マネジメントは「インナーワークライフ」を意識せよ。“進捗の実感” でチームの士気は上がってゆく。

あなたが加わる、あるいは統率するプロジェクトメンバーの士気を上げたいなら、最も大切なのは個々が得る「進捗の実感」かもしれません。ハーバード・ビジネススクール教授のテレサ・アマビール氏、心理学者のスティーブン・クレイマー氏共著の『マネジャーの最も大切な仕事』 を参考に、モチベーションの構造をひも解きます。

外的動機は不安定な要素

社員は会社の原動力。そこで働く人々のモチベーションが上がらなければ、企業の業績は上がりません。モチベーションには、やりがいや充実感といった内的動機と、賞与や昇給、昇進といった外的動機がありますが、実のところ不安定なのは即効性が抜群な外的動機のほう。

研究者によって示された「アンダーマイニング効果」というものがあります。それは、金銭的な報酬を与えるなどの外発的動機づけを行うことによって、もともと持っていた課題に対する内発的な意欲が低下する現象のこと。

例えば無報酬でボランティアを行うAとBがいたとして、あるときからAのみに金銭的な報酬を少し与えたとします。すると、Aはものすごくボランティアを頑張るようになります。しかし、報酬がパタリとなくなると、Aは突如ボランティアへの意欲をなくしてしまうのです。逆に最初からずっと無報酬のままだったBは、意欲を失うことなくボランティアを続けます。

こうなった理由は、Aが「頑張ればもっとお金をもらえる」と考え、それが裏切られてしまったから。でも、だからといって、すべての仕事において外発的動機づけを行わず、内発的な意欲を持続させるのは難しいことです。

そこで、テレサ・アマビール氏とスティーブン・クレイマー氏は、「インナーワークライフ」という概念で、新しい枠組みを提供しました。

インナーワークライフを豊かに

インナーワークライフ(個人的職業体験)とは、「感情・モチベーション・認識」の相互作用のこと。仕事そのものから得られる満足度を指します。アマビール氏らは、インナーワークライフが乏しくなると、生産性と創造性の両方を低下させてしまうといいます。

インナーワークライフを豊かにしていけば、意欲を保ち、創造性と生産性が高まり、それと同時にコミットメント(責任感を強く持つ気持ち)や、同僚性(互いに支え合い成長し、高め合っていく関係)も上がるのだとか。

この概念は、内的動機づけ、外的動機づけ、いずれの要素も含みますが、いずれかに偏るものでもありません。なぜならば、物理的ではない“ご褒美”がともなうから。

では、インナーワークライフを豊かにするとは、どういうことでしょう。

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「小さな進捗」を支援するということ

テレサ・アマビール氏とスティーブン・クレイマー氏は、ビジネスパーソンが活力を持って仕事をする要因を調べるために、669人のマネジャーに日誌をつけてもらい、それらを分析したそうです。そして、1万を超えたという日誌を分析し突き止めた「インナーワークライフに影響を与える要因」は、以下の3つ。

1.やりがいのある仕事における進捗 2.自分の仕事を支援してもらう 3.やる気が増発される人間関係

そして、仕事の成果を上げる最も強力な要因は、1の「やりがいのある仕事における進捗」と結論づけました。同氏らは、あらゆるレベルにいる管理職は、ほんの僅かな前進でも、小さな成功でもかまわないので、とにかく毎日部下の進捗を支援することが必要であるといいます。

それは、チームメンバー同士のやりとりでも同じ。進捗状況を確かめ合う際、「ここまで進められた」という実感を持てるやりとりが重要なのです。「昨日から○○の部分が進んだね」と進捗そのものに注目し、支援するだけでも、チーム全体の士気が上がっていくでしょう。また、少しでも仕事が進んでいくよう、行動で支援し合うことも大切です。

つまり、毎日確実に前進している、前進することに成功しているという達成感こそが、この概念における「ご褒美」というわけです。

インナーワークライフを下げる3つの要因

『マネジャーの最も大切な仕事』 では、インナーワークライフを下げる要因も示しています。その要因は次の3つ。

1.仕事の障害 2.仕事を直接妨げる阻害要素 3.悪性な人間関係が生み出す毒素

もしもあなたが、職場のチームを盛り上げていこうと考えるならば、まずはこの要素を取り除くことから考えてみてはいかがでしょう。また、チームの意欲や生産性が下がっていると感じたら、上記のいずれかに当てはまる要素がないか確認することをおすすめします。その意識を持つだけでも、変化をもたらす力となるはずですよ。

*** 上司から部下へ、先輩から後輩へ、あるいはチームメンバー同士で、もしくは自分自身で、毎日の小さな小さな進捗に注目し、士気を上げていきましょう。

(参考) DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|危機にこそ活きる「進捗の法則」 ダ・ヴィンチニュース|マネジメントは「進捗」が大事! 会社を辞めたい人にも知ってほしい「インナーライフワーク」とは? 松元健二(2014),「やる気と脳 ─価値と動機づけの脳機能イメージング」Vol. 34,No.2,pp.165-174. テレサ・アマビール著,スティーブン・クレイマー著,中竹竜二監修,樋口武志訳(2017),『マネジャーの最も大切な仕事――95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力』,英治出版.

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