「営業成績が上がらない」 「ルーティン営業なら何とかなるが、新規営業は大の苦手」 「客のニーズがいまいちつかめない」
このように「営業がうまくいかない」という悩みをお持ちの方は多いと思います。ではなぜ、あなたの営業はうまくいかないのでしょう? その理由を解説しながら、今までよりも営業がうまくいくようになるための方法をご紹介します。
営業がうまくいかない理由1:客が抱える「ギャップ」に気付けていないから
人が何かを「欲しい」という感情はどこから来るのだと思いますか? それは、「現実と理想のギャップ」です。私たちは、めざす理想に近づくために、現状で足りていないもの(道具や機会など)を欲しがるのです。
例えば、新しいPCが欲しくなるのは、「動作の速さ」「画面のきれいさ」など、今のPCにはない要素を新しいPCは持っているから。また、暖かいセーターが欲しくなるのは、現状の自分のクローゼットには暖かく過ごすのに十分な服がないからでしょう。
このように、「欲しい」という感情は「現実と理想のギャップ」から生まれます。ですから営業を行う人は、客が抱えるギャップに気づき、それを埋められるような提案をしない限り、営業を成功させることはできないのです。
では、どうすれば客の「現実と理想のギャップ」に気づくことができるのでしょうか。マーケティング・コンサルティングを手掛ける株式会社シナプスのチーフコンサルタントで、BtoBマーケティングのプロである海老原一司氏は、顧客が何を欲しているのか(ウォンツ)を知るだけでなく、どのような問題を解決したいと考えているのか(ニーズ)を把握することが重要だと言います。客の問題を知れば、その問題を解決する手段を複数提示することで、提案の選択肢を広げられるからです。
客の抱える問題を知るうえで有効な方法として海老原氏が勧めるのが、客に「なぜ」を問うこと。例えば以下のような具合です。
1.「A業務の効率化をしたい」「なぜ?」 2.「A業務の事務社員数を減らしたい」「なぜ?」 3.「減らした事務社員を営業職に転換させたい」「なぜ?」 4.「営業人数を増やして営業力を強化したい」潜在ニーズ
(引用元:株式会社シナプス|顕在ニーズと潜在ニーズとは-お客様のニーズを引き出す質問法)
「営業人数を増やして営業力を強化したい」と客が考えていることが分かり、営業人数が少ないままでも営業力を強化できるツールを提案したり、Webサイトを強化する施策を提案したりすることができるというわけです。
また、これはBtoBにおける営業の例ですが、BtoCの場合でも同じように考えられます。例えば、服を売りたいとき。「オシャレな服が欲しい」という客の言葉だけでは、その客にぴったりな服を提案することはできませんよね。「オシャレな服を着てどんなことをしたいのか?(なぜ)」を尋ね、その客がオシャレな格好をする目的を知れば、その目的に合ったコーディネートを提案できるでしょう。提案した服を気に入って購入してくれる可能性は高まるはず。
あなたの商品やサービスはいかにして相手の現実と理想のギャップを埋めるのか。ここを考えることがカギなのです。
営業がうまくいかない理由2:あなた自身が商品・サービスの理念に共感していないから
あなたが扱う商品やサービスは、どんな理念や思いから生まれたものなのか、説明することはできますか? これが説明できないようでは、営業パーソンとしての熱意が足りないと言わざるを得ません。
営業スキルの啓発や人材育成・能力開発などを手掛け、『営業の鬼100則』などの著書を持つ早川勝氏は、次のように述べています。
本気で“理念を貫く”営業マンだけが売れ続ける。 自分自身を繰り返し洗脳していくことこそ、ブレない営業マンとなる王道なのだ。
(引用元:早川勝著(2018),『営業の鬼100則』,明日香出版社.)
早川氏は、有名な外資系生命保険会社で圧倒的な営業成績を挙げたほか、営業所長としてNo.1マネジャーの称号を獲得。また支社長時代には、どん底にあった支社を再生させただけでなく、“世界的な生保のプロ”と呼ばれるMDRTを次々育てあげ「伝説のカリスマ支社長」として生命保険業界にその名をとどろかせたのだそう。まさに、凄腕の営業マンです。
その早川氏いわく、営業担当者は自分自身を洗脳して商材を本気で好きになり、多くの人に勧めたいという熱意を持つことが大事なのだそう。その熱意に客が共感してくれれば、さらなる顧客の獲得につながるのです。
自らの使命や理念を伝えることができれば、それに共感したお客様が、「ぜひ、あの人を紹介したい」「あの人のところへ行ってみたらどうか」と、紹介先を次々と教えてくれるような協力者となっていく。
(引用元:同上)
この紹介の力は大きなものです。ベストセラー書籍『ユダヤ人大富豪の教え 幸せな金持ちになる17の秘訣』では、商売においては「知り合いの知り合い」にリーチすることが大事だと書かれています。自分に300人の知り合いがいて、その300人にも、それぞれ300人の知り合いがいるとしたら、あなたは間接的に90,000人の知り合いがいることになります。自分の知り合いのうちの100人にアプローチするだけでも、30,000人が自分の客となり得る計算です。
たとえば、君が優秀な歯医者だったとしよう。人は、いつも腕のいい歯医者をなんとなく探しているものだ。もし、君が最初の100人に満足できるサービスを与えられれば、3万人の潜在顧客を抱えることになる。その100人に誰かが『腕のいい歯医者さんいない?』と聞くと君の名前を思い出してくれるだろう。そうやって客に新しい客を連れてきてもらえば、君は一生客とお金に困ることはないだろう
(引用元:本田健著(2006),『ユダヤ人大富豪の教え 幸せな金持ちになる17の秘訣』,大和書房.)
商品・サービスに対する熱意を持ち、「この人は熱意ある人だ」という評判を知れ渡らせることができれば、あなたの営業実績は何百倍にもなる可能性があるのです。
営業がうまくいかない理由3:客に強引に買わせようとしているから
人は、無理やり売りつけられることを嫌います。強引にものを買わされれば誰だっていい気持ちはしないはずです。私たちは本来、自分で「買う」と決めたいのです。
ですから、営業担当者は、客に「買おう」と決意できるよう後押しすることが必要。そこで活用すべきなのが、心理学の「社会的証明の原理」というものです。
「社会的証明の原理」とは、他人の行動を見て自分も同じ行動をとってしまう、という人の性質のこと。例えば、「あのレストランの料理は、皆が美味しいと言っているから美味しいに違いない」と考えて実際にその店に行く、といった具合に、私たちは日頃からよくこの原理にあてはまる行動をとっています。
営業をする人がこの原理を使わない手はありません。「契約の後で90%の方に満足と答えていただいています」「このオプションは皆さんお付けになります」などと伝えて客に安心感を与え、成約に持ち込むのです。
ですが、こうした安直な言葉だけではかえって客に不信感を持たせるのではないか、と懸念する読者の方もいるかもしれません。より自然かつ説得力あるやり方もありますよ。医療業界における社会的証明の原理の活用例を紹介しましょう。
医療領域の営業活動に詳しい医療コンサルタントの杉浦鉄平氏は、「現実と理想のギャップ」に院長や事務長などの客自らが気づく(=現状をつぶす)ために、次のようなやりとりをしてみるといいと言います。
たとえば院長や事務長に、どのような経営指標をチェックされていますかと聞くと、平均在院日数とか病床稼働率とか紹介率を見ているとみなさんおっしゃいます。「それでうまくいっているのでしたらそれを続けてみてください」と私は言います。しかしほとんどの病院はそれでうまくいってはいません。「経営をうまく行なって成果を出している病院ではどのような指標を取り入れていると思いますか。実はこんなところをチェックしているんですよ」と提示して、顧客にギャップに気づいてもらう。これが「現状をつぶす」ということです。これをやらずに単に自社製品の説明をするだけでは問題が明確化されず、顧客に必要とされる関係性の構築はできません。
(引用元:MR BiZ|MRが営業力をつけるための対話術)
自然なやりとりから他の客の例を引き合いに出せば、スムーズに社会的証明の原理を活用できますよ。
*** 自分の営業がうまくいかない理由として、思い当たるものはあったでしょうか。ここで紹介した3つのことを、ぜひ今日から意識してみてください。
(参考) 株式会社シナプス|顕在ニーズと潜在ニーズとは-お客様のニーズを引き出す質問法 早川勝著(2018),『営業の鬼100則』,明日香出版社. 本田健著(2006),『ユダヤ人大富豪の教え 幸せな金持ちになる17の秘訣』,大和書房. MR BiZ|MRが営業力をつけるための対話術 Wikipedia|社会的証明 F・ベトガー著,土屋健訳(1982),『私はどうして販売外交に成功したか』,ダイヤモンド社. 前田裕二著(2017),『人生の勝算』,幻冬舎.