パソコンやタブレット端末の普及に伴い、自分の手を使って何かを書くという機会が減っていませんか。デジタル機器は非常に便利なもので、端末を一つ持ってさえいれば、手軽に写真としての記録を残したり、入力した情報でも簡単に何度でも書き換えることが可能です。
その一方で、手書きにはペンやノートなど道具が複数必要で、持ち運びに手間がかかります。また、丁寧に書く意識がないと文字が乱れてしまい、後で読み直すのに苦労することも。デジタル機器の使用に慣れてしまうと、手書きには不便さを感じることもあるでしょう。
しかし、手書きには、便利さでは代えられないメリットがあることをご存知でしょうか。デジタル機器が浸透した今だからこそ見直したい、手書きのメリットをご紹介します。きっとあなたも、今日から手書きで勉強や仕事をしてみたくなるはずです。
覚えるためには手書きが有効
昔から、記憶するには実際に手を動かすことが必要だ、と繰り返し説かれてきました。漢字などは良い例で、子供のころ、ノートに何度も何度も書いて練習したことを覚えているでしょう。その妥当性を示す研究の一つに以下のような実験結果があります。
ノルウェーのスタヴァンゲル大学とフランスのマルセイユ大学では、手書きとタイピングの2つのグループに、20文字の無意味な文字列を暗記させて、記憶がどれくらい正確に残るかという調査を行いました。 テストをしたのは、暗記した日から3週間後と6週間後。記憶した文字列の正しさや思い出すスピードをチェックしましたが、いずれも手書きグループのほうが優秀な結果を残したそうです。
(引用元:PRESIDENT Online|なぜ、スマホやパソコンではなく手書きなのか?)
タイピングに比べ、手書きのほうが脳の中の言語処理に関係する部位が活発に働き、記憶に役立つのだそうです。
手書きで脳が活性化する仕組み
では、文字を手書きする際、脳はどのように働いているのでしょうか。
編物などの細かい作業はボケ防止になるとよく言われるように、指先の運動は脳を活性化させています。手書きの際、脳では指先を繊細に動かすために、神経細胞が活発に働きます。脳の中で指を動かす機能を持つ部位の隣にはブローカ野(発話、文法理解・構築などを司る前頭前野にある脳の部位)という部位がありますが、手書きをするとこのブローカ野への血流が活発化します。一方、キーボード入力によるブラインドタッチの場合では、指先運動が小脳で代替されてしまいブローカ野への血流の影響がなくなるため、手書きと比べて脳の活性化の度合いも低くなってしまいます。
また、文字を書く際に何を用いるかによって脳の働く部位が変わることが分かっています。
ペンで書字したとき脳は、音声を聞く、それを理解する、ペンを動かす、書いた字をよく見て読む、漢字の読み書き等の変換を同時並列にやっていることがわかる。一方、キーボードで書字したときは、音声を聞く、理解する、までは同じだが、以降、書いた字をよく見て読む等の働きをする後頭葉が働いてないことがわかる。Eメールなどで誤字脱字が多いのはそのためだ。
(引用元:日本筆記具工業会|JWIMA通信第26号)
また、資料の余白に手書きで取ったメモが鮮明に思い出せる、という経験はないでしょうか。手を動かして書くと、脳幹にある網様体賦活系という部分が刺激されます。この、網様体賦活系は、脳が集中しているタスクを、より重視させるという機能があります。そのため、会議中や授業中に手書きのメモを取ることで、その内容により注意が向くようになり、後からよく思い出せるというわけです。
以上のように、手書きで文字を書くことで、手書きしない場合に比べ脳の広い範囲が働き、脳を活性化させる仕組みがあるのです。
手書きでクリエイティブな力が目覚める
手書きには創造性を豊かにするという効果があることも、研究で明らかになっています。
手で書いた子どもは、情報をより多く覚えていただけでなく、アイデアもより多く出したという実験もあります。心理学者のVirginia Bernignerさんは、キーボードの入力と手で書くことは、脳の働きのパターンが異なると述べています。彼女の研究では、手で書いた子どもはタイピングした子どもよりも、より多くの言葉やアイデアを生み出しました。また、字が上手な子どもは、作業記憶と関連がある領域の脳の神経がかなり活性化していました。文字を手で書くという身体的な動作を積極的に取り入れると、ほかのことでは使われない脳の領域を刺激するので、創造力も目覚めます。
(引用元:livedoor NEWS|「手書き」がもたらす学習効果 手で書くことで使われない脳の領域を刺激)
仕事や勉強に、ぜひ手書きを取り入れてみたくなりますね。
*** いかがでしたか。脳を活性化し、仕事や勉強の効率をより高めるために、ぜひ手書きのメリットを心に留めてみてください。
古代ギリシアの哲学者ソクラテスは、文字による記録に頼ると、人は覚える努力をしなくなり頭が悪くなると主張したそうです。時代がかわって現在では、脳のためにはパソコンより手書きが良い、と言われるようになってきています。更に時間が経てば、未来にはまた新たな記録の方法が生み出されるかもしれません。そのとき、手書きはどのように捉えられるようになっているでしょうか。想像してみると面白いですね。
参考 PRESIDENT Online|なぜ、スマホやパソコンではなく手書きなのか? ZEBRA|書字で脳を活性化 日本筆記具工業会|JWIMA通信第26号 お役に立ちます セルフメディケーション|“手書き”は、脳を活性化する FOR M|デキるビジネスマンはなぜ「手書き」にこだわるのか?