「こうしたい」と思ったことを、「いや、できるわけがない」と諦めたことはありませんか? たとえば、成績を一気に上げたい。誰かを助けたい。夢を叶えたい。でも、いまの自分の実力では難しい、と。
実現不可能だ。そう割りきってしまう前に、考え方を変えてみてほしいのです。不可能を可能にする思考法、「バックキャスティング」をご紹介しましょう。
私たちは「フォアキャスティング」をしている
「こうしたい」と思ったことを「いや、できるわけがない」と諦めてしまうのには、ある思考が関係しています。それは「フォアキャスティング(forecasting)」というもの。
これは、現在から未来を見て、現状の頑張りをこのまま続けると将来どこまで実現できるかを考える思考法です。私たちは、実現不可能そうなことを諦めるとき、無意識にこのフォアキャスティングをしているのです。
たとえば、試験の点数を50点台から80点以上にまで上げたいとします。でも、これまでの成績の伸びから考えると、次の試験はどんなに頑張っても60点台。そこで、「80点には、いますぐは無理だけど、いつかは届くだろうから」と考えて、とりあえず確実に60点をとるためにこれまで通りコツコツ頑張る。これがフォアキャスティングです。
フォアキャスティングの特徴は、リスクが少なく堅実だということ。この思考のもとで立てる目標は、どうしても現実的なものにならざるを得ません。そのため、一見高い目標を「実現不可能だ」と決めつけてしまいがちになるのです。こうして一度無理だと決めつけてしまうと、その目標を実現するのはとても難しくなります。
しかし、先ほどの具体例ならば、理想の80点を “いますぐに” 実現することは、本当に不可能なのでしょうか? ここで実践したいのが、「バックキャスティング(backcasting)」なのです。
「バックキャスティング」という考え方
バックキャスティングとは、未来に立って現在を見る考え方です。フォアキャスティングとはまったく逆の見方。考える手順は、次のとおりです。
- 実現可能そうか不可能そうかとは関係なく、「絶対に実現したい・しなければいけない未来」を決める。
- それが実現した未来に立って、現在までさかのぼり、いま何をすべきなのか考える。
なかば無理矢理にでも未来を叶えるために、現状への妥協を許さない思考法が、バックキャスティングなのです。
SDGsもバックキャスティングで考えられている
バックキャスティングが活用されている事例のひとつが、環境問題です。2015年にニューヨーク国連本部で開催された「国連持続可能な開発サミット」において、17の目標と169のターゲットからなる「持続可能な開発目標(SDGs)」が掲げられました。その達成目標期限は2030年。ここには、貧困・飢餓ゼロ、資源の有効活用(全世界ひとり当たりの食料廃棄の半減)、ジェンダー平等など、それこそ世界レベルの課題が盛り込まれています。
あなたは「そんな難しいこと、あと10年で実現するのは現実的に無理なのではないか」と思ったでしょうか。その考え方こそ、フォアキャスティングです。SDGsでは、「2030年までに絶対に実現する。そのために、いま何をしなくてはいけないのか」という考え方をしているのです。
学校向けにSDGsの教材を編集・発行している一般社団法人Think the Earth理事の上田壮一氏は、次のように述べています。
まさしくSDGsは2030年までに世界中の人が達成すべきゴールを示したもので、目標から逆算して、これまでの方法の延長ではなく、これまでにない方法で、その目標を達成しようというバックキャスティングの思想が色濃く打ち出されたものです。
(引用元:BackcastingLab.|共に世界を変えていく ―目指すはグッド・イノベーション―)※太字は筆者が施した
実際、この考え方のもと、数々の企業が取り組みを行なっています。たとえばキユーピーグループがしているのが、食料廃棄の削減のために、生産・消費段階で失われる食料を減らす工夫。具体的には、賞味期限延長や、商品化できない部分の堆肥・飼料としての有効活用などです。キャベツの芯や外葉などの野菜の端材を、長期保管ができ、かつ乳量を増加させられる乳牛用飼料に再生させることにも成功したのだとか。商品廃棄の削減に加えて、飢餓ゼロに向けた取り組みも行なっているのです。
勉強や仕事で、実際にバックキャスティングをしてみると
では、実際にバックキャスティングを試してみましょう。
試験の点数を一気に30点上げたいときは……
まずは勉強編から。前出の試験の点数の例で考えてみます。50点台を一気に80点以上に上げたいのでしたね。考える手順は、シンプルにこうです。
- 「次の試験で80点以上をとる」を絶対に実現する未来に設定する。
- 次の試験で必ず80点以上をとるために、いま何をすべきか考える。
いままで通りの勉強法では、せいぜい60点台しかとれないのですから、80点以上をとるのはとうてい不可能。そこで、抜本的な工夫をする必要があります。ひとつの案としては、自分のこれまでの試験結果を徹底的に分析し、50点近く落としている具体的な苦手分野を見つけ出す。そして、次の試験までにそこを集中的に強化するという方法が考えられるでしょうか。場合によっては、まったく別の教材で一から勉強し直すというのもありかもしれませんね。
残業を一気にゼロに減らしたいときは……
バックキャスティングは、もちろん仕事にも活かせます。たとえば、普段の残業時間が月30時間ぐらいある人が、それをゼロにしたいと思っているのだとしたら、次のような考え方ができるでしょう。
- 「来月、残業をゼロにする」を絶対に実現する未来に設定する。
- 残業をゼロにするために、いまどのような工夫をすべきか考える。
フォアキャスティング的に地道に頑張るだけでは、微々たる時間しか減らせない……。それならば、勤務時間内に必ず仕事を終わらせるためにいますぐ取り組むべきことを、バックキャスティング的に考えるというわけです。
いろいろなことに気をとられるあまり集中力が続かないせいで、仕事が終わらないのであれば、時間を区切って外部からの連絡やインターネットへのアクセスを一定期間シャットアウトし、強制的に集中する時間を確保することが有効かもしれません。単純作業が多すぎて時間がかかっているのならば、自動でできるシステムをつくるのもいいでしょう。
このように、未来の視点からいまを見て大胆な施策を考えてみると、「いままでのようなやり方しかできない」と考えていたことがちっぽけに思えるものです。新しいアイデアは、いままでの方法から解き放たれなければ見えてこないのです。
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「本当はこうしたいけど、現実的に不可能だよな……」と思ったとき、一度立ち止まってバックキャスティングをしてみてください。一見不可能そうに見えるその目標、「絶対に実現する未来」として置いてみたら、案外可能性が見えてくるかもしれませんよ。
(参考)
一般社団法人イマココラボ|SDGsを実行に移すキーワード「バックキャスティング」とは?
視覚会議|注目の思考法「バックキャスティング」とは
国連広報センター|2030アジェンダ
外務省|SDGグローバル指標(SDG Indicators)
キユーピー|トピックス③ 捨てればゴミ、活用すれば資源
BackcastingLab.|共に世界を変えていく ―目指すはグッド・イノベーション―
Think the Earth
【ライタープロフィール】
梁木 みのり
大学では小説創作を学び、第55回文藝賞で最終候補となった経験もある。創作の分野のみでは学べない「わかりやすい」「読みやすい」文章の書き方を、STUDY HACKERでの執筆を通じて習得。文章術に関する記事を得意とし、多く手がけている。