仕事をするにも、人と接するにも、何をするにも、自信は私たちの大きな力となります。しかし、その自信が過剰になると、今度は “愚かさ” の原因になってしまうのだとか。そのため専門家は、「自信」だけでなく「知的謙虚さ」も必要だと説いています。
そこで今回、ずいぶん前にその “愚かさ” を体現した筆者が、知的謙虚さを学び⇒それを身につけるための習慣を自ら考え⇒実際にやってみました。その流れと結果を報告します。
【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部
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Psychology Today|Confidently Humble: The Right Way to Think About Being Wrong
Taylor & Francis Online|Links between intellectual humility and acquiring knowledge
Hogrefe eContent|When You Are Wrong on Facebook, Just Admit It
「知的謙虚さ」に欠けるとどうなるのか?
ベストセラー『やり抜く力 GRIT』(ダイヤモンド社)の著者としても知られる、ペンシルバニア大学・心理学教授のアンジェラ・ダックワース氏によれば、「知的謙虚さ」とは自分の限界を認めることなのだそうです。
それは、自分にはまだまだ知らないことがあり、間違うこともあり、自分が知らないことを他者が知っている場合もあると、積極的に認めることなのだとか。ダックワース氏は「誰にとっても知的謙虚さは非常に重要」だとし、その理由が「私たちに学びへの扉を開いてくれるから」と伝えています。
(参考:Psychology Today|Confidently Humble: The Right Way to Think About Being Wrong)
じつを言うと筆者には、この真逆だった時期がありました。たまたま多方から頼られる立場になったため、根拠のない自信とプライドが巨大化し、「知らないと明かす」のも、「知らないことを尋ねる」のも、「自分の間違いだったと告げる」のも避けていたのです。そんな愚かな活動をしていた筆者が、そのあとどうなったかといえば――それはまさに、次の言葉通りです。
ダックワース氏によれば、知的謙虚さに欠けると、たとえ間違っていても考えを変えず、その間違った考えをずっともち続けてしまうので、(学びの扉が開かなくなり)成長できなくなってしまうとのこと(この段落の参考元:同上)。
「知的謙虚さ」と学習および印象との関係
前項のダックワース氏の言葉(学びへの扉を開いてくれる)を裏づける研究もあります。ペパーダイン大学・心理学の教授である Elizabeth J. Krumrei-Mancuso 氏らが、5つの研究(1,189人対象)で調査したところ、「知的謙虚さ」は次との関連が見られたそうです。
- 一般的な知識が多いこと
- 学習に対して内発的な動機があること(知識を得たいから学ぶ)
- 好奇心やオープンマインドな考え方など(学習に関わる特性を指す)
これを受け研究者らは、
The observed correlations were consistent with our theory that IH may contribute causally to thinking styles, dispositions, and motivations that can promote knowledge acquisition.
(観察された相関関係は、「知的謙虚さ」が学習を促進する思考スタイル、気質、動機に、因果的に寄与する可能性があるという我々の理論と一致した)
(参考および引用元:Taylor & Francis Online|Links between intellectual humility and acquiring knowledge ※カッコ内の和訳は筆者が補った)
と伝えています。単純に言い換えれば、「知的謙虚さ」は学習活動の促進に役立つということ。「知的謙虚さ」が学ぶ姿勢をつくるとも言えるでしょうか。
また、それとは違う視点からも「知的謙虚さ」の効能が伝えられています。ヒューストン大学心理学部の准教授である Adam K. Fetterman 氏らの研究では、(SNS上のやりとりなどで)潔く間違いを認めたほうが、むしろ他者から有能であると評価され、印象形成にプラスの影響を与えると示されたのだとか。
(参考:Hogrefe eContent|When You Are Wrong on Facebook, Just Admit It)
つまり、「知的謙虚さ」があると学びが進んで評価されるけれど、自信ばかりで「知的謙虚さ」に欠けていると、成長が止まるうえに、印象も悪くなってしまうわけです。
「知的謙虚さ」を身につける習慣を考え、やってみた
なんだか、いますぐにでも「知的謙虚さ」を身につける習慣を取り入れたくなってきました。しかし、今回参考にした資料のなかで、何か具体的な習慣が示されているわけではないので、まずはこれまでの情報と筆者の経験から、習慣のもととなる要素をピックアップしてみます。
――先の失敗から、一応筆者も謙虚な姿勢を忘れないよう日々心がけていますが、とっさのときには忘れてしまうこともあります。そこで、常に「知的謙虚さ」を意識できるような習慣を考えることにしました。
――また、前出の Mancuso 氏によれば、自分が “何を知らないのか” を把握することは、さらなる知識を求める動機となるそうです。それによって、知的謙虚さと学習の結びつきが促進されるとのこと(参考元:前出の「Taylor & Francis Online」)。これも取り入れるべきですね。
――そして、前出のダックワース氏によれば、「自信」と「謙虚さ」はお互いを必要としているのだとか。(参考元:前出の「Psychology Today」)。たしかに、まったく自信がない状態で、自分の間違いや知らないことを認めるのは難しいかもしれません。自信と謙虚さの均衡を保つことも大切ですね。
では、これらの要素をまとめ、日々の習慣に落とし込んでみましょう。すると、こうなりました。
- 常に「知的謙虚さ」を意識するようにする
⇒就寝前に、今日の「知的謙虚さ」を思い起こして書き出す - 自分が何を知っていて、何を知らないのか認識する
⇒「知らないこと」を認識したらそれを書き出す - 「自信」と「謙虚さ」の均衡を保つ
⇒今日の「自信」と「謙虚さ」のバランスを、〇:〇で書き出し、その理由を書いてみる
「知的謙虚さ」を軸に、今日を振り返る習慣といったところでしょうか。実際にやってみたら、想像以上に有意義な振り返りができました。
たとえば――
とあるテーマについて相手に「知らない」と正直に伝えたら、相手がとうとうと語り始めてしまい、その語り口調にうんざりして、「知らない」なんて言わなければよかったとちょっと後悔した出来事がありました。
このことについて「知的謙虚さ」を軸に振り返ってみると、「そんなことは気にせずに、相手の話の内容に集中して、役立ちそうな知識を吸収するべきだった」といった具合に、建設的な反省を行なうことができたのです。そう締めくくれた自分を、誇りに思えた感覚もあります。
また、「自信」と「謙虚さ」の均衡を保つ取り組み(〇:〇で書き出す)も、振り返りながら客観的になれる効果を感じました。
そして別の日に、以下のように無理なく知的謙虚さをもてた状況を振り返った際には、地に足がついた自信が湧いてきましたよ。
そんなときに自信と謙虚さのバランスを書き出すと、おもしろいことに「5:5」とニュートラルな状態になるのです。じつに、そのバランスがとれた状態は、落ち着きのある、良好な気分にも通じていました。謙虚でいることの心地よささえ感じられましたよ。
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周囲から評価され、いい印象をもたれるのは、「謙虚に学び、成長していける人」。自信をもちすぎて謙虚さに欠け、間違っているのに考え方を変えられない――そんな、成長できない人になってしまわないよう、ぜひ自分の行動を振り返る習慣をもってみてはいかがでしょうか。