「当たり前のこと」がいつも「正しいこと」とは限りません。入社以来、なんの疑いもなくやってきたそのやり方。上司や先輩から教えられたあのやり方。それ、「じつは効率が悪い」仕事術かもしれません。
頑張っているつもりなのに、どういうわけか仕事が遅い……。
なぜか仕事が片づかず、いつも残業続き……。
そんなあなたは、以下にご紹介する4つの「じつは効率が悪い」仕事術から脱却しましょう。
効率が悪い仕事術1.「即レス」する
メール、チャットなどに「即レス」をするのは、社会人としての常識とされています。たしかに、返事が早いほうが先方には何かと都合がいいですし、「仕事が速い人」という印象も与えられるでしょう。
しかしそれは、あくまで「印象」の話。仕事の「効率」を考えるなら、メールに即レスするのはおすすめできません。なぜなら、マルチタスク状態が生まれるから。
世界的ベストセラー『SINGLE TASK 一点集中術』著者のデボラ・ザック氏は、「マルチタスクを試みると、情報処理能力を低下させるコルチゾール(別名ストレスホルモン)が分泌される」と述べています。(ダイヤモンド・オンライン|いつも「集中できない」人は脳が縮んでいる!? より引用)
たとえば、資料づくりの最中にメールが届いた場合。メールに即レスしようとすると、「資料作成」という作業と「メール返信」というタスクが競合し、マルチタスク状態になりますよね。これにより脳にストレスが生じ、作業効率が落ちてしまうのです。
実験心理学の専門誌『Journal of Experimental Psychology』(2001年)でも、マルチタスクによって生産性が40%も低下することが示されています。
もし即レスが必須でないのなら、メール業務にはたとえば以下のようなルールで取り組み、マルチタスクを減らす工夫をしてみてはいかがでしょうか?
- メールの通知は切っておく
- メール対応は「1時間に1回、10分間」などと頻度を決め、まとめて返信する
効率が悪い仕事術2.「マウス」に頼る
パソコン操作のため、当たり前のように使っている「マウス」。これを使わないようにするだけで、作業効率を大幅に高められる可能性があります。
“ショートカット・Outlook研究家” として生産性向上術を研究する森新氏は、マウスを使わないことによる作業効率について、「キーボードをどのくらい使い倒せるかによって、24倍もの差が生まれた」と述べています。(ダイヤモンド・オンライン|エクセルで発覚!仕事が「できる人」と「できない人」を隔てる決定的な差とは? より)
森氏が言う「キーボードを使い倒す」とは、すなわち「ショートカットキーでパソコンを操作する」ということ。
ソフトを立ち上げる、ウィンドウを閉じる、タブを切り替える、検索をする……。そのたびごとに、マウスでカーソルを動かしクリックするのではなくキーボードで操作する癖をつけるだけで、あなたの仕事の生産性は大きく高まるのです。
マウスに頼りきりで、あまりショートカットキーを知らない方でも、「マウスを使いたくなったら、その操作をショートカットキーでできないか調べてみる」ということを習慣化すれば、少しずつマウスを手放していけるはず。
参考までに、パソコンの基本操作に関わるショートカットキーを図にまとめてみました。こちらの記事『「余裕で仕事を速くこなせる人」になるために、ぜひ知っておきたい “たった9個” の知識」』と合わせてぜひご覧ください。
(画像引用元:STUDY HACKER|「余裕で仕事を速くこなせる人」になるために、ぜひ知っておきたい “たった9個” の知識」)
効率が悪い仕事術3. メールを「フォルダ分け」する
届いたメールを、企業ごと、案件ごとなどに「フォルダ分け」している人は多いでしょう。しかしこのような仕事術も、効率の面では無駄になる可能性が高いもの。
前出の森氏によれば、メールをフォルダ分けすると、
- 「中身を見るには、その都度フォルダーを開かなければならず、かえって手間が増える」
- 「分類できないメールが一定数存在し、かえって作業が複雑になる」
などのデメリットが生じてしまうのだそう。(カギカッコ内引用元:ダイヤモンド・オンライン|最も効率がいい「Outlookのメール整理術」はコレだ!)
たとえば、これまで「プロジェクトA」「プロジェクトB」……と案件別にメールをフォルダ分けしていたとしましょう。プロジェクトAについてのメールに「別件ですが、プロジェクトBについて……」と、異なるフォルダに分類すべき話題が出てきてしまうと、分類先に迷いますし、迷っている時間も無駄ですよね。
このように、きちんと整理するつもりでやっている「メールのフォルダ分け」が、かえって無駄を生んでしまうことがあるのです。身に覚えのある方もいるのではないでしょうか?
上記のデメリットを回避する方法として、森氏は次のことをすすめています。
フォルダー分けはせずに、検索しやすいように1つのフォルダーに保存し、必要なときにキーワード検索するのが最速の整理術なのです。
(引用元:同上)
ただし、受信トレイにすべてのメールを入れたままにしておけばいい、というわけではないようです。
「読んだメール、対応が終わったメールは別の場所に格納する」のがよいと森氏。「受信トレイには未処理のメールだけ」を残せば、受信トレイがToDoリストのようになり、返信すべきメールがどれなのかひとめでわかるようになるからです。
細かなフォルダ分けはしない。やることは、対応済みのメールを受信トレイから移動させるだけ。必要なときはキーワード検索すればいい――これで、メールの管理がとても楽に効率よく行なえるはずですよ。
効率が悪い仕事術4.「定型文」のメールを送る
メールを書く時間を短縮するのに便利な「定型文(テンプレート)」ですが、頼りすぎは禁物。時と場合によっては、メールの定型文がふさわしくないこともあります。
ビジネスメールの第一人者・平野友朗氏は、著書『仕事が速い人はどんなメールを書いているのか』のなかで、「メールを送るのが初対面の相手」の場合「あなた自身の言葉で、あなたにしか書けない内容を盛り込むことを忘れないでください」と述べています。
明らかに定型文だと悟られるようなメールを送っても、初めてメールを送る相手の心を動かすことはできず、返信をもらえない可能性があります。つまり、効率重視で定型文に頼りすぎると、結局メールの目的を果たせず、かえって非効率的な結果に陥ってしまうのです。
平野氏いわく「面識がない人へのメールは “ラブレター” のように書く」のが吉。
定型文を使うとしても、具体的な情報や自分の感想などを盛り込めば、“定型文をコピーしただけ” という印象をなくすことができるでしょう。
×NG:定型文に頼りすぎたメール
このたび、貴社の担当をさせていただくことになりましたので、ご挨拶のためご連絡いたしました。
……どの企業にも使い回せる文章なので、相手の心に刺さらない。
◎OK:定型文に頼らないメール
このたび、貴社の担当をさせていただくことになりましたので、ご挨拶のためご連絡いたしました。貴社の○○というサービスの「〜〜」という理念には強く共感しておりましたので、この度、担当に就けましたことを大変嬉しく存じております。
……定型文的でない情報が含まれているので、相手の心に刺さりやすい。
(※例文は、平野氏著『仕事が速い人はどんなメールを書いているのか』を参考にして筆者が作成した)
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「即レスする」「マウスに頼る」「メールをフォルダ分けする」「定型文のメールを送る」。これら4つの「じつは効率が悪い」仕事術を “捨てる” ことで、仕事の生産性アップを図りましょう。
(参考)
ダイヤモンド・オンライン|いつも「集中できない」人は脳が縮んでいる!?
American Psychological Association|Executive Control of Cognitive Processes in Task Switching
American Psychological Association|Multitasking: Switching costs
ダイヤモンド・オンライン|エクセルで発覚!仕事が「できる人」と「できない人」を隔てる決定的な差とは?
ダイヤモンド・オンライン|最も効率がいい「Outlookのメール整理術」はコレだ!
平野友朗(2017),『仕事が速い人はどんなメールを書いているのか』, 文響社.
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。