あなたは一冊ずつじっくり読書する精読派? それとも多読、あるいは乱読派ですか? 人により合う読み方があるので、一概に「この読み方がいい!」とはいい切れませんよね。
しかし、あえて今回は、興味がわいたものを手当たり次第に読んでいく「乱読」の魅力についてご紹介します。ビジネスパーソンとしてレベルアップしたい方にもおすすめですよ。その理由をご説明しましょう。
「乱読」がビジネスパーソンにもたらす効果とは?
リベラルアーツが身につく
リベラル・アーツの原義は「人を自由にする学問」。その起源は古代ギリシアにまでさかのぼります。昨今は日本の大学でも専門学部がつくられているので、ご存知の方は少なくないでしょう。
リベラルアーツは「自由の学問」、あるいは「教養教育」とも訳されますが、ジャーナリストの池上彰さんが現代史を教えている東京工業大学リベラルアーツセンターでは、「人間としての教養」と捉えているそう。教養がないと、世界は薄っぺらく見えると池上氏はいいます。なぜならば、教養があると視野が広がり、物事に立体感が生まれるからです。
具体的には、ひとつの専攻だけではなく、幅広い分野を横断的に学び、教養を身につけていくことになります。そして、そのリベラルアーツがいま、ビジネスパーソンにとって非常に重要だと考えられており、それを身につける方法が「乱読」というわけです。
ベイン・アンド・カンパニー・ジャパンの会長兼パートナーである火浦俊彦氏も、リベラルアーツを身につける方法のひとつとして、ランダムに本を読むことを挙げています。同氏は、書店に出向いて面白そうな本を手当たり次第に買い、興味をあるところだけを読むのだそう。
編集力が強化される
ビジネスパーソンには編集力も大切です。文章力やコミュニケーション力向上をテーマに執筆・講演活動を行う山口拓朗氏によれば、編集力は、あらゆる職種で求められるスキルとのこと。
編集力があると、たとえば会議などで目的に応じて情報を取捨選択し、わかりやすく再構成して伝えることができるからです。それは情報を発信すること、あるいは物と物、人と人をつなげ、ビジネスをつなげることにも通じます。
また、脳科学者の茂木健一郎氏は、「脳のメカニズムからいうと、編集という思考はもっとも創造的なプロセス」だと話します。そして、その編集力を磨くには、まず圧倒的な経験値が必要とのこと。
それには、好奇心をそそられる体験をしたり、多くの人から話を聞いたりすること、そして、本を「乱読」するのが重要なのだとか。茂木氏は、脳に蓄積されたデータによって、人が発揮できる編集力は大きく異なるといいます。
セレンディピティが生まれる「乱読」のコツ
では、『思考の整理学』で有名な外山滋比古氏が著した『乱読のセレンディピティ』を参考に、「乱読」のコツをご紹介します。
・本をやみくもに、手当たり次第に買ってくる ・買った本で失敗しても構わない、恐れない ・ほんの軽い好奇心につられたら読む ・本は読み捨てて構わない
「本があふれかえっているいまの時代、もっとも面白い読書法は乱読である」と外山氏はいいます。ただ、いくら賢い人でも手当たり次第に乱読すれば、ときには失敗するとのこと。しかし同氏は、間違いだらけの“読み”が、思いもよらない発見をもたらすことに気づいたそう。
本書のタイトルにもなっているように、セレンディピティ(素敵な偶然に出会う、予想外のものを発見する)は、大量にインプットすることで生まれるというわけです。
インプットのあとはボーっとしてみる
もちろん、インプットばかりではなく、誰かに話す、書評を書くなど、アウトプットも記憶の定着に有効です。そして、ボーっとすることも、脳の編集力を高めるためには大切です。
なぜならば、ボーっとしているとき、わたしたちの脳は、広い領域が活性化している「デフォルト・モード・ネットワーク」の状態だから。それが、無意識のうちに私たちの脳内に散らばる記憶の断片をつなぎ合わせ、「ひらめき」を生み出してくれるからです。
気ままに乱読したあとは、ボーっとしながらの散歩もいいかもしれません。アップルのスティーブ・ジョブズ氏は、重要な判断をするときには散歩に出かけていたといいます。十分すぎるほどのデータと編集力を備えた脳のデフォルト・モード・ネットワークは、さぞかし目まぐるしく活動していたことでしょう。
*** 必ずしも本を買わなくても、図書館で乱読するのもひとつの手です。ぜひお試しください!
(参考) AERA dot. (アエラドット)|ジョブズは散歩で高めていた? 脳の「編集力」とは 〈AERA〉 リクナビNEXTジャーナル|デキるデキないの差は「編集力」にあった 東京工業大学 リベラルアーツセンター|池上彰 土屋礼子ゼミジャーナル - 早稲田大学|リベラルアーツ教育は時代にマッチしているのか Wikipedia|リベラル・アーツ NHK健康チャンネル|NHKスペシャル「人体」”脳”すごいぞ!ひらめきと記憶の正体 外山滋比古(2014),『乱読のセレンディピティ 思いがけないことを発見するための読書術』,扶桑社. Think!編集部編集(2014),『Think! 2014 Summer No.50』,東洋経済新報社.