何度も練習をしているけれど、なかなかオーディエンスの心をつかむ話し方ができない……。もっとインパクトのあるプレゼンテーションをしたい! そう悩んでいる人はいませんか?

プレゼン力向上のためにいろいろなことを試した経験のある方もいることでしょう。しかし、それらのどんな工夫も比べ物にならないほど、強力なテクニックが存在します。

今回は、アジア・オセアニアの名門大学の学生が集う国際的な学生会議で学んだ、世界基準のプレゼン術をご紹介します。

世界トップ大学の国際会議

シンガポール国立大学の起業家精神を持つ学生グループがホストし、アジア・オセアニア地域の名門大学の選ばれた学生のみが招かれ、共にビジネスを学ぶ合宿形式の国際会議イベントがあります。

シンガポール国立大学といえば、2018年QS世界大学ランキングで15位と国際的にも高い評価を得ているアジア屈指の名門大学。なんとこれは、イェール大学やコロンビア大学よりも高い順位です。

参加できるのは、東京大学、北京大学、国立台湾大学、クイーンズランド大学、KAIST(旧称:韓国科学技術院)、マカオの澳門大学など、各国のトップ大学。筆者は日本の代表メンバーの一員として参加しました。

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シンガポールの著名スピーカー Coen Tan

国際学生会議では、プレゼンテーション、マーケティング、コンサルティングのレクチャーやビジネスコンテストなどが開催されました。中でも特に印象に残っているのは、シンガポールの著名なスピーカー、Coen Tan氏の講演。

London Academy of Music and Dramatic Artsのパブリックスピーキング部門で金賞を受賞し、研修・コンサルティング会社の代表として、シンガポール・中国・インド・タイ・マレーシア・フィリピン・台湾などで国際的に活躍している人物です。

そんな彼からパブリックスピーキングの講義を受けたとき、私は心を動かされたと同時に、多くの学びを得ました。

プレゼンの主役は誰?

Coen Tan氏が教えてくれたことはたくさんありますが、一番印象的だったのは、オーディエンスを巻き込む話し方。

プレゼン中、スピーカーが話し、観客はその話を聞いていますね。一見、スピーカーが主役であるように見えます。でも、本当にプレゼンテーションの主役はスピーカーであるべきなのでしょうか? ここに、プレゼンの成功の鍵を握るたった一つのことが潜んでいます。

実は、プレゼンテーションで主役になるべきなのは、スピーカーではなく「オーディエンス」。もちろん実際に話すのはスピーカーですが、話し方を工夫することで、オーディエンスを主役にすることができるのです。

本当に優れたスピーカーとは

本当に優れたスピーカーは、オーディエンスを主役にできるスピーカー。難しそうに聞こえるかもしれませんが、稀有な才能も血のにじむような努力も必要ありません。

スピーカーの話を、オーディエンスがまるで自分のことのように感じられるよう、誘導する技術があるのです。プレゼンの際このテクニックを取り入れるだけで、聴衆に当事者意識を持たせることができ、簡単に大きな効果を得られます。

microphone in meeting room or conference room, Bussiness concept, soft focus

オーディエンスを主役にするメリット

聞き手が受け身のまま他人事だと思って話を聞いていると、話に共感してもらえません。すると、スピーカーが本当に伝えたいことが、意図した通りに伝わりにくいもの。

ましては「つまらない」「早く終わらないかな」と思われてしまったら一巻の終わり。どんなにいい話をしていても、聞く耳を持ってもらえないですよね。

オーディエンスを主役にする一工夫で、受け身でいる「聞き手」を主体的な「参加者」に変えましょう。するとスピーカーの話を、聴衆がまるで自分ごとのように感じ、プレゼンに積極的に関わってくれるようになります。

その結果、話し手が伝えたいことが聴衆の心に響くようになるでしょう。最終的に、聞き手の行動を変えることが可能になるのです。

プレゼンの真の目的を達成できる

プレゼンの目的は、相手を動かすことですね。ただ相手に話を聞いてもらうためでも、自分の話術を披露するためでもありません。

お客様へのプレゼンなら「契約」「購入」が目的であるはず。上司に対してなら「プロジェクトへの予算投下」「昇進」が目的かもしれません。環境問題やいじめ問題についてのプレゼンなら「環境保護のための個々の行動」「いじめ防止のための聞き手の考え方の変化」を目的としていることもあるでしょう。

オーディエンスを主役にし、聞き手を主体的な「参加者」に変えることで、プレゼン本来の目的を自然に果たせるようになるのがメリットだといえます。

オーディエンスを主役にする方法

学生会議のプレゼン大会で、北京大学の学生は、清潔な水の重要性、そして世界で不足している貴重な水資源を守ることの大切さについて話しました。オーディエンスは世界各国から集まった学生40人。このテーマを例にして、オーディエンスを主役にするプレゼン術をご紹介します。

まずは40人の観客の中から、ランダムに12人を指名して立たせ、こう伝えます。

残念ながら、あなたたちは清潔な水が飲めません

これは、安全な飲用水が手に入る世界の人口の割合を40人にあてはめたものです。続けてその中の一人を指名し、こう尋ねます。

汚染された水を飲むしかないあなたには、何が起こるでしょうか?

きっと「下痢になる」などのような答えが出てくるでしょう。

その通り。感染症になり、命を落とすこともあるのです

スピーカーは、オーディエンスと対話しながら事態の深刻性を訴えます。立っている12人の聞き手は、まるで本当に汚染された水を飲まなければいけない立場になったかのように、険しい顔をしています。次に座ったままの聴衆に視線を合わせます。

今座っている28人のあなたは、ラッキーだと内心安心したことでしょう。でも、清潔な水が飲めるあなたも、衛生的なトイレを使うことはできないかもしれません

こう話した後、新たに14人をランダムに指名して立たせます。

今新たに立っていただいた14人を加えると、計26人が立っていることになります。これは世界の総人口の中で安全な衛生施設(トイレ)を使えない割合を、皆さん40人にあてはめたものです

誰もがドキッとするでしょう。こんなに多いものなのかと、驚くはずです。さらにスピーカーは会場内を歩き回り、立っている人の中からランダムに5人を選び、こう伝えます。

今、指名した5人は手をあげてください

これで立っている26人のうち、5人が手をあげることになります。

これは家や近所にトイレが一切ない人の割合です。想像してみてください

最後に、今まで立っていた、安全な水を使えない立場に置かれた26人に座ってもらいます。代わりに今まで座っていた、安全な水を使える「ラッキー」な14人に立ってもらいます。その人数の少なさに驚愕の声があがるかもしれません。

安全な水が手に入らない人に比べると、わずかその半分近くの人しかきれいな水を使えません。清潔で安全な水がいつでも手に入る私たちは、今後どのように水を使っていくべきでしょうか? そして、世界の水を守り、より多くの人の衛生状況を改善するために何ができるでしょうか?

このように問いかけながらまとめるといいでしょう。どちらの立場に置かれた観客も皆同様に、当事者意識を持ち、問題解決のために行動する一歩を踏み出す原動力を手に入れたはずです。

実はオバマ元アメリカ大統領も!

このテクニックはどんなトピックでも応用可能です。立ってもらうことが難しければ、手をあげてもらうだけでも効果があります。

・観客に立ってもらったり、手をあげてもらったりする
・観客を指名して直接問いかける

これらの手段によって、積極的にオーディエンスを話に巻き込み、主体的にプレゼンに参加してもらうことができます。その結果、当事者意識を持たせることが可能になり、プレゼンテーションを成功させることができるのです。

実はこれは、バラク・オバマ氏のアメリカ大統領勝利演説でも見られます。

This is your victory.(これはみなさんの勝利です。)

(引用:CNN|Transcript: ‘This is your victory,’ says Obama

目の前にいる人々だけでなく、テレビ・ネット・ラジオを通して何億人もの人に対する演説なので、聴衆との直接の対話はできませんが、主体的な聞き手になってもらう工夫は同じ。

主役をオーディエンスにすることは、プレゼンの成功に欠かせない要素なのです。

***
聴衆を惹きつける話し方、ボディランゲージなどの工夫は多々あれど、ここまで積極的に聞き手を巻き込むテクニックは、日本ではまだなかなか見られないかもしれません。

しかし、国際社会で活躍する名スピーカーから学ぶ、世界基準のプレゼン術を実践したら、周りと差をつけられること間違いなしですよ。

(参考)
Top University|QS World University Rankings 2018
Asia Professional Speakers Singapore|Coen Tan
CNN|Transcript: ‘This is your victory,’ says Obama