小説には様々な効果があると言われています。主人公の生き方に感銘を受けて「この人みたいになりたい」と憧れを抱いたり、自分一人では到底成し得ない人生経験を疑似体験できたり、それらのことが進路や人生のヒントになったり。
なかでも今回焦点を当てるのは「泣ける小説」。
心が揺さぶられたことによって流す涙には、ストレスを解消する働きがあります。忙しくてストレスが溜まりがちな人こそ、泣ける小説を読むべきなのです。ビジネスパーソンはビジネス書や自己啓発書に手を伸ばすことが多いと思いますが、時にはハンカチ片手に、泣ける小説を読んでみてはいかがでしょう。文庫になっているものもありますから、手軽に電車の中で読むことができますよ。
じっくり自分の人生を振り返るのに最適な、良質な小説8本を紹介します。
君の膵臓をたべたい
病院で拾った1冊の「共病文庫」という秘密の日記帳で、クラスメイト山内桜良の余命が病気で長くないことを知った主人公の「僕」は、彼女が死ぬ前にやりたいと思っていることに付き合います。2人が次第に心を通わせ合いながら成長していくストーリーです。
2016年の「本屋大賞」で第2位を獲得したこの作品。2017年には映画化作品が公開予定です。著者の住野よるさんは、懸賞小説に3度応募したものの、どれも1次通過すらできなかったそう。しかし、諦めずに小説投稿サイト「小説家になろう」に投稿し、そこで読者からの圧倒的な人気を得たことによって、この作品は出版されました。
流星ワゴン
仕事にも家庭にも問題を抱え、「死にたい」と漠然と考えていた主人公の永田。ある時永田の前に1台のワゴン車が止まり、乗っていた橋本親子は、永田を彼の「大切な場所」へ、タイムマシーンのように連れて行きます。過去と現在を自由に往来するワゴン車。自分と家族がつまづいたきっかけを知った永田は、もがきながらも問題解決に挑んでいきます。「僕たちはここから始めるしかない」という言葉を胸に刻んで。
八日目の蝉
不倫相手の子を妊娠するも堕胎したOLの希和子。心身ともに傷つき、不倫相手の夫婦の間に生まれたばかりの子・恵理菜を誘拐し、「薫」という名前で育てます。希和子は誘拐事件の捜査から逃れるために、偶然出会った「エンジェルホーム」という施設で4年間、薫と共に幸せに暮らしますが、逮捕されてしまいました。そして年月が過ぎ、成長した恵理菜は思い出の希和子に会いたいと、昔撮った写真を手掛かりに岡山の港へ向かいます。
神様のカルテ
大学病院が「手遅れ」の患者を拒否する一方、地域医療として24時間365日対応する本庄病院は患者と最後まで向き合い、栗原もその一端を担っていました。そんな中、大学病院の医局から入局の誘いを受けた栗原。先端医療に興味がある栗原の心は揺れます。
小説のシリーズは「神様のカルテ2」「神様のカルテ3」「神様のカルテ0」まであり、うち2作品は映画化もされています。
悪人
土木作業員・清水祐一は、保険外交員の石橋佳乃を殺害。その後、別の女性・馬込光代を連れ、逃避行をします。その過程で、事件の本当の原因が明らかになっていくという展開です。
2006年に朝日新聞で連載されたこの作品。2010年には妻夫木聡さん主演で映画化され、話題となりました。
別れて生きる時も―愛情について
戦前から戦後にかけて、家族や戦争に翻弄されながら生きる女性の一生の物語です。生い立ちが不幸ながら、純粋な二人が出会い結婚。生まれた子供には麻子と名づけ、幸せな時を過ごしていました。しかし、しかしそんな時間もつかの間、夫は召集され、戦地へ赴くことに。戦地に行く夫との別れのシーンが涙を誘います。
アルジャーノンに花束を
アメリカの作家ダニエル・キイスによる作品。1966年に長編小説化(それ以前に中編が書かれていました)されて以降、古典として読み継がれてきました。
優しい性格の青年でありながら、知的障害を持ち、大人になっても幼児ほどの知能しかなかったチャーリイ。彼は、ハツカネズミの「アルジャーノン」に動物実験で施され記憶力・思考力の向上をもたらした脳手術を、人間で初めて受け、もともと68しかなかったIQは185に。突如として天才となりました。
しかし高い知能に反して感情は幼いままでバランスが取れず、正義感を振り回して自尊心ばかりが高まるチャーリーは、孤独感を抱きます。そして、先に脳手術を受けたアルジャーノンに異変が起こる欠陥を突き止めたのです。知的成長よりも、感情的な成長の方が、実は人間にとって大切なことなのだと気づきます。
海賊とよばれた男
時は終戦後、国民が途方に暮れている時代。主人公である国岡商会の国岡鐡造は、「日本には三千年の歴史がある。戦争に負けたからと言って、大国民の誇りを失ってはならない。日本人がいるかぎり、この国は必ずや再び立ち上がる日が来る」と話し、日本の復興に向かって、石油商売を妨げる規制や海外メジャーと闘います。彼は徹底的に人を信頼する姿勢、強い信念を持ちながら奮闘していましたが、社員のみならず自らも危機に追い込まれます。その危機を懸命に乗り越えていくストーリーです。
実はこの主人公のモデルは、出光の創業者である出光佐三氏。この作品は、出光氏についての入念なリサーチのもとに書かれた、大変リアリティのある自伝的小説なのです。
*** どれも、人間の不条理、裏切りの感情、愛と葛藤、現実の悲哀などを、比喩を用いながら抜群のストーリー展開で伝えています。
小説を読んで泣いた涙と一緒にストレスまで流してしまえば、本を閉じた後には意外にすっきりしていることでしょう。泣ける小説を読む際は、ぜひハンカチの用意を忘れずに。
(参考) 以下Wikipediaより 君の膵臓をたべたい 海賊とよばれた男 流星ワゴン 八日目の蝉 神様のカルテ 悪人 (小説) アルジャーノンに花束を 田宮虎彦著(1961),『別れて生きる時も―愛情について』,角川書店.