「スマートフォンは、常に手元に置いておく」
「メールやSNSの通知があると、すぐにチェックする」
「テレビを観ながらスマホチェックするなど、“ながら行動” が多い」
現代人の多くが、1日中スマートフォンやパソコンと共に過ごしていることでしょう。
デジタルは、私たちの日常に欠かせない存在となっていますが、その一方で、デメリットの多いものでもあります。特にスマートフォンは、肌身離さず持っている人がほとんど。このような状況は、数十年前には考えられなかったことで、人間の体はまだまだ追いついていません。
今回は、デジタルを生活になじませすぎると、かえって「仕事ができない人」になりかねない理由をご紹介します。これを読めば、仕事中はスマートフォンの電源を切りたくなるかもしれません。
「スマートフォン利用時間」と「頭のよさ」は反比例する
近年発表された研究では、頭のよい人ほど、スマートフォンの検索エンジンを使う時間が少ないということがわかっているそう。ウォータールー大学の研究チームが、660名の被験者を対象に、これを証明する実験を行なっています。
まず、被験者の知性を測ったのちに、被験者のスマートフォン利用について調べました。すると、問題解決に挑む際、知性の高い被験者のほうが、スマートフォンの検索エンジンには頼らずに、自らの思考力に頼る傾向があることが判明。反対に、問題を深く分析せずに直感で答えを出そうとする人ほど、スマートフォンの検索エンジンに頼る傾向があったそう。
研究チームは、知性の低い人のほうが、スマートフォンを脳の一部として頼りにする傾向があると結論づけています。研究に携わったペニークック博士いわく、これらの結果は、スマートフォンで検索するほど頭が悪くなるという証明にはならないものの、知性の低さとスマートフォンを利用する頻度には関係性があるということはたしかなのだそう。
知性の高い人のほうが物事をよく知っていて、自分の頭で考える習慣があると考えられます。逆説的に考えると、検索エンジンに頼りすぎずに自分の頭で考えるクセをつけたほうが、思考力が高くなりそうですね。
「マルチタスク」でミスが増え、クリエイティビティも減少
仕事中もスマートフォンを常に手元に置いていたり、通知が鳴るたびにメールやSNSをチェックしたりする人は、複数のことを同時に行なう「マルチタスク」状態になっています。マルチタスクは、仕事ができるビジネスパーソンの特徴のように思えるかもしれませんが、実際は能力を低下させてしまっているのです。
「人間の脳はマルチタスクができない」ということは、これまで多くの研究者が断言しています。マルチタスクは、複数のことを同時にこなしているように見えますが、じつは次から次へと意識を切り替えているだけなのです。
たとえば、パソコンで資料をつくりながら、スマートフォンでメールの返信をしている人は、これらを同時に行なっているのではなく、意識を資料づくりからメール作成へ切り替え、また資料づくりへと切り替え……を繰り返していることになります。
マルチタスクに関する研究をしているデビッド・メイヤー博士によると、同時に複数のことをやろうとすると「スイッチ・コスト」がかかるのだそう。つまり、スイッチ(切り替え)するたびに、コスト(代償)がともなうということ。何度もタスクを切り替えることによって、ミスが増えたり、生産性が下がったり、クリエイティビティが減少したりするのだとか。マルチタスクをすると、脳のアウトプット能力は、なんと40%も減ってしまうそうです。
同時にやろうとはせず、落ち着いてひとつのタスクを終わらせてから、次のタスクに取り掛かることを習慣にしたほうがよさそうですね。
スマホ・SNS中毒になっている人の脳は、パチスロ中毒の人と同じ状態
TwitterやPokémon GOなど、多くの人々が熱中するアプリには、脳の報酬系に直接働きかけ、中毒になる仕掛けが組み込まれています。
投稿した写真に「いいね」がついたときに感じる喜びは、ギャンブル好きの人が賭けに勝ったときに得る喜びと同じ仕組み。賭けるたびに報酬があるとは限らず、何回かに1回、望んだ結果を得られるという仕組みが、人間の脳にとって快感だからです。スマートフォンを開いたときに、メッセージアプリに赤い通知がついていたときの喜びも、同じことが言えます。
カジノのスロットマシーンと、スマートフォンのアプリには、社会哲学者のB・F・スキナー博士が提唱した「Variable ratio schedule(=予測できない、変動する、スケジュール)」というテクニックが使われています。どちらにも、計算された、人間には予測できないスケジュールで報酬が与られる仕組みがあり、人間の脳がやめられなくなる設計でつくられているのです。
これらのテクニックは、SNSやゲームアプリだけでなく、インターネット上のあらゆるページに組み込まれています。通販サイトで不定期に行なわれるセールや、旅行サイトに次々と現れては消えるお値打ち商品も、常に表示されるのではなく、たまに表示されるからこそ、見かけた瞬間に飛びつきたくなるのです。
もちろん、インターネットやSNSを排除するべきということではありませんが、仕事中にスマートフォンに通知が来ていないか気になることは、仕事中にスロットマシーンをやりたくなるようなものだと理解したほうがよさそうですね。デジタルのエンタメは持ち歩けてしまうので、自らの意思で適切な距離を保たなければなりません。
たとえば、仕事中はスマートフォンの電源を切る、メールチェックは決めた時間にのみ行なうなど、工夫をしてみてはいかがでしょう。
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常にインターネット環境とつながっている現代はとても便利ですが、それによって私たちは疲弊しています。通知が鳴ったらすぐに返信する人は、クライアントにとって「便利で信頼のできる人」にはなれるかもしれませんが、それと同時に自身の能力を低下させているかもしれません。デジタル機器と上手に距離をとり、タスクはひとつずつ終わらせていくほうが、結果的には充実したアウトプットができるでしょう。
(参考)
University of Waterloo|Reliance on smartphones linked to lazy thinking
Science Direct|The brain in your pocket: Evidence that Smartphones are used to supplant thinking
Insider|This is what your smartphone is doing to your brain — and it isn't good
American Psychological Association|Multitasking: Switching costs
Bentham Science Publishers|Problematic Use of the Mobile Phone: A Literature Review and a Pathways Model
Psychology Todaym|Use Unpredictable Rewards To Keep Behavior Going
【ライタープロフィール】
Yuko
ライター・翻訳家として活動中。科学的に効果のある仕事術・勉強法・メンタルヘルス管理術に関する執筆が得意。脳科学や心理学に関する論文を月に30本以上読み、脳を整え集中力を高める習慣、モチベーションを保つ習慣、時間管理術などを自身の生活に取り入れている。