「一生懸命働いているけれど、なかなか結果が出ない」
「周囲から受ける評価が自己評価よりも低い」
このような悩みを抱え、その原因がわからないという人は多いのではないでしょうか。
じつは私たちは、日々の考え方や習慣によって、知らず知らずのうちに「無能」になっている可能性があります。その危険な兆候と、無能化を防ぐ方法をご紹介しますので、ぜひチェックしてみてください。
人はいつか「無能」になる……!?
残念ながら、いまは有能な人であっても、気をつけていないと無能化してしまう可能性があります。「どんな人でもいつか無能になる」と唱えたのは、南カリフォルニア大学教授の教育学者、ローレンス・J・ピーター氏。有能な人も能力の限界まで昇進すると、そこで無能になってしまうのだそう。
たとえば、次のような例が考えられます。
営業として結果を出していた人が実力を認められ、昇進が決まりマネージャーになりました。ところが、人材を管理する能力は低かったため、マネジメント職に就いてからはすっかり成果を出すことができなくなり、無能化してしまいました。
つまり、昇進によって求められる新しい能力や資質に対応できなければ、無能になってしまうという考え方です。そして、そもそも一度も昇進したことのない “一番下のポジション” で成果を出せていなければ、その時点で無能化しているため、今後の昇進も見込めないということになります。
「どこかのタイミングで昇進がストップし、無能化する」という考え方は少し短絡的だ、と感じる人もいるでしょう。ですが、特に日本企業では、一度昇進した人を降格させたりクビにしたりすることがほとんどありません。そのため、このようなケースが見られる企業は珍しくないと考えられます。
もしも「自分にも心当たりがある」「このパターンに当てはまってしまうかもしれない」「この先、成果を出したり成長したりするのが難しそうだ……」などと感じているのであれば、いますぐ無能化を防ぐ対策を始めたほうがよいでしょう。
いつの間にか「無能」になってる人に見られる危険な兆候4つ
気づかないうちに無能化するのだけは避けたいもの。そこで、いつの間にか無能化してしまう人に見られる危険な兆候を4つご紹介します。ご自身が当てはまっていないか確認してみてください。
当てはまるものがある場合は、無能化している、もしくはこれから無能化してしまうかもしれません。
以下にご紹介する方法で、無能状態を打破して有能な人へと成長していきましょう。
無能状態を打破する方法1:新しいことにチャレンジする
無難に得意なことだけやりがちなAさんの例
仕事に慣れてきて楽をする方法がわかってきた。業務のなかで改善できそうな点もあるし、個人的にもっと頑張れる気もするけれど、意欲が湧かない。面倒なので「いままでやってきた得意な方法」を使い回して、毎日漫然と仕事をこなす。
このような意欲のない状態が続けば、当然成長は見込めず、無能化していってしまうでしょう。
精神科医で国際医療福祉大学大学院特任教授の和田秀樹氏によると、人は体よりも感情が先に老化する傾向にあるそう。
日々、ワクワクした気持ちをもたずに「リスクを避けてひたすら平穏に過ごしたい」などと考えるようになるのは、「感情老化」の兆候なのだとか。感情老化とは、脳の「前頭葉」という意欲や創造性などをつかさどる部分が老化すること。前頭葉が萎縮すると、意欲が湧かない、柔軟性がなくなるなどの症状が出てくるそう。
これを防ぐために有効なのが、新しいことにチャレンジしてワクワクすること。「そんなこと言われても面倒だ」と感じる人は、時間のあるときに「自分は何が一番楽しめるのだろう」と考えることから始めるとよいと、和田氏は言います。
意識的に「楽しい」と感じる時間を増やすことで意欲的になれます。仕事でもチャレンジする姿勢をもてるようになり、無能化を防ぐことができるでしょう。
無能状態を打破する方法2:仕事と関係ないことに没頭する
仕事に関係のない勉強は時間の無駄だと思っているBさんの例
忙しいし、疲れているから、なるべく省エネで過ごしたい。仕事関連の勉強は仕方ないからやるけれど、それ以外の個人的な勉強や趣味に時間を費やすのは、疲れるだけでメリットを感じない。
たしかに、社会人として忙しい日々を過ごしていると、「何事も合理的に動き、無駄なことはしたくない」と考えるかもしれません。しかし、それも無能化の始まりだと言えます。
じつは、さまざまなことに思いをはせたり、一見無駄と思えることに熱中したりすることが、発想力やクリエイティブな力を育てるのです。
脳科学者の茂木健一郎氏は、
- いつも何かをやっていて
- 周囲で起きていることに注意を向けていて
- いままでの成功体験にこだわらず、新しい価値観も受け入れる姿勢をもっている人
は、「セレンディピティ(偶然の幸運)」を生み出すと言います。仕事で言えば、いいアイデアや問題の解決策が浮かぶといったようなこと。
合理性にこだわらず、さまざまなことに挑戦していけば、知らず知らずのうちに発想力を育てることができます。その力が、無能状態を打破する足がかりとなることは、言うまでもないでしょう。
大げさなことをする必要はありません。たとえば、本屋に行って気になった本を手に取るところから始めてみてはどうでしょう。「これはなんの役に立つのだろう?」と考えすぎないことがポイントですよ。
無能状態を打破する方法3:仕事量を調節する
同僚の手助けばかりしているCさんの例
自分が手いっぱいでも、仕事を頼まれると断れない。いつも忙しくて疲れきっているけれど、別の誰かにお願いすることができない。
働き者であることは上司にとって助かるものですし、出世に貢献する要素のひとつだと言えるでしょう。ですが、長期的に見るとデメリットも考えられます。
なんにでもイエスと答える "いい人キャラ" が定着し、同僚に利用されてしまうかもしれませんし、仕事量が常にあふれた状態は「燃え尽き症候群」を招く可能性があるのです。
燃え尽き症候群とは、心のエネルギーが奪われ、仕事のやる気がなくなってしまうメンタル不調の一種。人の行動を科学的に分析するヴァネッサ・ヴァン・エドワーズ氏によれば、これの怖いところは、認知力の低下、ワーキングメモリや発想力の衰えといったかたちで、長期的に脳へダメージを与えてしまう可能性があることだそう。
いくら上司や同僚の役に立てるからといって、無理をすることが成果に直結するとは限りませんし、成長するどころかどんどん脳を衰えさせ、仕事能力を無能化させていては意味がありませんよね。
心当たりのある人は、仕事量について上司に相談する、意識的に休息を増やす、頼まれた仕事になんでもイエスと答えないなど、仕事量を調節する工夫をしてみてはいかがでしょう。
無能状態を打破する方法4:グロース・マインドセットをもつ
興味のあることがあっても、やる前から自信をなくして諦めてしまうDさんの例
社内公募に応募したいけれど「自分には向いていないし、どうせ選ばれないだろう」「実力が足りないし、きっとうまくいかない」と最初から諦めてしまう。
このように「自分にはそもそも力が足りない」と考えがちな人のマインドセットを「フィックスト・マインドセット」といいます。これは、「人の能力は固定的で努力しても変わらない」と考えること。このような考えをする時点で、自ら無能化することを選んでいるようなものです。
無能状態を打破したいなら、その逆の「グロース・マインドセット」をもちましょう。「自分の才能や能力は経験や努力によって向上できる」「たとえ何か失敗をしたとしても、失敗から学んで成長できる」と考えるのです。
スタンフォード大学の心理学教授キャロル・ドウェック氏によると、「自分は成長できる」と信じることで脳は大きく変化するそう。自分を信じることが、じつは成長や成功へのカギなのです。
ドウェック氏がすすめるグロース・マインドセットを育てる方法は以下のとおり。
- 完璧ではない自分を受け入れる:
誰にでも欠点はあるので、個性として受け入れましょう。 - 怖いと感じても勇気を持って挑戦する:
恐怖のない人などいません。それでも挑戦することで楽しくなるし、失敗してもそこから学べばいいのです。 - 承認欲求を捨てる:
他人からの評価を気にしても成長にはつながりません。自分が自分を受け入れ、信じ、評価しましょう。
有能であり続けるために、ぜひこのようなマインドセットを意識的に取り入れていってください。
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きちんと仕事しているつもりでも、じつはどんどん無能になっていっているかもしれない、ということを指摘しました。忙しかったり、プレッシャーを感じていたりすると、立ち止まって考える時間をなかなかとれないかもしれません。そのような人こそ、「無能化」することを意識的に防いで、成長を止めないビジネスパーソンを目指しましょう。
(参考)
カオナビ人事用語集|ピーターの法則とは? 概要、解決方法、個人ができる対策について【創造的無能とは?】
NIKKEI STYLE|体力の衰えより早く来る…「感情の老化」はこう防ごう
GLOBIS 知見録|イノベーションの源泉「偶然の幸運」を引き寄せる3つのAとは?~茂木健一郎ダイジェスト(2)
茂木健一郎(2009),『セレンディピティの時代 偶然の幸運に出会う方法』, 講談社.
Science of People|How to Fight Burnout and Get Unstuck in 11 Empowering Steps
かせ心のクリニック|燃え尽き症候群(バーンアウト症候群)
築山節(2006),『脳が冴える15の習慣 記憶・集中・思考力を高める』, NHK出版.
YouCubed|When You Believe In Yourself Your Brain Operates Differently
キャロル・S・ドゥエック 著, 今西康子 訳(2016),『マインドセット 「やればできる!」の研究』, 草思社.
Dweck, Carol S. (2007), Mindset: The New Psychology of Success, New York City, Ballantine Books.
Boaler, Jo (2015), Mathematical Mindsets: Unleashing Students' Potential through Creative Math, Inspiring Messages and Innovative Teaching, Hoboken, Jossey-Bass.
【ライタープロフィール】
Yuko
ライター・翻訳家として活動中。科学的に効果のある仕事術・勉強法・メンタルヘルス管理術に関する執筆が得意。脳科学や心理学に関する論文を月に30本以上読み、脳を整え集中力を高める習慣、モチベーションを保つ習慣、時間管理術などを自身の生活に取り入れている。