成功者たちに、なかなか最初の一歩が踏み出せないという性質の人がいるでしょうか。行動力に自信がない人がゼロだとは言いませんが、おそらく非常に少ないはずですよね。
あなたも、まずは勉強から、スムーズな一歩を始められる習慣を身につけてみませんか?
(参考) ベネッセ 教育情報サイト|音楽を聞きながら勉強しても大丈夫? メリットと注意点 石田淳著(2008),『子どもの成績を伸ばす1日10分読書』,PHP研究所. NHK ONLINE|テストの花道 2011年 11月14日(月)放送「ハマる!集中力」 マイナビウーマン|頭を活性化したい時は?「ガムをかむ」