「自分は常に仕事の効率だけを考えている」と前のめりになっていませんか? その仕事の進め方、実はかなり危険かもしれません。知らず知らずのうちに、むしろ仕事の効率を下げている可能性があります。脳科学ほか、さまざまな専門家が警告する「NGな仕事の進め方」をご紹介しましょう。
1.「マルチタスク」はNG
Journal of Experimental Psychology に掲載された、David Meyer 氏らによる2001年の研究では、複数のタスクを切り替える回数が多いほど、多くの時間ロスが生じるとわかりました。実行制御(ある目的を遂行するための脳の仕組み)プロセスには2つの段階があり、切り替えるたびにそれが実行されるからです。マルチタスクは40%もの生産性を下げると研究者は示唆しています。
また、スタンフォード大学の Clifford Nass 氏は2009年の調査で、マルチタスクを行う人々が、雑多な情報のなかから、適切な情報を選別する能力を低下させていると発見しました。
イギリスの心理学者 Glenn Wilson 博士も、マルチタスクでストレスレベルが過度に上昇すると、IQ(知能指数)を10ポイント低下させるため、問題解決能力を低下させると語っています。それに、ストレスホルモンのコルチゾールが脳内に増加すると、記憶力の低下にもつながるそう。
「同時に色々なタスクをこなしていけば、一気に片づけられるので効率がいい」
と考えるのは大間違い。書類を確認しながら、メールをチェックして、別のブラウザでは調べものを……、なんてことをしていると、仕事の効率をどんどん悪くしてしまいます。
2.「休憩なし」もNG
東京大学薬学部の池谷裕二教授らが行った中学生を対象にした実験では、休憩が集中力の維持に役立ち、長期的に見ると高い学習効果を発揮する可能性があると示唆されたそう。
脳の働きに関する研究を続けてきた作家で医師の米山公啓氏も、脳を効率的に働かせるには、上手に休ませてあげることが必要だと述べています。ずっと同じ脳の回路を使っていると、脳が飽きて集中力が落ちてしまうのだとか。
もちろん、仕事を続けながら違う作業に切り替えれば、脳の違う回路を刺激できるかもしれません。しかし、立ち上がって場所を変え、休憩をとるほどの効果は生まれないでしょう。
それに、休憩もせず長時間座りっぱなしで仕事を続けていると、脚の血流が悪くなり、代謝が衰え、生化学的な働きが低下するのは当然です。健康にも悪影響が及ぶはず。米ミネソタ州の総合病院メイヨー・クリニックで医師を務める James Levine 氏いわく、「座りすぎは喫煙と同じくらい健康に悪い」とのこと。
実際、2016年の11月に International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity に発表された、コロラド大学アンシュルツ医学センターと、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)ヒューマン・パフォーマンス研究所などが共同で取り組んだ研究では、1時間ごとに5分ほど立って歩き回ると、頭が軽くなり、やる気を持続しやすくなることがわかったそう。したがって、
「仕事を早く片づけたいので、休んでいる時間がもったいない」
というのも大きな間違い。仕事が速くなるどころか、集中力が低下してボーっとしたまま、時間をムダに過ごしてしまうのが落ちです。休憩時間は仕事効率を上げるために必要なのです。
3.「朝イチのメールチェック」もNG
わたしたちのカラダにもともと備わっている生体リズムでは、どの時間帯にどの能力が高まるのかが予め決まっていると、脳のリハビリテーションを専門とする作業療法士の菅原洋平氏は伝えています。たとえば朝イチは、男性ホルモンの「テストステロン」が分泌(女性にも有)するため、もっとも決断力に優れた時間帯なのだとか。
順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学教授の堀江重郎氏によると、テストステロンには、新しいことに挑戦しようとする「冒険心」、他者との関係を大切にする「社会性」、仕事に対し一生懸命になる「競争心」を高める作用があるのだそう。同氏はリーダーシップにもテストステロンは欠かせないといいます。
脳科学者の茂木健一郎氏も、朝目覚めてからの約3時間は、脳がもっとも効率よく働く「ゴールデンタイム」だと話します。睡眠を経て前日の記憶がリセットされている朝の脳は、1日のうちで一番冴えているそう。そのため、新しい記憶を収納したり、創造性を発揮したりすることに適しているのだとか。
「朝イチはコーヒーを飲みながら、スッキリとした頭でメールチェックする」
いやいや、これも大問題です。そんな時間帯にメールチェックをして過ごすなんてもったいない。重要な案件の決断を下す時間につかったり、重要な仕事を片づけたり、学習したり、新しいアイデアを考えたりすることに適した時間を、ムダに消耗しています。
4.「余白がない」もNG
生産性コンサルタントの Chris Bailey 氏は、著書のなかで、こう語っています。
スケジュールに余白がたくさんあれば、どの時間帯にどのタスクに取り組むかの選択肢がたくさんできる。集中力と活力は一日でかなり変動するから、時間の選択肢が何通りもあったほうが生産的になれる。 タスクを簡素化して、成果が見込めるタスクのまわりに余白をつくっておけば、何が起きても柔軟に切り抜けられるし、予想外のタスクにも対処できる。
(引用元:クリス・ベイリー著,服部京子訳(2017),『世界一の生産性バカが1年間、命がけで試してわかった25のこと』,TAC出版.)
Sendhil Mullainathan 氏らが著した『いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学』にも、手術室がいつもいっぱいで、常にスタッフが残業していたミズーリ州の救急病院が、「手術室を緊急専用としてひとつ空けておく」という決断で、多くの問題を改善できたことが書かれています。
「とにかく忙しいので、スケジュールはいつもギュウギュウだ」
それじゃあ、何かあるごとに残業です。物事は、決して思いどおりに進まないもの。仕事ならなおさらです。たとえば上司から「ちょっとこれ、最優先でお願い」と仕事を差し込まれたり、「いったんA案件は保留で、B案件を先にお願いします」とクライアントからお願いされたりすることもあるでしょう。
その場合、スケジュールに余裕がないと 今日終えるはずの仕事が先送りになったり、待ち時間ができたりと、多くのロスを生じさせるのではないでしょうか。スケジュールの余白は、ムダな時間ではありません。「適応性のある時間帯」なのです。ミズーリ州の救急病院と同じように、余白を設けたほうが、むしろ残業は減っていくでしょう。
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なお、こちら『脳科学界からの警告。「マルチタスク」が危険すぎる4つの理由』では、より詳しく「マルチタスク」の危険性を伝えています。ぜひご参考にしてみてくださいね。
(参考)
Verywell Mind - Know More. Live Brighter.|How Multitasking Affects Productivity and Brain Health
Bloomberg|Dangers of Sitting
朝日新聞デジタル:朝日新聞社のニュースサイト|集中力の維持と長期的な学習効果につながる方法(東京大学・池谷裕二教授の見解)
NIKKEI STYLE|WOMAN SMART|仕事の集中力と効率が上がる、脳の活性法
NIKKEI STYLE|ヘルスUP|男性の健康左右するテストステロン 仕事力にも影響
東洋経済オンライン | The New York Times | 仕事中の「5分間ほっつき歩き」の意外な効用
THE21オンライン|脳科学者が勧める「朝時間」の使い方
Study Hacker|『脳科学界からの警告。「マルチタスク」が危険すぎる4つの理由』
Study Hacker|「いつも時間がない人」の残念すぎる行動習慣。タイムマネジメントは “この4つ” を押さえなさい。
菅原洋平著(2018),『朝イチのメールが残業を増やす』,日本経済新聞出版社.
クリス・ベイリー著,服部京子訳(2017),『世界一の生産性バカが1年間、命がけで試してわかった25のこと』,TAC出版.