「パーティーピープル」を略した言葉、「パリピ」。賑やかで社交的な場が好きな若者のことを指す言葉として、近年注目されている。我こそパリピだと自負する人もいるだろうが、一方で騒がしいパリピを遠巻きに見ている人もいるに違いない。
どのような人であっても、トレンドをつかみビジネスに生かしていきたいと考えているなら、パリピという人々の特徴について詳しく知っておく必要がある。それにうってつけなのが、こちらの書籍だ。
本書の著者である原田曜平氏は、博報堂ブランドデザイン若者研究所のリーダー。大手広告代理店のグループ組織に属し、マーケティングに精通している人物である。
現在マーケティングの世界では、従来行われてきたような定量的な分析が難しくなってきている。その原因のひとつが、人々の多様化だ。大量生産大量消費の時代とは違い、多様化した人々はそれぞれ異なる趣味趣向を持っており、それは年々変化し続けている。そうした時代の変化の中で、人々の特徴を表す言葉として近年大きなカテゴリーとなってきたのが、パリピと呼ばれる若者たちだ。
本書では、近年のパリピ現象の具体例を振り返り、それを元にパリピというカテゴリーの定義付けをしている。そして、若者の歴史を紐解きながら、なぜ今パリピブームが来ているのかを分析。加えてインタビューやアンケートを基に彼らの特性を炙り出し、今後どのようなものが流行るのかにまで言及している。
身近に存在するパリピ現象
近年の消費のトレンドとして、大いに盛り上がりを見せているハロウィン。ハロウィンにかこつけて仮装を楽しむイベントが急激に増加した実感があるのではないだろうか。そうした賑やかなイベンの中心にいるのが、俗にパリピと称される人々だ。
例えば、世界最大級のEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)イベント「ULTRA」、人体に無害な色とりどりのカラーボールをぶつけ合いながらランニングする「Color me mad」、またDJがクラブミュージックをプレイする中を蛍光グッズを身に着けて走る「Electro Dash」などのイベントは、初回から大盛況でニュースにもなるほどの人気ぶりだ。
また、ホテルやリムジンを借りて開くパーティーなども行われている。参加者はセルカ棒やGoProなどの自撮りグッズを使って、楽しむ様子をInstagramやSnapchatなどのSNSアプリで拡散する。そのため、これらのイベントは一部のパリピだけでなく一般の人々にまで認知が広まってきた。
実際に私も、上述のElectro Dashの運営に関わった経験がある。これは、2015年に日本初上陸したクラブ系ランニングイベント。ちょうどEDMもブームに火が点いた時期と重なったこともあるが、日本初開催とは思えぬほどの盛り上がりには本当に驚いた。運営側としては、夜の野外、しかも大音量で楽しむというイベントの性質上難しさもあった。しかしイベント終了後はクラブでアフターパーティーなども開催され、クラブシーンに対しても相乗効果が見て取れた。パリピが主体となるイベントには、消費に揺さぶりをかけるほど大きな力があるのだ。
パリピの位置づけ
マーケティングの世界では、あるトレンドが伝播する過程を説明する「イノベーター理論」という定説がある。この理論では、新製品をいち早くトライする「イノベーター」、それに追随する形で導入する「アーリーアダプター」、一般に浸透しはじめた時点で導入する「アーリーマジョリティ」、大多数が購入するようになってやっと安心してお金を出す保守的な「レイトマジョリティ」と人々を分類する。
本書では、このイノベーター理論をパリピの世界に当てはめて分析している。若者たちを次の4つに分類したうえで、パリピの位置づけを明確にしているのだ。
「フィクサー」 (意図せず)様々なトレンドを持ってくるイノベーター。 多くのパリピイベントは、フィクサーによって海外から持ち込まれたもの。フィクサーの中には、海外の最新トレンドに接点のある人や興味のある人が多いが、それを積極的に広めようとする意思はない。
「パリピ」 フィクサーの持ってきた案件をいち早く導入するアーリーアダプター。 フィクサーが持ち込んだ最新のトレンドが、日本でも流行るか否かのフィルターとして機能する。流行るものに関しては、パリピが情報拡散のきっかけとなる。
「サーピー」 パリピの情報拡散により食いついていくアーリーマジョリティ。サーピーまで浸透すれば、ブームはほぼ一般化したといえる。
「パンピー」 一般ピープルのレイトマジョリティ。目新しいトレンドには無闇に手を出さない、保守的な若者たち。
パリピの性質
一般的にパリピというと、いろんなイベントに乗っかって楽しむようなイメージがもたれている。地に足がついていない印象を抱く人もいるかもしれないが、特に情報への感度が高いフィクサーとパリピに関しては、確固たる価値観を備えているのだ。彼らはトレンドに敏感なだけでなく、いいものと悪いものの判断力があるうえ、情報拡散力も強い。ゆえに、フィクサーとパリピに属する若者たちの直感から、イベントやブームが産み出されていると言える。
原田氏は「パリピは人の話をあまり聞かない=多くの人と繋がる力は強いが深くは繋がらない」と分析している。これはFacebookのコンセプトである「thin relationship(緩いつながり)」と共通するもの。SNS隆盛時代の要請としてパリピというカテゴリが生まれたのではないかと感じられ、個人的に興味深い分析であった。
また原田氏は、パリピを「カタリスト(触媒)の役割」と称している。パリピが徹底しているのは「常に自分らしくあろうとし、人と競わず蹴落とすことなく、自分も含めた周囲がハッピーになること」だ。パリピはお金や権力を求めるのではない。みんなで楽しむことを優先するから、自然とパリピの周りには人が集まってくる。人に必要とされ、触媒として機能するのが、パリピなのだ。
若者理解の重要性
現在日本は少子化が声高に叫ばれており、そのせいで若者市場が縮小傾向にあるのは否めない。しかし2015年の調査によれば、ハロウィンの市場規模が、長い歴史のあるバレンタインデーを抜き去ったという。パリピには、持ち前の拡散力を武器に、強大な爆発力が備わっていることを証明していると言えるだろう。
パリピは、自らの価値観を強く持っているため、従来のマスアプローチでは動きづらい層だ。しかしパリピの間で流行したものは、確実に新たな消費行動として、一般に広まっていく。本書は、相手を理解し相手の目線で考えるというマーケティングの基本を再確認させてくれる1冊であると言えよう。
現代の若者とのコミュニケーションは難しいと嘆く声も聞かれるが、原田氏はパリピという若者たちと同じ目線で社会を見ることの重要性を説いている。自分がパリピでないからと言って、パリピを理解できないわけではない。そのことを知るだけでも、パリピのような若者たちとのコミュニケーションのハードルは劇的に下がるのではないだろうか。
若年層の世代をターゲットとしたいビジネスパーソンにはもちろんのこと、職場の若手との人間関係に悩む中堅層の社会人にもお勧めしたい書籍ではあるが、もはや教養として全ての人が知っておいて損はない内容である。