「諦めなければ夢は叶う」 「報われない努力はない」 TVなどでよく聞かれるフレーズ。 耳触りがよく、私たちに勇気を与えてくれます。
しかし、それらはある種危険な言葉でもあるのです。 成功の望みが薄いことにこだわりすぎた余り、いつまでも見切りを付けられず、他のことができたはずの時間を無駄にすることおありえます。
では、どのように夢や努力と向き合ったらよいのか。 それについての答えを示してくれるのが、為末大さんの著書、『負けを生かす技術』です。 為末大さんは、世界陸上男子400mハードルにおいて、二度の銅メダルを獲得し、五輪・世界陸上通じて日本人初のメダリストとなった元陸上選手。 上のようなフレーズが最も似合う人物のように見えますが、本書において、「「頑張れば夢は叶う」「やればできる」は嘘だ」と言い切っています。
『負けを生かす技術』
為末 大 著 朝日新聞出版 2013年
為末大さんはもともと、100mに出場するスプリンターでした。 しかし、高校で、自分より練習量の少ない後輩に負けてしまいます。 そのときのことを為末さんは以下のように語っています。
以来、辛い思いをして頑張って練習すれば、必ず報われるなんてことは嘘だと気がついた。(中略)ダメなモノはダメという世界と、どう向き合うか。不条理、不合理と言ってもいいかもしれない。しかし、それが世界の現実なのだ。
(引用元:為末大(2013)『負けを生かす技術』朝日新聞出版)
そして、為末さんは自分を冷静に分析し、能力を発揮できる400mハードルに転向したのです。 今まで取り組んできたことを諦める。これは簡単なことではありません。 しかし、これによって、為末さんは二度も銅メダルを獲得します。 正しい諦めは決して逃げではありません。 しかし、諦めないことが大切という考え方が私たちの心の底にはどうしてもあります。 そういった考え方から、本当は無理だとわかっているのに、諦めないために頑張る、といった状態になってはいませんか。
本当に強い人というのは、「世の中はこういうものさしで動いているけれど、自分の勝負はここだ」と自分で決められる人だ。それを決断できるのが強さだと思うのだ。
(引用元:同上)
自分が本当に勝負すべき場所はどこなのか。 もう一度じっくり考えてみるために本書を手に取ってみてはいかがでしょう。
参考 為末大(2013)『負けを生かす技術』朝日新聞出版 ほぼ日刊イトイ新聞|走ることについて、しゃべる理由。