「副業ブーム」とも言える状況にあるいま、「自分も副業をしてみよう」と考えているビジネスパーソンは多くいることと思います。一方で、「副業をどう始めたらいいのかわからない……」といった悩みを抱える人もいるはずです。
そんな人に向けてアドバイスをしてくれたのは、『副業は、自己PRがすべて。』(プレジデント社)を上梓したばかりの戦略的PRコンサルタント・野呂エイシロウ(のろ・えいしろう)さん。副業というと、本業の空き時間に行なうアルバイトのようなものをイメージする人も多いかもしれませんが、野呂さんは、自分のスキルを活かした「個人事業」を始めることをすすめます。
構成/岩川悟・清家茂樹 写真/塚原孝顕
基本原則は「自分のスキルを活かして稼ぐ」
「副業は、本業で磨いた専門スキルを活かした個人事業をする」
これが、最も稼ぎやすく成功しやすい最適解です。「副業の見つけ方」というと特別なことのようですが、要は「仕事探し」です。同じ仕事探しでも、たとえば転職活動なら何を基準に転職先を探すでしょうか?
転職サイトを見ながら、
- まず「自分の経験職種でできそうな仕事」を探す
- 仕事内容をチェックする
- 待遇や給与をチェックする
そうして、いくつか候補を立てて、より具体的に検討していくのではないでしょうか。つまり、基本は「自分のやれることで、より条件のいい仕事」を探すわけです。
副業も同じ考え方だと思います。スキルの面でも割ける時間の面でも、いま自分にできることでより高い稼ぎを得られる方法を考えていくのです。その点では、これまでの本業で磨いてきた専門スキルなら、最も自信をもって価値を提供できるはずです。
そうは言っても、本業で会社員をやっているのなら収入の基盤はあるので、まったく新しい仕事にチャレンジしやすいことも事実です。また、専門スキルを活かした新しい働き方を見つけ出すこともできるはずです。
自分にとっていい副業のあり方を見つけるために、いろいろな稼ぎ方を知り、副業に対する考え方を深めていきましょう。
副業で「会社員感覚」の値つけはNG
そうして副業を始める際には、「値つけ」に注意しましょう。商品に対する「対価」、いわゆる値段には本来、決まりなんてありません。「おいしい水」を飲むために、多くの方はコンビニやスーパー価格の100円か150円しか出したくないと思いますが、高級ホテルのレストランでは1,000円で提供されます。同じように、労働の対価にも決まりはないのです。相手が「それだけの価値がある」と認めれば、1時間の労働で何万円もらってもいいのです。
これから副業を始める人は、まず被雇用者として染みついてしまった対価の固定観念を取り払いましょう。僕たちは長年にわたって、アルバイトでは「時給1,000円なら妥当」とか、会社員では「30歳で年収600万円ならいいほう」とか、世のなかの平均値と比較して自分の評価額を見てきたはずです。
だから副業でも、「1日働いて1万円ももらえたら御の字」と、会社員と同じレートで自分の価値を決めつけてしまうのです。しかも、だいたいは安い値つけをします。副業を考えるにあたり、その感覚は捨てましょう。
たとえばあなたが、ある有名ジムのフィットネス講座を受けるとして、それが1時間5,000円なら妥当な金額ですよね。教室には10人の参加者がいるので、指導するインストラクターは1時間で5万円を稼いで会社に貢献したことになります。でも、インストラクター自身は社員のため、その1時間の労働で5,000円ぐらいしか受け取れないはずです。
では、あなたが個人事業としてインストラクターをやっていたらどうでしょうか? あなたの指導にはメジャーなジムに匹敵するクオリティがあるので、1時間5,000円で募集しても10人の参加者が集まりました。スタジオのレンタル代を差し引いても、あなたは1時間で4万円を稼ぐことができます。時給4万円です。それをわざわざ、「私は1時間働いただけだから!」と言って、5,000円にする必要はないですよね?
社員だったら5,000円しかもらえないことが、個人事業の副業なら適正な対価で4万円にも10万円にもなるし、それが当然の世界なのです。この事業のオーナーはあなたであり、会社のサポートを受けずにあなた自身が掘り起こした仕事だからです。
「会社でExcelを10年使っていた」だけでもビジネスになる
そう考えると、それこそどんなことでも副業になりそうですが、僕が最もおすすめしたいのは、「あなたのもっている専門スキルを活かした仕事」です。なぜなら、本業との相乗効果も高く、何よりみなさんが自信をもって取り組めるからです。
ここで言う「専門スキル」は、必ずしも高度である必要はありません。「経理部門に配属後、公認会計士の資格を取得。いまはMBAを狙っています!」とか、そんな「突き抜けた実績・経験」に基づくスキルでなくてもいいのです。
これまで仕事をしてきた人なら、誰だって何かひとつは専門スキルをもっています。「会社でExcelを5年、10年と使っていました」。それで、十分です。社内でもっとExcelの上手な人が何人いようがかまいません。「まったく使ったことのない人」が相手なら、あなたと同じレベルに達するまでは教えることがたくさんあります。
それに、スキルが不足するなら意欲的に学んで知識を補えばいいのです。少なくとも、あなたはそれなりの年数にわたって現場にいたのですから、新たに覚えたExcelスキルが実務のどんなシーンで使えるかを想像し、経験してきたように伝えることができます。それは、実務経験のない学生がExcelを覚えてもまねできない、たしかな専門性なのです。
問題はそのスキルを活かして「誰に」「どこで」「何を」提供すれば価値のあるビジネスになるかを考え、仮説を立てることです。
- 誰に:必要とされるターゲットを探す
- どこで:ターゲットに届くメディアを選ぶ
- 何を:ターゲットが求めるコンテンツを考える
まずはこの3つを考え、自分のスキルがビジネスになる可能性を探しましょう。
「誰に」「どこで」「何を」売るかを考える
たとえば、IT企業で働いている人なら、自社では当たり前のITリテラシーが、高齢化した中小企業では喉から手が出るほど欲しいスキルに変わります。中小企業の課題解決に役立つITサービスがたくさんあることはわかっていても、基本的なITリテラシーが欠けている人には、サービスのWEBサイトを見ても読み解けないからです。
これはIT業界の悪癖だと思うのですが、英語のビジネス用語を多用し、自分たちのITリテラシーで商品説明をしているのです。これを翻訳して説明してくれる人がいるだけで、サービスの導入を検討することができます。かと言って、IT人材を雇用したり、コンサルタントを採用したりするのはコスト的にも重すぎるので「アドバイザーとして気軽に相談に乗ってくれる人」に需要があるのです。
そこで、「現役IT系社員による企業経営者向けのIT相談」というコンテンツを打ち出し、「初回1時間1万円でご相談に乗ります」とSNSで広めましょう。「中立的で妥当な判断をしてくれる人だな」と思えば、月5万円で週1時間稼働のアドバイザーとして雇用する可能性は高いはずです。そんな「顧問先」を5件も見つければ、週5時間の労働で月25万円を手にすることができます。
- 誰に:中小企業向けに
- どこで:SNSで
- 何を:1時間からの気軽なITコンサルティング
この3つの打ち出し方で、ビジネスの仮説を立てることができます。
自分の仕事のスキルが、いまの会社の仕事以外でどう活かせるかなんて、なかなか考える機会はなかったかもしれません。もし、まるで見当もつかないようであれば、「市場調査」を同時進行でやってみましょう。
自分と同じ職種の人が、YouTubeでコンテンツを配信したり、書籍を出したり、ライターとして活躍していたりするはずです。あるいは、業界内の企業のSDGs活動を調べてみると、子どもへの職業体験教室など、専門スキルを違ったかたちで社会に役立てている例も見られます。「そういう活かし方もあるのか!」とサンプルを得て、少し頭を柔らかくして考えてみましょう。
※今コラムは、野呂エイシロウ 著『副業は、自己PRがすべて。』(プレジデント社)をアレンジしたものです。
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【プロフィール】
野呂エイシロウ(のろ・えいしろう)
1967年、愛知県に生まれる。愛知工業大学在籍中に、学生起業家として活躍後、雑誌編集者に。『天才・たけしの元気出るテレビ』で放送作家としての活動を開始し、『ザ!鉄腕!DASH!!』『特命リサーチ200X』『奇跡体験!アンビリバボー』『ズームイン!! SUPER』といった数々の人気番組を手がける。30歳のとき、大手広告代理店に誘われたのがきっかけで戦略的PRコンサルタントへ転身。TV番組をヒットさせるノウハウを企業PRに生かすなど独自の手腕を発揮。これまでに、大手広告代理店をはじめ、150社以上と契約。自動車会社、家電メーカー、飲食チェーン店、飲料メーカー、学習塾、金融など、分野は多岐に渡る。『考えなくてもうまくいく人の習慣』(ワニブックス)、『入社1年目から差がついていた! 行動が早い人の仕事と生活の習慣』(すばる舎)、『心をつかむ話し方 無敵の法則』『先延ばしと挫折をなくす計画術 無敵の法則』(アスコム)、『プレスリリースはラブレター テレビを完全攻略する戦略的PR術』(万来舎)、『副業は、自己PRがすべて。 「稼ぐ人」が実践する成功戦略』(プレジデント社)など、著書多数。