自分の幸福感とウェルビーイングの指標がズレていると、不安や不満を抱えたままやり過ごすことになってしまいます。そうなると、のちのち仕事などのパフォーマンスを下げてしまう可能性が……。
新しい研究によれば、「夢」の内容で自分がいま安定しているか・いないかを推し量れるそうですよ。SNS社会におけるウェルビーイングを掘り下げ、新たな夢の研究について説明します。
ウェルビーイングとは?
「ウェルビーイング(well-being)」とは、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを示す言葉です。いわゆる幸福・安寧であるということ。企業が経営や組織について考えるときに目安となる、概念のひとつなのだとか。世界保健機関(WHO)でも基本人権のひとつとして位置づけられ、国連の「持続可能な開発目標」にも設定されているそう。
ちなみに、客観的ウェルビーイングは所得や地位などが指標となり、主観的(個人的)ウェルビーイングは、生活満足度等が指標とのこと。2015年の論文では、客観的ウェルビーイングに、主観的ウェルビーイングを加味したものが、社会的ウェルビーイングであるという方向性が示されています。
「幸福感たっぷりの自分」は本物か?
しかし、SNSが大きな影響を及ぼす昨今、客観的ウェルビーイングの指標は社会経済的地位だけではなく、「健康的な生活をしている」「仕事や勉強、家事をしっかりやっている」「仲間と楽しく過ごしている」「意識が高い」といった“見え方”の視点になっている可能性が否めません。
もしも、客観的にはウェルビーイングが高い状況にありながら、他者からの「充実しているね」という言葉に違和感があれば、それは何かがズレているということ。自分の奥底にある気持ちに従うことで難を逃れられます。しかし、厄介なのは自覚症状がない場合。実際には幸福感がないのに、客観的ウェルビーイングの指標通り自分が幸福だと思い込むことです。
九州大学名誉教授の藤野武彦氏が創出したBOOCS理論による説明を参考にすると、そうして知的中枢(大脳新皮質)が自分自身の気持ち(本能:大脳辺縁系)を無視し続けていると、カラダの基本的な働きをコントロールする間脳ともども不調になり、脳疲労を起こしてしまいます。
それで心の調子が崩れてしまったら、仕事へのモチベーションを低下させ、生産性を著しく低下させるかもしれません。では、自分の気持ちがいま本当に安定しているかどうか、どう判断したらよいのでしょう? 実は、そこでひとつ紹介したい研究があります。
肯定的な夢を見る人は、覚醒時の心も平穏
フィンランドのツルク(Turku)大学と、スウェーデンのスキーヴェ(Skövde)大学研究者らの新たな調査(2018年8月発表)によると、肯定的な夢を見る人は、目覚めた状態の心も平穏なのだそうです。一方、否定的な夢を見る人は、実際に高いレベルの不安を要しているとのこと。
この結果は、研究者らが参加者にアンケートを記入してもらった後、毎朝の夢の報告と、その夢で得た感情の日記をつけてもらうという行為を3週間続けて得たそうです。
なんだか研究しなくても想像できそうな内容ですが、実は、参加者の自己評価よりも、夢のレポートのほうが、覚醒時の状態とより関連していたそうなのです。つまりそれは、「自分の心が平穏ではないことに自覚症状がない」ということ。この事実が、客観的ウェルビーングを、主観的ウェルビーングと思い込んでいるかもしれない、と考える根拠です。
主観的ウェルビーイングを見なおそう
あくまでもひとつの目安として、もしも否定的な感情を与えらえるような夢が続く場合は、自分の気持ちを抑え込み「一般的な観点で安定した状態」に無理やり当てはめようとしてはいないか、自分自身に問いなおしてみることをおすすめします。
Aさんの場合は週末仲間とキャンプに出かけ、自然とたわむれることで癒され、また仕事へのモチベーションが高まるかもしれません。しかし、Bさんの場合は1人図書館に行き、本とたわむれるほうが効果的かもしれないのです。
協調性も大事ですが、個々のウェルビーイングも大切です。気にかかる夢、ちょっとした気持ちの違和感は、無視せずに応えてあげましょう。
*** 最近の研究では、高い知的生産性を目指すために、「人間の能力を引き出すウェルビーング(幸福)」が考慮されているといいます。ぜひ、主観的ウェルビーイングを大切にして、仕事のパフォーマンスを高めてくださいね。
(参考) Medical News Medical Articles|People with more peace of mind in waking state have positive dreams Scientific Reports|Peace of mind and anxiety in the waking state are related to the affective content of dreams 講談社(1/4)|現代ビジネス|Facebookの「つながり」は人間を幸福にするのか、に対するひとつの答え(ドミニク・チェン) 社会保険労務士 鷲見事務所|メンタルヘルス問題が及ぼす影響 『日本の人事部』|「ウェルビーイング」とは? 脳疲労概念【BOOCS公式サイト】|脳疲労とBOOCS|脳疲労とは 金井雅之(2015),「ソーシャル・ウェルビーイング研究の課題」,ソーシャル・ウェルビーイング研究論集,ソーシャル・ウェルビーイング研究論集第1号,pp.7-22. 齋藤敦子,杉本宏之(2017),「働く場所の柔軟な選択とウェルビーング度の関連性の研究」,2017年春季全国研究発表大会,経営情報学会.pp245-248.