脳には「クールダウン」が必要だ。快眠を確保するための “自分ルール” を決めよ。

「仕事で成功したいなら、寝る間も惜しんでとことん働け!」――そんな怒号が飛び交う時代もありました。しかし、脳にはクールダウンが必要です。それどころか最新の研究によれば、人間は脳をクールダウンさせるために眠っているのだとか。さっそく説明しましょう。

睡眠中に海馬が発するSWR脳波とは

東京大学大学院薬学系研究科の池谷裕二教授らの研究グループは、睡眠中に「脳がどのようにクールダウンされるのか」を明らかにしました。その研究成果は、2018年2月8日のScience誌(オンライン版)に掲載されたとのこと。クールダウンされる場所というのは、学習や記憶に深くかかわる脳の「海馬」という領域です。

私たちが学習すると、ニューロン(脳の神経細胞)同士のつながりが強まり、脳回路の活動レベルが上昇します。しかし、「神経新生(新たな神経細胞が生まれる現象)」があるとはいえ、神経細胞の数には限りがあります。頭に詰め込むばかりでは脳がオーバーヒートし、飽和状態になってしまうはず。

したがって、何らかの仕組みがあると予想されていたわけですが、池谷教授らの研究グループにより、海馬から発生する「sharp wave ripple(SWR)」という脳波が、睡眠中にシナプス(神経細胞間などの接合部分)のつながり度合いを弱めていることが分かったのです。

実はこの脳波、就寝前の学習にかかわるニューロン群に対しては影響しないそう。つまり、必要な情報はしっかりと保持して、不要な部分はSWR脳波でつながりを弱め、脳のキャパシティを確保しているわけです。

睡眠の目的のひとつはクールダウン

脳は自発的に、直前の記憶(経験・学習)に関係するか、関係しないかで、選択的にニューロン同士のつながりを弱め、脳が飽和状態になることを防いでくれていると分かりました。

とはいえ、「睡眠」という行動がなければ、その優れた仕組みは実行されません。

池谷裕二教授らの研究グループによれば、睡眠中にシナプスのつながりを弱める脳波SWRの働きを阻害するだけで、睡眠不足の状態を再現できるのだそう。つまり、私たちが睡眠をとる目的のひとつは、SWRという脳波を出し、脳の海馬の神経回路をクールダウンするためだといえるのです。

では具体的に、なぜ脳の海馬はクールダウンが必要なのでしょう?

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「海馬」にだって限度がある

私たちの記憶の多くは、脳の海馬において、ニューロン同士のつながりが強まる現象が起こり保存されるといいます。その現象は長期増強(LTP)と呼ばれますが、これを無限に起こし続けることは不可能なのだそう。

つまり、もしも睡眠でクールダウンしないと、海馬が飽和状態になり、それ以上記憶することができなくなってしまうということ。

最近では、東京大学大学院薬学系研究科助教の佐々木拓哉助教らの研究グループにより、海馬の歯状回が作業記憶(ワーキングメモリ/作業や動作に必要な情報を一時的に保持し、処理する能力)に必要であると示されたばかり。(Nature Neuroscience誌・オンライン版に2018年1月16日掲載)

したがって、睡眠不足が続けば、記憶することも、一時的な作業をまともに行うこともできなくなってしまいます。

「徹夜仕事」は「ビール大瓶1本」と同じ

いまから20年ほど前のオーストラリアの研究では、徹夜すると、ビール大瓶1本程度を飲んだとき(血中アルコール濃度0.1%)と同じくらいパフォーマンスが低下すると報告されています。

そういえば、筆者もずいぶん前ですが、遅い時間まで仕事をしていたとき、ある時点で全く仕事が進まなくなったことがあります。それも、驚いたことに、1ミリほども進められなくなってしまったのです。いま思えば、そのとき起こっていたのは脳のオーバーヒート。もちろん、その時点で「もうムダだ」と思い就寝しました。

また、国立精神・神経医療研究センターの三島和夫氏らの研究によれば、睡眠不足のときに不快なことがあると、脳の偏桃体(情動にかかわる領域)が、熟睡したときよりも活発に働くそうです。つまり、睡眠不足は心のダメージにも影響するということ。

そんな中、星野リゾート代表の星野佳路氏は、快眠のために、ある2つのことをやめたといいます。

自分の快眠を確保するルール

星野氏が、自身の快眠を確保するために決めたルールは2つ。それは

1.飲酒は眠りに就く2時間前まで 2.就寝前にはメールのやりとりはしない

理由は、寝る前にお酒を飲みすぎると眠りが浅くなるから。また、メールの内容に興奮したり、やりとりで白熱したりすることが、睡眠に影響を及ぼすと感じたからなのだそう。そして、続けて書くのは大変恐縮ですが、筆者の睡眠ルールは以下のとおり。

1.平日・休日かかわらず同じ朝食時間になるよう起床する 2.睡眠時間は、6時間以上~8時間以内にする

朝食時間を整えるのは、不調やパフォーマンス低下をもたらす体内時計の崩れを起こさないようにするため。人それぞれあると思いますが、筆者の場合平日は家族のお弁当づくりがあり、休日はありません。したがって、休日は少しだけ寝坊できるというわけです。しかし、睡眠時間が多すぎても少なすぎてもパフォーマンスが低下することを自分自身で把握しています。そのため、就寝時間は翌日の起床にあわせ変えているのです。

しかし、寝る前に少しだけアルコールを入れたり、メール等のやりとりをしてからのほうが安心して就寝できる人もいるかもしれません。また、休日はゆっくりしたほうが調子がいいという人もいるかもしれません。

つまり、快眠ルールも人それぞれ。数々ある研究成果や、一般的な健康情報などを参考にしながら、「自分のパフォーマンス」が上がるルールを把握し、実行してみてください。

*** 記憶力が低下している、仕事のパフォーマンスが低下していると感じたら、脳の海馬のクールダウンが足りないかもしれません。自分に合った心地よい睡眠で改善しましょう!

(参考) 東京大学大学院薬学系研究科・薬学部|薬品作用学教室の乘本裕明大学院生、池谷裕二教授らが睡眠中に脳回路がクールダウンされる仕組みを解明 東京大学大学院薬学系研究科・薬学部|薬品作用学教室の佐々木拓哉助教らが作業記憶(ワーキングメモリ)の脳メカニズムを解明 日経ビジネスオンライン|睡眠を削る人は出世できない? NIKKEI STYLE|星野佳路 「私が快眠のためにやめた2つのこと」 Norimoto, H., Makino, K., Gao, M., Shikano, Y., Okamoto, K., Ishikawa, T., Sasaki, T., Hioki, H., Fujisawa, S., Ikegaya, Y.(2018),Hippocampal Ripples Downregulate Synapses,Washington, D.C.,Science.

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