皆さんは自分の“脳力”に自信はありますか?
今はまだ「脳の衰え」というほどのものは感じていなくても、自分の脳を鍛えることでスキルアップできるのであれば興味がある、なんて人は少なくないかもしれません。また、年齢を重ねると共に昔ほど頭が回らなくなった気がするという人にも、脳トレは役立ってくれます。
そうは言っても、世間には多種多様な脳トレが溢れ、どれが本当に効果があるのか……。そこで今回は、脳科学的な根拠に基づいてしっかりと効果を上げてくれる脳トレをいくつか紹介したいと思います。
そもそも脳トレとは
脳トレは、軽いパズルなどを通して普段使わない脳の領域を活性化させることで、全体的に脳力をアップさせるというトレーニングです。
使わない筋肉が衰えるのと同様、脳力も使わなければ衰えてしまうと言われています。加齢と共に記憶力や思考力が低下することはよく知られていますが、それは歳を重ねるごとに新しいことに触れたり、新鮮な体験をすることが少なくなってしまうから。脳が活性化しにくくなるため、脳力が衰えてしまうのです。
ですから逆に、意識してトレーニングを続ければ、年齢に関係なく脳力を伸ばすことが可能です。実際にある程度の年齢を重ねてからでも、驚異的な脳力を発揮する人はたくさんいます。39歳で一念発起、放送大学に入学して数学を勉強し始めた原口證さんは、60歳のときに円周率10万桁の暗唱に成功するという物凄い記録を達成しました。
また『老ける脳と老けない脳』の著者であり、54歳の頃に4万桁もの円周率を暗唱した友寄英哲さんは、80歳の時に目隠しでルービックキューブを揃える大会で26分29秒という当時の世界最高齢記録樹立、83歳の頃には14分13秒という記録まで打ち立てています。
両者とも決して若いとは言えない、むしろ記憶力や脳力に不安を覚えるような年齢から驚くべき記録に挑戦し、それを達成しています。しかも二人とも、昔から特別記憶力が良かったわけではなかったということで、それらの記録はまさに「脳トレの賜物」と言うことができるでしょう。
ではそこまでは至らないまでも、簡単な方法で脳力アップを図るにはどうしたら良いのでしょうか? ここでは今すぐにでも始められる手軽で効果的な脳トレを紹介したいと思います。
1. 速読にも効果がある、指回し
「指回し」は、医師であり、速読や能力開発を指導するSRS研究所長の栗田昌裕博士が開発した簡単なトレーニング法です。道具も不要、ほんの数分でできてしまうトレーニングなので、皆さんもぜひやってみてください。
1)両手の五本の指先を合わせて、ふっくらとしたドームの形を作る。 2)親指から始め、それぞれの指の対を、互いに触れ合わないように回す。 3)回す方向は、右手の人さし指の先が根本から見て時計方向に回るのを右回しと呼び、これを基本としてまず行い、慣れたら左回しも自由に行ってよい。 4)各指の対は最低20回回す。
(引用元:(株)SRS研究所|指回し体操の諸効果)
たったこれだけの運動ですが、実際にやってみると薬指と小指あたりは非常に難しいことが分かると思います。
このトレーニングでは、指に指令を出す前頭葉の前頭連合野が活性化し、筋肉を収縮させるため、運動野に隣接する高次運動野も活性化します。見た目以上に繊細な動きが要求されるので、それらの活性化具合も大きくなるのがこのトレーニングの特徴です。
このトレーニングには脳トレの効果だけでなく、トレーニング直後の集中力や記憶力アップの効果もありますから、ここぞというときに試してみるのも良いかもしれません。
2. 利き手と逆の手を使おう
指回しと同様に手に注目した脳トレが、「非利き手トレーニング」です。これもやり方は簡単で、普段右手を使っていることに左手を使ってみるだけです。
たったそれだけ? と思うかもしれませんが、それだけのことにも非常に大きな効果があります。私たちは普段意識せず、意外と複雑な作業を利き手を使って行っています。毎日繰り返していることで意識せずにできてしまっていますが、利き手ではない方でやればそれがどれだけ複雑な作業か分かるはずです。
この“慣れ”という部分が、脳の活性化と密接に関わっています。人間の脳は一連の作業をひとつにまとめ、回路として脳内にストックしています。それによって身体がその行動に慣れて、意識せずとも引き出せるようになるのです。楽器を習ったり、スポーツを始めたり、車の運転を覚えたりしたときのことを思い出せば、そのような「回路ができあがる感覚」を思い出せるかもしれません。
この「回路を作る」という過程で、人間の脳は強く活性化する性質を持っています。実はこの「新しい回路を作る」ことは、前項の指回しにも共通する性質で、脳トレの肝となる部分なのです。この非利き手トレーニングは、脳内の右手を動かす領域にある回路を左手にも作っていくことを通して、脳を活性化させてくれます。
家の鍵を開ける作業、リモコンを操作したり、スマホを操作したり、コーヒーをいれる作業のようなちょっとしたことを利き手以外でやることで、日常的に脳の活性化を図ることができるのです。指は脳につながる神経が多いので、指先を使うことで脳が活発に動きます。ちょっとしたことがトレーニングになるのは嬉しいですね。
3. リフレッシュしながら脳トレ、散歩の効能
「散歩」には、気分転換やリフレッシュをしながら脳トレもできるという効果があります。
アップルの創業者スティーブ・ジョブズ氏やフェイスブックのCEOマーク・ザッカーバーグ氏等の実業家や、古くからはカントなどの哲学者、ベートーヴェン等の芸術家まで、散歩の愛好家であったというエピソードを持つ人物は多く存在するのです。
散歩中にアイデアがひらめいて……というエピソードも多いですが、そこには気分転換の効果と共に脳の活性化効果が関係していると考えられています。では実際に脳トレとして散歩をするときは、どのようなことに注意したらよいのでしょうか。
まず、考え事に没頭したり、スマートフォンや音楽などに意識を取られたりするのではなく、なるべく周囲の風景や音に意識を向けてみることです。私たちの周囲には非常に多くの情報が溢れています。そのような情報がたくさん流れ込んでくると、脳がその情報を処理しようと活性化を始めるのです。
もう一つ意識したいのは、普段は通らない道を積極的に通ること。すっかりお馴染みになった道には何があるかがある程度分かっており、その分新鮮な刺激が脳に届きにくくなってしまいます。そこで、あえて普段は通らない道を通ってみたり、同じ場所に行くにしても違う方法を探してみたりすることで、脳が新しい記憶領域を作り出そうとして活性化するということが起こります。
この性質を利用すれば、忙しくて散歩の時間を作りにくいという人でも、通勤通学の時間を使ってお手軽に脳の活性化をすることができます。移動時間は脳トレの時間! と割り切って、いつもは素通りする道を曲がってみるのも良いかもしれません。
*** 脳力を鍛えると記憶力や発想力が底上げされ、仕事にもいい影響が出ることは間違いありません。 ちょっとした習慣を取り入れて、あなたの脳を鍛えてみてはいかがでしょう?
(参考) はいから|円周率の中に「青い鳥」を見つけました 原口證さん NEWSポストセブン|「記憶力世界一」の84歳に聞いた老けない脳の作り方 (株)SRS研究所|指回し体操の諸効果 朝日新聞Digital|指回し体操 手軽に脳の訓練 President Online|テスト前は、指をグルグル回そう! 笑うメディア クレイジー|利き手ではない方で作業するだけで、脳が驚くほど活性化する 晨鶏内科渡辺クリニック|筋トレと脳トレ