ストレスに対して打たれ弱い。失敗を気に病みやすい。そんな「心の折れやすさ」を克服したいと考えている方はいませんか。

例えば、仕事でミスをしてしまい上司から叱られたとします。人一倍落ち込みやすい性格の場合、「叱られてしまった。自分はダメなやつだ」と落ち込み、なかなか立ち直れないでしょう。しかし一方で、「ミスをしたのは〇〇が原因だ、次はうまくやるぞ」とすぐに立ち直り対策を練ろうとする人もいます。両者の間には明らかに差があると言えます。

この例で見た前者のように心の折れやすさで悩んでいる人でも、自分のストレスを上手に管理し対処することができれば、打たれ弱さを克服することは可能です。今回は、心が折れないようにするための「レジリエンス」の育て方についてお伝えします。

心が折れる人、折れない人の差は「レジリエンス」にあり

同じ出来事が起こっても、心が折れやすい人と、一時的には落ち込むものの比較的早く立ち直れる人がいますよね。「心が折れる」ことの意味を、ここでは「(ストレスによって)情緒的に不安定になる」こととして、話を進めていきます。

心の折れやすさが人によって違うということは、いくつかの研究によって明らかにされていることです。例えばある研究では、第二次世界大戦で難民となった子どもに対し、その後の人生の追跡調査が行われました。その際、心の傷を抱えたまま成長する子どもがいた一方で、情緒的に安定している子どももいたのだそう。

また、別の研究においては、戦地からの帰還兵に焦点が当てられました。それによると、戦地で残酷な経験をした人の中でも、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に長期間苦しむ人、ほとんど障害がない人、そしてまったく障害がない人の3種類が存在したといいます。

同じ辛い経験をしたにもかかわらず、人によってその後の精神状況に差が出てくるのは不思議なことだと思いますよね。このような事実から、挫折や苦難を乗り越え立ち直る力というものが注目され、研究が進められてきました。それがレジリエンスというものです。

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レジリエンスは、誰にでも備わる潜在的な能力

逆境力折れない心などと言い換えられることもあるレジリエンス。近年注目を集めている概念なので、この言葉自体を耳にしたことがある人は多いでしょう。「レジリエンス」の定義は、アメリカ心理学会(APA)によれば以下のとおりです。

レジリエンスは逆境、心的外傷、悲劇、脅威、あるいは家族や人間関係問題、深刻な健康問題などから派生したストレスに直面した時に、それにうまく適応するプロセスである

(引用元:石井京子(2011),「レジリエンス研究の展望」,日本保健医療行動科学会年報,Vol.26,pp.179-186.)太字・下線は筆者にて施した

日々の生活においては、失敗やトラブルなどの辛い経験を引きずらなくて済む能力。それが、レジリエンスだと言えます。

ストレスを気に病みやすく、落ち込んでしまいやすい人の中には、「レジリエンスは打たれ強い人が持って生まれた能力なのではないか」考える方もいらっしゃるかもしれませんね。実は、その考えは正しくありません。レジリエンスは、誰にでも備わった潜在的な能力なのです。

アメリカのCivitan International Research Centerで研究を行っているEdith Henderson Grotberg氏は、レジリエンスは困難な経験を自己の成長の糧として受け入れる状態に導くために皆が持っている力である上、誰でも学習し発達させることができるものと伝えています。ですから私たちも、訓練をすればレジリエンスを鍛え、ストレスにうまく対処し打たれ強くなることができるのです。

「3つのC」で、レジリエンスは鍛えられる!

では、私たちがレジリエンスを鍛えるための「3つのC」をご紹介します。

これは、心理学者のサルバトール・マッディ氏とデボラ・コシャバ氏が、情報通信事業に取り組むイリノイ・ベル社とアメリカの国立精神保健研究所からの資金協力を得て、12年間にわたり研究し明らかにしたもの。レジリエンスを育てる効果的な方法です。

1. コミットメント(commitment)

コミットメント」とは、たとえ困難な状況になってもその場にとどまり、周囲の人々や出来事と関わりを持ち続けること。レジリエンスを鍛えるために、困難な状況を乗り切る力を身につけましょう。

例えば、あなたが職場で、上司や同僚と意見が合わないことにストレスを抱えがちだとします。上司や同僚と意見が対立しても良い関係を維持するためには、嫌だと感じた時の自分の感情に目を向けすぎるのではなく、客観的な事実に目を向けるように努めてください。仕事のやり方について考えが合わないなら、「嫌だ」と考えるのではなく、「なるほど、そういうやり方もあるのか」というように事実としてまずは受け止めるのです。意見を述べる際は、その事実を踏まえたうえで「〇〇という理由から、私はそのやり方ではなくこのやり方で進めたいと思います」などと言いましょう。意見の衝突によるストレスで悩み過ぎてしまうことを防げるはずです。

2. コントロール(control)

コントロール」とは、今の状況は変えられないとあきらめるのではなく、自分でなんとかできると信じてその状況に影響を与え続けること。レジリエンスを鍛えるには、自分ではどうしようもない状況でない限り、自らの力で困難を切り抜けようとする姿勢が大切です。

例えば、仕事の納期が間に合いそうにない場合。何もしないでいたら、案の定納期には間に合わず、上司から叱られ、嫌な思いをするでしょう。ミスをしてしまった自分を気に病み続けてしまう可能性もあります。しかし、周囲の人に協力してもらえれば納期に間に合わせることができるかもしれませんよね。そうであれば、一度周囲に協力を頼んでみましょう。困難な状況を乗り切り、ストレスを回避することができるはずです。

3. チャレンジ(challenge)

チャレンジ」とは、自分の不運を嘆くのではなく、ストレス状況下においても成長の道を見出そうと努力し続けること。逆境から立ち直るには不可欠なことです。

何か苦しい状況に直面したら、「自分はこのストレスから何を学べるか?」ということを考えてみてください。例えば、上司から仕事のミスを叱られた時は、自分の技術的スキルやコミュニケーションスキルを高めるチャンスだと捉えるのです。自身のスキルが高まればミスそのものが減っていくはずです。たとえまた別のミスをしたとしても、前向きにとらえることができればストレスなどにならなくなってくるでしょう。

レジリエンスによって成果をあげた著名人

最後に、レジリエンスを発揮し大きな成功をおさめた著名人の例を挙げましょう。その著名人とは、松下電器創業者であり「経営の神様」とも呼ばれた松下幸之助氏です。

第二次世界大戦前の松下電器は著しい成長を遂げていたものの、周囲の企業に比べると微小な中小企業でした。そして戦後、本来の家電生産にシフトしようとしましたが、戦時中に軍需生産を行っていたことからGHQに生産停止命令を出されてしまいます。財産をすべて失い巨額の負債を抱えることになった松下氏は、溜まったストレスを解消するため、アルコールに頼ったり眠れない夜には睡眠薬を服用していたりした時もあったのだとか。

しかし松下氏は、ずっと鬱屈した状態でいることはありませんでした。なぜこのような苦境に立たされたのか、何が原因であったのかをひたすら考えたのです。『世界のエリートがIQ・学歴よりも重視! 「レジリエンス」の鍛え方』(久世浩司著)という書籍の中で、以下のように紹介されています。

たしかに戦前は世間から「経営の神様」ともてはやされ、会社も成長を重ねたが、自分にも驕りの気持ちが出ていたかもしれない。そう反省します。陸軍や海軍の依頼を受け入れ支援した決定も仕方がなかったとはいえ、正しかったのかはわからないと考えました。

しかしその前提として、自分が事業を営む日本という国が戦争に突入し、国家資産の四分の一と数百万人の命を失った惨状に陥ったことが問題であったのではないか。なぜこんなことになってしまったのか。日本は二度と第二次大戦のような自殺行為に向かわないようにするためにはどうすればいいのか。

これらの疑問が動機づけとなってPHP研究所が発足されたのでした。

(引用元:久世浩司著(2014),『世界のエリートがIQ・学歴よりも重視! 「レジリエンス」の鍛え方』,実業之日本社.)

「繁栄によって平和と幸福を」という理念のもと出版や啓発活動を行うことで知られるPHP研究所は、松下氏がレジリエンスを発揮し逆境に打ち勝とうとする過程で生まれたもの。まさに、松下氏は上で紹介した3つのCを体現していたと見ることができます。

生産停止命令から4年半後、松下電器が全ての規制を解除されると、以後松下氏は会社の再生に尽力。その後の松下電器の成功は誰もが知る通りです。そして松下氏は晩年、改めてPHP研究所の活動に力を注ぎました。

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打たれ弱い自分から脱却したいなら、ここでお伝えした「3つのC」を日々の仕事に取り入れてみてください。レジリエンスは、誰にでも備わった力であり、鍛えることが可能です。ストレスに強い自分を手に入れましょう。

(参考)
枝廣淳子著(2015),『レジリエンスとは何か:何があっても折れないこころ、暮らし、地域、社会を作る』,東洋経済新報社.
久世浩司著(2014),『世界のエリートがIQ・学歴よりも重視! 「レジリエンス」の鍛え方』,実業之日本社.
石井京子(2011),「レジリエンス研究の展望」,日本保健医療行動科学会年報,Vol.26,pp.179-186.
Newsweek日本版|レジリエンス(逆境力)は半世紀以上前から注目されてきた
ハーバード・ビジネス・レビュー|ストレスに負けないためにレジリエンスを高める4つの方法