あなたは最近、絵を描きましたか?
小さい頃は誰もがよく描いていた絵。高校生までは美術の授業で絵を描いていた人もいるかもしれませんが、大学生・社会人になると趣味でもない限り絵を習慣的に描く人はかなり少ないのではないでしょうか。
すっかり遠ざかってしまった「絵を描く」行為に、実はストレス解消や記憶力アップの効果があるとわかったら、いかがでしょう。ちょっとは絵を描いてみようという気になりませんか?
今回の記事では、
「週末などに行なえる趣味を持っていない」
「日常業務から来るストレスを手軽な方法で解消したい」
「資格勉強の暗記がはかどらない。楽に記憶力をアップさせたい」
などの悩みを抱えている人に向けて、絵を描く効果をご紹介します。絵に縁遠かった皆さんも、まずは色ペンを手に取ってみてはいかがしょうか?
絵を描くことがもたらしてくれる効果
脳科学の研究により、絵を描くことにはストレス解消や記憶力アップの効果があることが分かってきました。詳しく紹介しましょう。
絵を描く効果1:ストレス解消
アメリカ・ドレクセル大学准教授のギリジャ・カイマル氏らの行なった研究結果によれば、絵などの創作活動を45分間すると、ストレスが解消されるのだそう。
「私は絵が下手だから」と心配する必要はありません。カイマル氏は、ストレス解消の効果に絵の経験の有無やうまい・下手は関係ないことも報告しているからです。
カイマル氏らは研究で、18〜59歳の39名にマーカー・紙・粘土を与え、45分間で好きなものを作るよう指示しました。そして、創作活動中の被験者のコルチゾール値の増減を計測し、ストレス解消効果の有無を判断しました。コルチゾールとは、ストレスに反応して分泌されるホルモンの一種。数値が高いほどストレス反応があることを示します。
測定の結果、創作活動をした被験者の約75%でコルチゾール値の減少がみられました。また、コルチゾール値減少とアート経験有無との間には関連性がないことも判明しました。
アートに携わった経験がない人にとっても、絵を描くことは大いにストレス解消効果が期待できる行為なのです。
絵を描く効果2:記憶力アップ
カナダ・ウォータールー大学教授のマイラ・A・フェルナンデス氏らのチームが発表した研究結果によると、絵を描くことは記憶力に強い影響を与えるのだそうです。研究チームは、学習の際、文字でノートを取るより絵を描くほうがより効果的に覚えられると証言しています。
絵を描くほうが覚えやすい根拠のひとつとして同研究が挙げているのが、「買い物リストゲーム」という実験結果です。「買い物リストゲーム」の実験では、購入すべき30品目を被験者たちに口頭で伝え、被験者を「言葉を文字でリスト化するグループ」と「言葉を絵でリスト化するグループ」に分けました。続いて、両方のグループからリスト化したメモを回収し、30品目を思い出させました。文字と絵で記憶に差異が生じるかを比較したのです。
結果として、絵を描いたグループのほうが多くの品物を記憶している傾向にあることがわかりました。頭に残したい情報は、文字を書くより絵を描いて覚えるほうが記憶として定着するというわけなのです。
具体的にどんな絵を描けばいいの?
絵を描くことでどのような効果が見込めるのか、ご理解いただけたかと思います。ですが、今まで絵を描く習慣がなかった人がいきなり絵を描こうと思っても、「何を描けばいいんだ」と迷ってしまうことでしょう。
基本的には、どのような絵を描いたとしても上で説明した効果が期待できます。とはいえ、せっかく絵を描くのなら、より効果的な方法で絵を描きたいものですよね。
ここからは、今まで絵を描く習慣がなかった人でも気軽にできる、絵を描く方法をご紹介します。
方法1:覚えたいことをイメージして描く
文字を書くより絵を描くほうが、覚えたい単語を記憶しやすくなるとお伝えしましたね。大学のテストや資格試験などに向けて暗記の必要がある際は、覚えたいことを絵にして描いてみてはどうでしょうか?
日本記憶力選手権で6連覇を果たし、世界記憶力選手権で日本人初の「記憶力のグランドマスター」の称号を得た池田義博氏によれば、覚えたい対象を具体的な映像としてイメージすると、記憶に定着しやすいのだそう。例えば、部屋にあるものと覚えたい情報とを関連させて、映像として頭の中にイメージするのです。
頭の中でイメージをするだけだと、少々覚えにくいと感じる人もいるかもしれません。ならば、脳内のイメージを絵として描いてみてはどうでしょうか。
池田氏が説明する「徳川将軍15人の覚え方」に沿って、具体的な手順を紹介しましょう。
【手順1】
家にある物を玄関から順にたどって、それぞれ1〜15の番号をつける。番号と物、将軍の名前とをひもづける。
例:
- ベッド → 家康
- カレンダー → 秀忠
- 時計 → 家光
- 机 → 家綱
- 本棚 → 綱吉
……
……
【手順2】
漢字などのキーワードから連想するものを、突飛な発想で強引に映像化する
例:
- ベッド+家康 → ベッドの上に鉄アレイが乗っている(「康」の字から「健康」なイメージを連想)
- カレンダー+秀忠 → 「忠」犬ハチ公のカレンダー
- 時計+家光 → 時計が「光」輝いている
【手順3】
上で強引に連想したことを、絵に描く
といった具合に、覚えたい単語からイメージできることを部屋のアイテムと関連付けて、絵にして描いてみましょう。暗記を助けてくれます。
方法2:塗り絵
絵を描くことによるストレス解消効果を、自分で一から絵を描かなくても得られる方法があります。塗り絵です。
ひと昔前に「大人の塗り絵」が一大ブームとなりました。塗り絵には脳を活性化する効果があることから、老化防止目的として塗り絵が大いに注目されたのです。
実は塗り絵は脳トレとして役立つだけでなく、高いリラックス効果が期待できる方法でもあります。塗り絵のリラックス効果について、杏林大学医学部教授で精神科医の古賀良彦氏は以下のように語っています。
最近注目されているのは、幅広い年代向けの“ストレス解消”が目的です。ストレスを取り除くには『レスト、レクリエーション、リラックス』の“3つのR”が必要といわれていますが、ぬりえはそのすべてを満たしてくれます
(中略)
3つのRのうち、レクリエーションが一番難しいんです。現代のビジネスパーソンは時間に追われているので、休むので精一杯。でも、ただ休むだけではストレスはなくならないんですよね。そこで、少しの時間でリラックスしながらできるレクリエーションとして、ぬりえは最適なんです
(引用元:プレジデントオンライン|大流行「大人のぬりえ」の癒やし効果※太字は筆者が施した)
古賀氏が推奨する、リラックス効果を高める塗り絵の方法は次のとおりです。
- 市販で購入したぬりえの冊子の中から塗りたいページを決める
- 画材を選ぶ(初心者は12色の色鉛筆がオススメです)
- 見本を参考に、配色を考える
- 実際に塗る
また、塗り終わった作品を知り合いに見せたり、SNSに載せたりすると、より効き目があるそうですよ。塗り絵ならば絵を描くより手軽ですし、色鉛筆を使えば手が汚れません。毎日30分の塗り絵がストレス軽減に効くとのことですので、帰宅後に家でゆっくりしている時など、気軽に取り組んでみてはどうでしょうか?
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絵を描くことがもたらしてくれる効果と、初心者でも簡単に始められる方法をご紹介しました。今回の内容を参考に、たまには童心に返って絵を描くことを楽しんでみてはどうでしょうか?
(参考)
Kaimal, Girija, Kendra Ray, and Juan Muniz (2016), “Reduction of Cortisol Levels and Participants’ Responses Following Art Making,” Art Therapy: Journal of the American Art Therapy Association, Vol. 33, No. 2, pp.74-80.
ハフポスト|絵を描くとストレスが減る。下手でもOKみたい(研究結果)
Fernandes, Myra A, Jeffrey D. Wammes, and Melissa E. Meade (2018), “The Surprisingly Powerful Influence of Drawing on Memory,” Current Directions in Psychological Science, Vol. 27, No. 5, pp.302-308.
タウンワークマガジン|記憶力4回連続日本一の池田義博さんに聞く、誰でも暗記が得意になる超・記憶術
プレジデントオンライン|大流行「大人のぬりえ」の癒やし効果
【ライタープロフィール】
森下智彬
大学卒業後、国内外の農業に従事。帰国後はITインフラエンジニアとして都内の企業に勤める。仕事の傍ら、自身のブログを開設・運営を始める。現在は、自身のブログ運営とライターの業務をメインに行っている。