読書家で知られるマイクロソフトのビル・ゲイツ氏が、2018年5月に自身のウェブサイトGates Notesで「今年の夏に楽しめる5冊の本」を発表しました。世界を牽引するグローバルリーダーの思考を探るべく、その5冊を掘り下げます。
夏の5冊は「テーマは重いが楽しく読める短い本」
以前ゲイツ氏が「ここ10年で読んだ中では最高」と称賛したのは、ハーバード大学の心理学教授スティーブン・ピンカー氏が著した『暴力の人類史』でした。その理由は、かつてないほど「進歩」について明確に説明している書籍だったから。同書では、詳細な事例とデータを用いて、世の中における“ネガティブ要素の減少”を伝えています。
そして、今回ゲイツ氏が選んだ5冊の書籍は、何が天才をつくるのか? なぜ良い人に悪いことが起こるのか? 人類はどこから来て、どこへ向かうのか? という大きな疑問に取り組んでいるそう。いずれもテーマは重いけれど、楽しく読書できる“かなり短い本”とゲイツ氏は説明しています。では、1冊ずつ掘り下げていきましょう!
ウォルター・アイザックソン著『レオナルド・ダ・ヴィンチ』
あまりにも有名なイタリアルネサンスの巨匠、レオナルド・ダ・ヴィンチの伝記です。ゲイツ氏は、画家であり、解剖学から演劇に至るまで、さまざまなものに興味を向けていたレオナルド・ダ・ヴィンチを、「人類で最も魅力的な人のひとり」と考えています。
この本でダ・ヴィンチの新事実が明らかになるわけではありませんが、彼が残した7200ページ以上のノートや絵画の解析など、さまざまな情報に基づいた内容が壮大なスケールで記されているそう。ライター・翻訳者の宮家あゆみさんによれば、本書の一番の魅力は、「ダ・ヴィンチの人間的な側面が生き生きと描き出されている」ところなのだとか。
著者のアイザックソン氏は、スティーブ・ジョブズやアインシュタインなどの伝記でも知られるベストセラー作家。ゲイツ氏はアイザックソン氏に対し、「『何がダ・ヴィンチをそんなに優れたものにしたのか』という説明において、最高の仕事をしている」と述べています。
Walter Isaacson(2017),『Leonardo da Vinci』,Simon & Schuster.
ケイト・ボウラー著『全てのことには理由がある:私が愛したうそ』
この本では、ステージIVの結腸癌と診断された、著者のケイト・ボウラー教授(Duke Divinity School)が、「なぜ自分が重篤な病気になったのか?」ということについて考えを巡らせます。感傷的な要素はなく、実際に起きたことが淡々と述べられているそう。
この本についてゲイツ氏は、「悲惨だが驚くほどに面白い、信仰についての回顧録」と述べ、これを読むことにより「いつかはやって来る“死”を把握することができる」と話しています。
Kate Bowler(2018),『Everything Happens For A Reason And Other Lies I've Loved 』,SPCK Publishing.
ジョージ・サンダース著『バルドーのリンカーン』
3冊目は、南北戦争の歴史的事実と、幻想的な要素が融合された小説です。第16代アメリカ合衆国大統領エイブラハム・リンカーンが、若くして亡くなった息子の墓参りをした日の夜、166人の亡霊たちが墓を訪れ、息子の魂に次の段階へ進むよう説得するというもの。
ゲイツ氏はこの本を読むことにより、リンカーンについて再考させられたといいます。なぜならば、「リンカーンは悲しみと責任の両方の重さによって、心を押しつぶされたに違いない」という、新たな洞察を得ることができたから。多様な解釈をもたらす作品なので、「読み終えたら友人と議論したくなるだろう」とゲイツ氏は話しています。
George Saunders(2017),『Lincoln in the Bardo』,Random House.
デヴィッド・クリスチャン著『起源の物語 あらゆることの大きな歴史』
ビッグバン(宇宙をつくった大爆発)から今日までの複雑な社会の物語を、さまざまな分野の洞察と証拠によってまとめた本です。この本の著者デヴィッド・クリスチャン氏(作家・歴史学者)は、2011年にゲイツ氏と協力して「Big History Project」を立ち上げました。Big History とは、ビッグバンから現在までの歴史を研究する新しい学問分野です。
Big Historyを受講していない人にとって、この本はとても素晴らしい入門書であり、受講済みの人にとっては素晴らしい復習になると、ゲイツ氏は説明しています。宇宙における人類の存在・居場所に対する理解も深まるそう。
David Christian(2018),『Origin Story: A Big History of Everything』,Allen Lane.
ハンス・ロスリング著『冷徹な事実』
最後の書籍は、ゲイツ氏が最高と称える本のひとつ。著者はゲイツ氏の友人で、2017年に亡くなったスウェーデンの医師・公衆衛生学者のハンス・ロスリング氏です。ゲイツ氏はこの本で「目を開かされた」といいます。その理由は、世界についての基本的な真実――「生活はどのように良くなっているのか、そして世界はまだ改善が必要なのか」――を理解する突破口を与えてくれたから。
ロスリング氏が提示したフレームワークは、ゲイツ氏が何十年も取り組んできたもので、これほど明確に表現できたことはなかったのだそう。ロスリング氏はネガティブなニュースばかりに注目して悲観せず、「世の中は私たちが思っているほど悪くないことを知って欲しい」と望んだそうです。
Hans Rosling,Anna Rosling Rönnlund,Ola Rosling(2018),『Factfulness: Ten Reasons We're Wrong About the World-and Why Things Are Better Than You Think』,Flatiron Books.
*** 『冷徹な事実』に関して、“ネガティブばかりではない”という目線は『暴力の人類史』にも似ています。ゲイツ氏は、真実を見極めるとともに、「楽観的になる勇気」を重要視しているのかもしれません。いずれにせよ、専門的かつ進歩的な知識と見解、そして、無限へと続く創造力を与えてくれるはず。よろしければ、ぜひチャレンジしてみてください。
(参考) Home Bill Gates|5 books worth reading this summer CNET Japan|ビル・ゲイツ氏が選ぶ2018年夏のオススメ書籍5冊 Study Hacker|想定外に振り回されない。“冷静な賢者” になるために、私たちが学ぶべきこと。 朝日新聞GLOBE|人間ダ・ヴィンチに迫る Wikipedia|ビッグヒストリー BUSINESS INSIDER JAPAN|ビル・ゲイツ、世界は4つの所得グループで考えるべき —— 先進国、開発途上国の区別は意味がない